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会ったことはないが

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第四章

「その板垣という者のことは」
「そのこと話しておくぜよ」
「覚えておこう」
 桂は笑って龍馬に応えた、そして実際に後日だった。
 土佐藩の勤皇派として働く板垣と会った時にだ、彼に直接言った。
「君のことは坂本君から聞いている」
「坂本というと」
「そうだ、坂本龍馬君だ」
 整ったその顔での返事だった。
「彼が江戸の千葉先生の道場にいた時にな」
「あの時にですか」
「聞いていた、土佐藩に器が大きい者がいるとな」
「それが拙者だと」
「聞いていたよ」
 既にという返事だった。
「もうね」
「左様でありましたか」
「君の力は聞いている、だからな」
「同じ考えの者として」
「共にやっていこう」
「それでは、しかし」
 ここでだ、板垣は怪訝な顔になった。そのうえで桂に話した。
「拙者はあの者とは血がつながってはおりますが」
「その様だね」
「はい、ですが」
 それでもと言うのだった。
「実は同じ土佐におっても会ったことは」
「ないというのか」
「坂本がそう言っていませんでしたか」
「いや、はじめて聞いた」
 桂は板垣に驚いた顔で答えた。
「そのことは」
「実は我等はお互いにです」
「一度もかい」
「会ったことはありませぬ」
 桂にこのことを話すのだった。
「そうしたことは」
「そうだったのか」
「はい、ですが拙者もあの者のことは聞いていまして」 
 龍馬のことはというのだ。
「凄い者がいるとです」
「思っているのだね」
「大きなことをします、ですから」 
 顔を引き締めさせてだ、板垣は桂に話した。
「今我が殿にお願いをしていまして」
「というと」
「あの者の脱藩のとりなしをと」
「その赦免をだね」
「お願いしています」
「脱藩は大きなことだが」
 それこそ藩にとっては裏切りだ、もっと言えば脱獄の様なものだ。藩主である山内容堂にとって許せるものではない。
 だがその大事に対してだ、板垣は動いているというのだ。
「君はそれをか」
「許して頂ける様にです」
「山内公にお願いしているのか」
「あの者の為、土佐藩ひいては」
「この国の為に」
「そう考えで動いています」
「そうなのか、お互い会ってはいないが」
 桂は考える顔になり着物の袖の中で腕を組んだ、そのうえで板垣に対して言った。 
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