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ドリトル先生と和歌山の海と山

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第六幕その四

「わかると思うよ」
「ううん、日本人ならわかること」
「何かそうしたこともあるんだね」
「そういえばイギリス人だってね」
「イギリス人じゃないとわからない」
「そんなことがあるね」
「その国にいないとね」
 生まれ育っていないと、というのです。
「わからないことってあるよね」
「そうだよね、どうしても」
「そんなことってあるね」
「その辺りがね」
「難しいね」
「それぞれの国の人でないと」
「そう思えるね」
「全くだよ、何ていうか」
 また言う先生でした。
「切腹のことだってね」
「そして他にもあるね」
「日本の中のことで」
「それで他のことでもね」
「あるね」
「そうだね、イギリス人でもあるしね」
 先生は動物の皆が言ったこのことをご自身も言いました。
「その騎士道だってね」
「うん、イギリス人でないと完全にはね」
「どうしてもわからないものだろうね」
「そういうものだね」
「本当に」
「そうだよ、欧州にあるものだから」
 騎士道、それもです。
「欧州の人間でないとわからないものがあるよ」
「その根元にあるものはね」
 どうしてとです、王子も言ってきました。
「僕もわからないよ」
「王子もだね」
「だって僕はアフリカ生まれだから」
 確かにイギリスにいたこともあるけれど、です。
「だからね」
「騎士道はだね」
「ある程度はわかるけれど」
「その根幹は」
「やっぱりわからないよ」
 どうしてもというのです。
「僕もね」
「そうなんだね」
「そして武士道もね」
「日本のそれもだね」
「根幹はわからないし、そして」
「切腹のことも」
「やっぱり僕はわからないよ。三島由紀夫さんもね」
 昭和に活躍した作家さんです、数多くの名作を残しそうして切腹をして死んだことでも知られている人です。
「あの結末はね」
「どうしてもだね」
「何であんなことをしたのかね」
「王子にはわからないね」
「日本語、原文でのあの人の本も読んだよ」
 王子は眉を曇らせて先生にお話しました、キャンピングカーは和歌山市からもう高野山に向かう山の中の道を走っています。
「とても素敵な作品だよ」
「そうだね、華麗な文章だね」
「ストーリーもしっかりしていて」
「人物の書き方も心理描写もね」
「全て見事だよ、そこには確かな知性と教養があるね」
「あんな素晴らしい作品を書けるなんて」
 それこそというのです。
「どれだけの才能、知性があるのか」
「だから戦後日本文学に名前を残しているんだ」
「偉大なまでにね」
「そうなんだ、けれどね」
 それがとです、王子はまた言いました。
「何故切腹したのか」
「ああしたことをしてね」
「それがわからないよ、僕には」
「そうだね、けれど日本人はね」
 三島由紀夫さんのその最期もというのです。 
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