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リング

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184部分:ラグナロクの光輝その三十八


ラグナロクの光輝その三十八

「光の神バルドル、それが卿だ」
「神だと」
「総帥、卿は」
「そう、人であり神なのだ」
 クリングゾルがパルジファルにかわって言った。
「人としての心と身体を持っているが同時に神でもある」
「それが私だと」
「そうだ。それは私とて同じこと」
「何っ、まさか」
「卿は」
「そうだ、私は確かにクリングゾル=フォン=ニーベルングだ」
 彼は彼自身の一つの名を名乗った。
「だが。同時にアルベリヒでもある」
「どういうことだ」
「私は今までニーベルング族であることを知らなかった。ヴァルハラドライブの実験において事故に遭う前まではな」
「ヴァルハラドライブ」
「まさかあの時の」
「知っているか、やはりな」
 クリングゾルはトリスタンとローエングリンの驚きを見て笑った。ニヤリとした、全てを見透かした様な笑いであった。
「あの事故で私は瀕死の重傷を負った。その時に人を愛せなくもなったのだ」
「そうか、そういう意味で卿は」
 タンホイザーもようやくわかった。何故クリングゾルが子をつくれないのかも。彼は事故により男でありながら男ではなくなったのだ。それはこういう意味だったのだ。
「そうだ、私は我等が始祖アルベリヒと同じになった」
 それをクリングゾル自身も語った。
「同時に。アルベリヒと同じになった」
「ということは」
「手前、まさか」
「そうだ、私はヘルの狭間を彷徨った。そこでアルベリヒと会ったのだ」
 ヴァルターとジークムントに答える。
「そして全てを知った。ニーベルング族のことを。そしてアルベリヒのことを。そこから目覚めた時私は」
「アルベリヒと同じになっていたのだな」
「そういうことだ。これでわかったな」
 最後にジークフリートに返した。今彼は人のものとは思えない邪な笑みになっていた。七人の戦士達を見下ろして悠然と祭壇に立っていた。
「私はクリングゾル=フォン=ニーベルングであり、またアルベリヒでもある。私は帝国に入り雌伏していた。全ては我がニーベルング族の帝国を築く為に」
「その為にバイロイトを」
「そうだ」
「クンドリーを」
「メーロトを」
「如何にも」
 彼等に答えてみせてきた。
「イドゥンを」
「ニュルンベルグを」
「ヴェーヌスを」
「全ては。我が帝国の為。そして今ヴェーヌスはラインにいる」
「ラインにだと」
 タンホイザーはそれを聞いてクリングゾルを問い詰める。
「貴様、今何と」
「エリザベートか。あの女は間も無く生まれる。我が妻としてな」
「馬鹿な、子を作れぬ貴様が妻なぞ持って」
「出来るのだ、私には」
 クリングゾルは不敵に笑って述べた。
「我がニーベルング族の科学は人すらも生み出せる。それを使えば」
「くっ」
「我が妻は間も無く再び我が手に入る。そして我が帝国も」
「待て、ニーベルング」
 今度はタンホイザーが問い詰める。
「それはヴァルハラにおいてか」
「それ以外の何処だというのだ」
 彼は不敵にジークフリートを見下ろしながら言った。
「ニーベルングの帝国はヴァルハラにおいてそこから全てを治める。かって神々がそうであったようにな」
「神々が」
「そう、不死の力と共に永遠にな」
「それがイドゥンか」
 今度はトリスタンが彼に問うた。
 
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