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経済侵略

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第四章

「そういうのでした」
「オレンジはアメリカだな」
「はい、そうです。あとトマトは宮崎でした」
 田中はトマトの話もした。
「鰯は北欧でしたか」
「アメリカや北欧から経済侵略して買ったか?」
「まさか」
 即座にだ、田中は荒岩に否定の言葉で答えた。
「そんな筈ないですよ」
「最近東南アジアとか韓国のものも店に出はじめてるな」
「タイ料理のお店なんかも」
「そういうのはどうなんだ」
「経済侵略だの何だのですか」
「そうなるか?」
「貿易ですよ」
 商社の人間としてだ、田中は荒岩に答えた。
「俺達だってそうですよ」
「京都にいてもな」
「海外の人と仕事の話しますから」
 それでというのだ。
「そういうのはわかりますよ」
「そうだよな」
「貿易ですよ」
 田中はまたこう言った。
「海外に行くことも多いですし」
「そこはわかるな」
「そういえば昔部長補佐言ってましたね」
 田中はコロッケで御飯を食べつつ荒岩に言った。
「京大の前で」
「ああ、二十年位前だな」
「はい、あの時経済侵略とか喚いてた連中を見て」
「学生運動のな」
「あの連中がですね」
「そうだ、けれど実際はどうか」
「魚にしてもですね」
 昨日食べた鰯のことと仕事のことを思い出して田中は話した。
「東南アジアで買ってますけれどね」
「鮪だの平目だのな」
「キャットフードにするのを」
「現地に工場も造りはじめているな」
「現地の人達を雇って」
「そうしているがな」
 それがというのだ。
「それは搾取で経済侵略か」
「向こうの人達にはちゃんとお給料払ってそもそも鮪とか平目は」
 こうした魚達はとだ、荒岩は話した。
「実はな」
「あっちの人達食べないですからね」
「アメリカで海胆も買ってるがな、あと商品もな」
 彼等が売りつけているというそれもだ。
「質が悪いとな」
「売れないですからね」
「競争する相手もいるんだ」
 専売ではないというのだ、東南アジアで売る商品も。
「現地の企業、日本企業の間でも競争がある」
「そうですよね」
「しかも搾取なんかしたら相手は貧しくなる一方でな」
「豊かになれなくて」
「商品も買えるか」
 そんな金も持っていないというのだ。
「そうなるからな」
「だからですよね」
「あの時の京大の連中もその漫画の原作者や編集者もな」
「そういうのが全然わかっていないんですね」
「現実を知らないんだ」
 それこそというのだ。
「だからまだそんなこと言ってるんだ」
「そういうことですね」
「まあそのうちな」
「連中のその馬鹿さ加減がですか」
「はっきりするだろうな」
 現実を知らない彼等のというのだ。
「そうなるだろう、そもそもその漫画を読んで御前はそう思っただろ」
「はい、馬鹿なんじゃないかって」
「御前もそう思うし俺だってな」
「その漫画を読むとですか」
「そう思うだろうな」
 田中と同じことをというのだ。 
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