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リング

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27部分:エリザベートの記憶その五


エリザベートの記憶その五

 タンホイザーとその艦隊はチューリンゲンの周辺に展開していた。そして帝国軍とワルキューレ双方に警戒を払っていた。
「帝国軍の動きはどうか」
 彼はまず帝国軍に関して尋ねた。
「このチューリンゲンに向かってきております」
 参謀の一人ヴァルター=フォン=フォーゲルヴァイデがそれに答えた。
「そうか」
「はい。速度も予想通りです」
「わかった。では警戒を続けよ」
「はっ」
「続いてワルキューレの海賊だが」
「彼等の動きは今一つ掴めません」
 だが今度は帝国のそれとはうって変わっていた。
「掴めないか」
「はい。何か妙な動きです」
「妙な?」
「どうもチューリンゲンに向かっているようには見えないのです」
 参謀の一人の報告が続く。
「どういうことだ」
「これを御覧下さい」
 ここでモニターのスイッチが入れられた。
 そこにはチューリンゲンを中心としてタンホイザーの艦隊、帝国軍、そしてワルキューレの位置がコンピューターグラフィックで映し出されていた。それを行っているのは言うまでもなくローマの生体コンピューターであった。タンホイザーは映し出されたその映像を見上げた。
「問題のワルキューレの行動ですが」
「うむ」
「これが発見された時の位置です」
 その時の位置がモニターに映し出される。
「そして二日前」
 同じ色で違う場所に映し出される。
「次に昨日」
 また同じことが繰り返される。
「そして今日。どう思われますか」
「チューリンゲンには向かって来てはいないようだな」
 タンホイザーはその移動を見て言った。
「むしろ帝国軍に向かっているようだな」
「はい。彼等の狙いは我々ではない可能性があるのです」
 参謀はこう答えた。
「では帝国軍か」
「私はそうではないかと考えるのですがどうでしょうか」
「まだ即断はできないな」
 しかし彼はそれは避けた。
「だがその可能性は高いと見ていいだろう。元々彼等は反帝国の組織だ」
「はい」
「とりあえずは守りに徹する。我々の目的は帝国軍の撃破でも彼等への迎撃でもない」
 それは彼が最もよくわかっていることであった。
「あくまで陛下と市民達をチューリンゲンにまで避難させることだ。よいな」
「わかりました」
 こうして彼等は守りに徹した。その間に帝国軍もワルキューレもチューリンゲンに接近してきたが彼は全く動こうとはしなかった。ただ防御に徹するだけであった。
「今最後の船団が出ました」
「よし」
 彼はその報告を聞いて頷いた。
「そこに陛下がおられるな」
「はい」
 部下の一人であるラインマル=フォン=ツヴェーターがそれに応えた。
「そして公爵の血族の方々も」
「うむ」
 その中には当然ながらヴェーヌスもいる。タンホイザーはそれを聞いて内心安堵した。
「では我が軍も退くぞ」
「はい」
「その船団を守りながらな。撤退する。よいな」
「わかりました」
 こうして彼等もチューリンゲンから退きはじめた。そのまま船団と合流しようとする。だがその時であった。
 突如として帝国軍の艦隊が突出しだしたのである。
「ムッ!?」
 そしてタンホイザーの艦隊を無視して船団に向かいはじめた。彼はそれを見て狼狽した。
「どういうことだ、我々を狙わないとは」
「公爵、それよりも」
 部下達がそんな彼に対して言う。
「今は陛下を」
「う、うむ」
 その言葉に我を取り戻す。そして慌てて指示を出す。
「陛下を御守りしろ」
「はっ」
 この時彼はあくまで主の身の安全を優先させた。自身の家の者のことは後回しとした。
「陛下の乗っておられる船の周りを固めよ。そして御護りしたまま退くぞ」
「了解」
 こうして彼は王の身を守った。市民達は既に殆どが避難しており今いる船団の中でも市民達の船は既に安全な場所にまで避難していた。だからこそ下せた判断であった。
 だが彼はこの時それを知りながらあえてしなかったことがあった。その為に彼は奇異な運命に身を投じることとなるのであった。
 王への護衛に向かう際何隻かの船がはぐれた。どれもオフターディンゲン家の船であった。
「公爵!」
「クッ、仕方がない!」
 すぐに最低限の救援を向ける。だが一隻だけそのまま拘束されてしまった。既に帝国軍とワルキューレの戦闘がはじまっていた。従って拘束したのはどちらかわからない。
 
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