おぢばにおかえり
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124部分:第十七話 梅雨ですその二
第十七話 梅雨ですその二
「あの鹿が」
「凄いよ。何でも食べるし」
草食性だった記憶がありますが。
「子供のお弁当だって雑誌だってね」
「そうなの」
嘘みたいなお話です。本当に信じられません。
「食べるし襲い掛かってくるし」
「うわ・・・・・・」
本当にかなり悪質みたいです。話す彼の顔も顰められて雰囲気まで醸し出しています。見れば表情が少し暗いというかそんな感じにもなっちゃっています。
「そんなに酷いの」
「ちょっと悪戯したら隙を見てやり返してくるしね。悪質なんだよ」
それはこっちも悪い気がしますけれど。それでも私がイメージしていたのとはかなり違うのがわかります。聞きたくなかったお話です。
「そんなに」
「だから。嫌いなんだよ」
あらためてそれを言われました。
「鹿はね。その鹿の野生のやつが出る程田舎なんだよ」
「そうなの」
「山に行けば熊だって出るしね」
六甲の奥みたいです。これもまた信じられないことでした。
「無茶苦茶凄いんだから」
「ううん」
「そんな場所に住んでいるんだ」
またあらためて言われました。
「だから正直あれだよ。ここが結構都会に見える時もあるよ」
「ここで都会なの」
また別の子が話に入ってきました。女の子です。この娘も自宅生ですけれど彼女は中学校が天理中学でした。ですから彼とは結構事情が違います。
「ここだって商店街を離れたら凄いんだけれどね」
「それでも俺が住んでる場所よりはずっと凄いさ」
だそうです。どんなのなんでしょうか。けれど鹿の話を聞いてそれが嘘だとは思えなくなっています。
「鹿だぜ、鹿」
「わかるわ、鹿って聞くとね」
彼女も頷くことしきりです。本当に同感なのがわかります。
「同じ奈良県民としてね」
「そうだよ。しかもな」
ここで話が変わりました。
「猿とか熊も出る」
「猿に熊!?」
ちょっと。考えられないお話でした。そんな場所だったなんて。神戸ではそんなのは絶対に出ません。お猿さんなんてそれこそ動物園とかでだけしか見たことないです。
「そんなのも出るの!?」
「出るさ。猪もな」
「そうなの」
びっくりしたなんてものじゃありません。おぢばじゃ絶対に考えられないことです。当然神戸でもです。本当に凄い場所なんだってことがわかります。
「田舎だってわかるだろ?杉も多いしな」
「花粉大変でしょ」
「滅茶苦茶大変だよ」
その自宅生の娘に応えて言っています。私は花粉症ではないですけれどそれでも花粉症はかなり辛いって聞いています。それで教会に相談に来られる信者さんもおられます。
「見えるんだから。花粉が風に吹かれて」
「うわっ、それはまた」
「そんなのだからな。何かと大変でな」
「困った場所みたいね」
「冬はここよりずっと寒いしな」
またしても衝撃の言葉でした。おぢばより寒い場所があるなんて。東北とかならともかく同じ奈良県でそんな場所があるんですね。これも驚きです。
「夏は涼しいかな」
「そうなの」
「ああ、雨は同じだぜ」
ただこう付け加えてきました。
「同じだけ降るからな」
「そうなの」
「それでも。ここよりは幾分涼しいからな」
そう言いながら上を見上げています。そこにあるのは扇風機です。暑い時はやっぱり助かります。けれどこれがない学校も多いって思うと複雑な気持ちになります。
「助かるよ」
「ここじゃ困るのね、やっぱり」
「痛いところ言うな、おい」
彼女の言葉に苦笑いになっています。
「こんなに暑いなんて思わなかったよ、正直」
「夏もっと暑いわよ」
私は彼にこう言いました。今まで聞いていましたけれどこれは自然に言葉が出ました。
「もっとね」
「えっ、そうなんだ」
「だって。夏は梅雨より暑いものよ」
まあ当然ですけれど。本当におぢばの夏は。
「それこそ。うだるみたいに」
「そんなに・・・・・・」
私の話を聞いて絶句してしまいました。悪いことしたのかも。
「おぢばがえりの時なんか特にね」
「そうよねえ」
自宅生の彼女も私の言葉に頷きます。
「凄いなんてものじゃないから」
「湿気も凄いし」
「夏が嫌になってきたよ」
もうこんなお話になっちゃいました。おぢばの夏を知っているとこの言葉が余計に響きます。とにかくうだるみたいに暑いんですから。
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