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白き竜の少年 リメイク前

作者:刃牙
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白と黒

「口寄せの術!」

煙と共に現れたのは荒々しいチャクラを持った漆黒の獣 黒獅子だった。ただそこに佇むだけで巨大なチャクラが彼らを襲う。幾つものチャクラが組み合わさったナニカが

「どうだ?素晴らしい力だろう。俺の研究の成果だ」

『⁉︎このチャクラは・・・・・・」

ハルマは自身のお腹の底が熱くなると同時に意識が引き摺り込まれていく感覚に襲われる。気付いた時には、檻を隔てて白竜 ハクアと対面していた。黄色い瞳孔。赤い瞳。そして燻んだ白い鱗。その存在は見るだけで人を恐怖させる程の力に満ち溢れている

「何でここに・・・・ハクア!どういうつもりだ!」

ハルマはハクアが自身を呼び込んだのだと理解し、噛み付くように話す。今は時間がないせいでハルマは焦り、苛立ちを隠せないでいる

『ハルマ。あなたに私の力を貸しましょう』

「昔言った筈だぞ。俺はお前のチャクラはいらないってな」

ハルマにとってハクアのチャクラは毒に等しい。ただ、それはハルマだけではないだろう。九尾たち尾獣の力。ハクアたち神獣と呼ばれる獣の力は強大だ。圧倒的且つ国一つ簡単に消せる膨大なチャクラは喉から手が出る程欲しいと思う力なのである。そのせいで彼らは各隠れ里に軍事利用されてきた

人柱力と呼ばれる獣をその身に封印された者たちは、その力の一部を扱う利を得る。しかし同時にその力を幼少の頃からその力を扱える者はその力に溺れてしまう危険性を併せ持っている。一様に人柱力は人の悪意を一身に受けるものだ。化け物として恐れられるだけではない。木の葉で起きた12年前のあの事件を知る大人たちは二人を身に宿す者たちと同一視し、そして家族や友人を失った悲しみ。憎しみから二人を虐げてきた

『この化け物‼︎』

『何でお前みたいな化け物が生きて、あいつらが死んだんだ‼︎』

悪意の捌け口とされたハルマは、その血筋が知られていた為に、他里から狙われてしまう可能性が十分にあった。しかし、そのおかげでハルマは二人の師によって、幼いうちから成長していく事が出来た。ただ、一方でそれが彼の評価を変わりにくくし、努力を認めてはもらえないようにしている。いつも何とも思っていないように装う姿がそれに拍車をかける。いつ牙を剥くか分からないと里人は感じ、結果としてハクアを身に宿すハルマの才は人に恐怖を煽る結果となってしまったのだ。彼の才と態度が里人に対して最悪の考えを常に想定させてしまった

千手においては当主の息子という肩書きが邪魔をした。ハクアが封印されている事を知る者たちは彼を冷遇し、母は違えど、妹であるアズサは彼に冷たく当たる。その母は彼への暗殺未遂を何度も重ねてきた。そして、それを見逃す当主たち。木の葉創設者の一人。初代火影を務めた千手柱間の望む姿からは掛け離れ、偉大な一族に千手柱間の意志を引き継ぐ者は少なくとも宗家には誰一人としていないだろう

里の者たちは復讐されやしないかという恐怖から彼への迫害を一層強める。彼は人を信じることを簡単にできなくなってしまったのである。千手の人間が守ろうとしたならば結果は違ったかもしれない。しかし、千手は守るどころかハルマへの迫害を助長させた。今のハルマは復讐心を無理矢理抑えているようなものだ。仲間がいるから、木の葉を自分の居場所として捉えようとして、認められようと努力している。それがかなわないものと理解しながらも

『だが、今使わなければお前の仲間達は死にますよ。あの獅子は私たちのチャクラが含まれていますから』

だが、ハクアの力は先程も言った通り強大だ。ハルマには力に呑まれない自信がなかった。だからこその拒否なのだ。自分の最後の砦は自身の理性。それを守る為にハルマはハクアの申し出を断ろうとした

なのに、ハクアの言葉が彼を動揺させる。仲間を守る為にはプライドすら捨てなくてはならない。自身の信念を曲げる事すら必要となる時がある。ハルマにはそれが出来るのか。その選択を迫られていた

「どういう事だ⁉︎」

『恐らく私たちの前任の人柱力から採取したんでしょう。彼らには穢土転生がありますからそれぐらいは容易にできる筈ですよ』

ハクアたちのチャクラを含んだ化け物。その力はオリジナルには及ばなくともハクアの力を使わなくては勝てないのは明白だ

『力を貸しましょう。守る為の力を。それしかあなたたち全員が生き残る術はありません』

駄目押しの一言。力に呑まれるようならば自害する事も視野に入れるしかない。ハルマは力を手に入れる代わりに自分を犠牲にする決意をして、力を借りる事を決めた

「・・・・・・くっ。仕方・・・・ない、か」

ハルマを白いチャクラが覆い尽くした




レツたちは黒獅子を観察していた。黒獅子によって周囲の木々は薙ぎ倒された状態で、彼らは位置も把握されているだろう。ハルマは精神世界から戻り、目を覚ました。

「んで、どうすんだ?このままじゃやばいぜ?」

レツがハルマに問い掛けるが、ハルマは問いには答えず、黒獅子と、黒獅子の上に乗る王虎を睨みつけるように見つめていた。その様子をカナはおかしく思ったようだ。小さな声で愛称を呟いた

「ハル?」

僅か数秒の間。ハルマは目を閉じて、息を吸う。そして息を吐くと同時に目を開き、二人に命令するように話す

「・・・・・・お前達は逃げろ。ここからは俺一人で戦う」

二人は驚き、レツが冷静に自分の考えを告げる。勝てない。そう言わせる程に王虎が口寄せした黒獅子の力は強大だ。もちろん、口寄せした王虎自身もだ

「勝てると思ってんのか?あいつを一人でやれる訳ねえだろ!三人で戦わねえと!」

だからこその言葉なのだが、ハルマは静かに同じ言葉を繰り返すだけだった

「逃げろって言ったのが聞こえなかったか?あれは俺一人でやる」

「ハルマ!お前、もしかして一人でやるつもりなのかよ?」

レツの言葉にハルマは淡々と答える。漏れ出し始める白いチャクラ。ハルマの身体をハクアのチャクラが包む。瞳孔が開き、紅い瞳が見える

「ああ。分かったら早く行け。俺ももう、抑えきれない」

蒼い鱗のようなものがハルマの顔半分までを侵食し、犬歯があらわになる。翼と尻尾が生え、竜人というに相応しい姿に変わる。人柱力の第二形態だ

「レツ!」

カナがレツを呼ぶが、彼は険しい表情のままその場に留まる

「早く・・・・行けっ‼︎」

翼が広がり、ハクアのチャクラが開放される。チャクラが波のように押し寄せ、周囲を襲う。レツとカナは身構える暇もなく、風によってその場から引き離されていく。ハルマは二人を飛ばした方向を見ていたが、近くにいない事を確認したのか、ハルマは王虎を睨みつけた。そこは二人の戦場となった

「こいつは⁉︎ははは!面白い‼︎面白いぞ!千手ハルマァ!」

翼を使い、滑空する。目にも留まらぬ速さで空中を舞い、黒獅子の前に移動したハルマは黒獅子の頭に蹴りを見舞う。第二形態となった影響か、ハルマの力は通常の何倍にも跳ね上がっていた

「グウウウゥゥゥゥッ」

後退る黒獅子にハルマは体勢を整える暇を与えず、上空に移動し、口からチャクラの光線を何発も放つ。黒獅子は攻撃を受け、叫び声を上げる。顔、背、首、足と攻撃を受けた場所を起点に凍りつき、身動きを取る事すら出来ない。氷が自身に迫る前に避け、木に移った王虎はその力に感嘆する。ハルマの攻撃に耐え切れなくなったのか、黒獅子が煙を上げて姿を消した。ハルマが第二形態となって行った攻撃は圧倒的というほかない。彼の攻撃は神獣のチャクラを使った攻撃とはいえ、その力には畏敬の念を抱かざるを得ない。例え本人が力に支配され、自我を失っていようとも。いや、だからこそ、その念を抱き、またその力を欲してしまう

「(これが神獣の力。その一端か。黒獅子をこうも容易く)ははは‼︎面白い!もっと見せてみろ!神獣の力を‼︎」








レツとカナの二人はハルマたちがいる場から離れていた。吹き飛ばされた影響で、多少のかすり傷を負っていたが、黒獅子のおかげというべきか。木は倒れたものが多く、さらにハルマの突風で、飛ばされた先に木はなかった。苛立った様子で立ち上がったレツは髪についた葉を落とす

「ハルマのやつ。何でもかんでも自分一人でやろうとしやがって」

その言葉には怒りが含まれていた。レツの気持ちの全てがこの一言で示されていた。すぐ目の前にハルマがいれば今にも殴りかかっていそうなそんな雰囲気がレツには感じられる。しかし、一方のカナはいたって落ち着いた様子を見せていた

「・・・・随分飛ばされたわね」

「早く戻ろうぜ!あいつ一人であのバケモンとやり合わせる訳にはいかねえ!」

レツがハルマのいる場所に戻ろうとしても、カナは動かない。彼女は理解していたのだろう。あの行動が自分たちを守る為のものだと。同時に戻っても死ぬだけかもしれないと、感じ取っていたのかもしれない。暗い表情で、何かを耐えるようにしていた

「ねえ。私たちが言って何か力になれると思う?」

「はあ?何言ってんだよ」

レツは苛立った様子で返事をする。すぐにでもハルマの元へ行こうとしているのが分かる。しかし、カナはそれをさせないようにレツの前に立ち塞がり、話し出す

「ハルの力は私たちより上よ。はっきり言うけど・・・・私たちが行っても邪魔になるだけじゃない?」

「ここにいろって事かよ」

「そうね。私たちが行っても足を引っ張るだけなら行かない方がいいわ。それが今、私たちに出来るチームワークよ」

レツは怒鳴りつけそうになるのをグッと堪え、自身の心を落ち着かせようと小さく息を吐く。あくまで冷静にと、抑揚のない声で彼はカナに語りかける

「それでも。あいつを見殺しになんかできねーよ。行かねえってんなら、行かなくてもいいぜ。でもオレは、いつまでも引きずる後悔はしたくねえ。初めてできたダチを見捨てて、オレは生きるなんてのは無理だしよ」

それに、と彼は言葉を続けた

「後悔するなら、オレはしなかった後悔より・・・・やってできなかった後悔を選ぶぜ」

「まっ!選ぶのは自分自身だけどな!でも、オレはもう決めてる。どっちにすんのかは、自分で決めろよ!」

レツは歩みを止めず、カナの横を過ぎ去った

「っ・・・・あんたに言われなくても、分かってるわよ」

しかし、カナは動けない。まるで見えない鎖が彼女を縛っているかのように。レツの遠くなる背中を見る事しか出来ないでいた

「でも、怖いの。私は・・・・」

零れる涙。それがカナの心の代弁をしているようだった。助けに行きたいという気持ちと、恐怖を抱く気持ち。二つの相反する感情が彼女を襲う

「私は、どうすればいいのよ・・・・・・」 
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