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リング

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100部分:イドゥンの杯その六


イドゥンの杯その六

「これは謎の闇商人です」
「闇商人」
「パルジファル=モンサルヴァートという男が率いる謎の一団です。何でもこれはと思った反帝国勢力に武器を売っているそうです」
「そうなのか」
「彼等についてはまだ詳しいことはわかっておりません。盟主であるモンサルヴァートにしろわかっているのは名前だけで男か女かさえ」
「全く不明なのだな」
「はい。申し訳ありませんが彼については帝国以上に謎に包まれています」
「わかった。ならいい」
 とりあえずはそれでよしとした。
「他に情報はあるか」
「あの黒竜のことです」
「あの竜か」
 トリスタンの目がピクリと動いた。
「何がわかったのか」
「どうやら生物兵器の類であるようです」
「生物兵器か」
「はい」
 ホッターは答えた。
「正確に言うならば人口有機体なのですが」
「それがバイロイトを破壊したというのか」
「どうやらその装甲、いえ鱗はかなりの回復能力を持っていたようです」
「回復能力!?」
 トリスタンはそれに強い反応を示した。
「はい。それが何か」
「あっ、いや」
 トリスタンはその言葉を打ち消した。そのうえで言った。
「何でもない。話を続けてくれ」
「はい」
 彼はそれを受けて話を再開させた。
「それと堅固さにより無敵の防御力を持っているようなのです」
「そうなのか」
「全身は青白い放電光に包まれ。そして咆哮すると超波動を発する模様です」
「それでバイロイトを破壊したのか」
 トリスタンにはそれが察せられた。
「成程な」
「あの黒竜はその後行方をくらましています」
「うむ」
「ですが帝国の中にあるのは間違いありません。そしてそれが今中立を宣言している勢力及び敵対勢力にとってこれ以上はない程の圧力となっております」
「そうだろうな」
 これもトリスタンにはすぐにわかった。今度は政治家としてわかったのである。
「バイロイトを完全に破壊した。恐るべき兵器として」
「はい」
「そしてそれを作り上げた技術もだ。このままいけばニーベルングの帝国はいずれはこのノルン銀河を統一することになるだろう」
「ではニーベルングにつきますか?」
「いや」
 だが彼はそれには首を縦には振らなかった。
「ニーベルングに銀河を渡してはならない」
「何故でしょうか」
 ホッターは主の言葉を待った。トリスタンはその言葉から自分自身の決断を迫られていると同時にその力量も見定められていることもわかった。
 そして彼はそれを受けた。そのうえで口を開いた。
「あの男はバイロイトを破壊した」
「はい」
「あの星には多くの者がいた。だが彼はそれを完全に破壊した。そして多くの者の命を奪った」
 彼が言うのはそこであった。
「それは。統治者として許されない。無闇な血を欲する者を」
「では」
「そうだ。今ここにカレオール藩王として達する」
 彼は言った。強い毅然とした声になっていた。
「私は帝国に従うことはない。何としても止める」
「では出陣ですね」
「そうだ。指揮は私が執る」
「藩王自らですか」
「カレオール王家の家訓だ」
 彼は言った。
「戦場においては必要とあらば自らも赴く。今はその時だ」
「はい」
 ホッターは頷いた。その家訓のことは彼もよく知っていた。だからこそ頷いた。
「まずは周辺の星系と条約を結ぶ」
 外交からはじめていた。
「友好相互援助条約をな。よいな」
「わかりました」
「そのうえで兵を動かしていく。帝国の勢力圏及び友好的な勢力を倒していく」
「兵力は」
「五個艦隊だ」
 今カレオールにある全戦力であった。
「それで以って攻撃に出る。よいな」
「御意」
 こうしてトリスタンの行動は決まった。ホッターはそれを受けて部屋を後にする。トリスタンはその後姿を見ながら政治とは別のことを考えていた。
 
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