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リング

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142部分:ヴァルハラの玉座その二十三


ヴァルハラの玉座その二十三

「この戦い、元より決死だ」
「決死」
 ジークフリートはここであえて部下達の心の琴線を触れた。海賊にとって命を賭けるということはそれだけで華であるのだ。命を捨て、そこから得られるものにこそ最上の価値があると考えているのである。
「命が惜しい者は来なくていい」
「首領」
 その言葉は当たった。彼等は皆ここで不敵な笑みを返した。
「我々は海賊ですよ」
「うむ」
「その我々が。命を賭けないなぞ」
「馬鹿を言ってはいけません」
「ではいいな」
「はい」
 頷かない者はいなかった。
「喜んで」
「よし」
 すぐにその不気味な黄金色の巨体が発見された。ジークフリートは迷わなかった。
「接舷しろ!」
「はい!」
 半ば体当たりで接舷が行われる。すぐに陸戦部隊を率いたジークフリートが乗り込む。
「いいか、目指すは艦橋だ!」
 彼は敵艦に乗り込むとすぐに指示を下した。
「ニーベルングはそこにいる筈だ!行くぞ!」
「おう!」
 前に立ちはだかる敵達を次々に退けていく。捕虜から情報を聞きながら彼等は瞬く間に艦橋への最後の階段の前まで達した。するとその目の前に彼がいた。
「卿か」
 ジークフリートは目の前にいる男を見て声をあげた。
 青灰色の目を持ち金髪を後ろに撫で付けた気品のある美男子であった。スラリとした長身を丈の長い灰色の軍服とネクタイで覆っている。彼がタンホイザー=フォン=オフターディンゲンであった。
「私を。知っているようだな」
「話は聞いている」
 ジークフリートはそう返した。
「そうか、それは私もだ」
 タンホイザーはジークフリートを敵意の目で見ていた。
「これだけ言えばわかるか」
「話は聞いている」
 ジークフリートはそれには頷いた。
「だが私ではない」
「証拠は?」
「ここにある」
「ここにだと」
「そうだ。ここに卿の奥方がおられる」
「上にか」
 タンホイザーの顔がこれまでになく強張ってきた。
「そうだ。そしてここにはどうやらニーベルングはいないようだ」
「クッ、囮だったか」
「だが。行くのだろう」
「当然だ」
 その気品のある姿からは予想外れの強い声であった。
「そこにヴェーヌスがいるのならばな」
「そうか。では私も行こう」
「卿も」
「帝国を討つという意味において私と卿は同じだ」
 ジークフリートはタンホイザーに対してそう述べた。
「ならば。共に戦いたいのだ」
「・・・・・・・・・」
 ジークフリートはその言葉を聞き暫しタンホイザーの顔を見ていた。だが暫くしてそれに返答した。
「わかった。では頼む」
「うむ」
 ジークフリートはその言葉に頷いた。そして二人は艦橋を昇った。
 艦橋は機械に覆われた黒い部屋であった。そこに金色の髪と瞳を持つ女がいた。
「卿がこの艦隊の司令官だな」
「左様」
 見れば黒い軍服とマントに身を包んでいる。それが如何にも帝国らしかった。
「我が名はクンドリー」
 そして名乗った。
「クンドリー=フォン=ニーベルング。それが私の名」
「カレオール博士のところにいた女か」
「そうだ」
 クンドリーはジークフリートの言葉に答えた。
「そして私もまたここにいる」
「貴様は」
 その言葉を聞いたジークフリートとタンホイザーは同時に声をあげた。
「ジークフリート=ヴァンフリートとタンホイザー=フォン=オフターディンゲンか」
 クンドリーから男の声と女の声両方が放たれていた。異様な声であった。
「私はクリングゾル=フォン=ニーベルング」
「何故ここに」
「我が血族の身体を借りた。卿等に会う為にな」
「クッ」
「オフターディンゲン公爵」
 クンドリー、いや彼女の身体を借りたクリングゾルはタンホイザーに顔を向けてきた。
「卿が探しているのは。この女だな」
「ヴェーヌス!」
 クンドリーの腕の中が輝きそこに一人の美しい少女が姿を現わした。
 
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