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会ったことはないが

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第二章

「わし等がほんの子供だった頃の話じゃが」
「お願いします」
「一体どんな話でしょうか」
「聞かせて下さい」
「わかったぜよ、ほな話すぜよ」
 龍馬は酒と軍鶏の味を楽しみつつ話をはじめた、その話はというと。
 龍馬はその頃ほんの子供だった、塾はあまりにも出来が悪く追い出され剣術の方がようやく見られた頃だった。
 だが幼い頃の泣き虫で寝小便垂れの名は残っていてまだ彼を悪く言う者は多かった。
 それで末の姉のおとめにはよく怒られていた、だがそのおとねの教えの介もあってか剣術の腕は徐々に上がっていっていた。
 その彼の話を聞いてだ、乾家の嫡子であり龍馬とは親戚である乾退助はこう言った。
「剣術は出来るらしいな」
「それが最近でな」
「ずっと泣き虫で寝小便ばかりしておったというぞ」
「それもとてつもない馬鹿でな」
「あまりにも出来が悪くて塾も追い出されたぞ」
「しかもやけに縮れた毛でのう」
「おかしな外見らしいぞ」
 乾の周りの者達は彼に龍馬についての話をした。
「お主とは親戚で悪く言うのはどうかじゃが」
「あの者の評判は悪いぞ」
「とてつもない馬鹿者らしいぞ」
「あれは使いものにならぬぞ」
「それを言うとわしもじゃ」 
 こう返した乾だった、龍馬について言う彼等に。
「わしも暴れん坊で大馬鹿者と言われておったではないか」
「それはそうじゃが」
「しかしお主は塾を追い出されてまでではないぞ」
「確かに暴れん坊でよく怒られておったが」
「それでもな」
「織田上総介様も幼い頃はおおうつけだったではないか」
 乾はここで信長の話をした。
「傾いて奇矯な格好をしておったな」
「それでか」
「坂本の次男もか」
「馬鹿でもよいか」
「そう言うのか」
「むしろ若い頃に馬鹿な方がじゃ」
 こうも言う乾だった。
「よいと聞いておるわ、むしろ泣き虫で寝小便垂れだった者がじゃ」
「剣術が強くなった」
「そのことが凄い」
「そう言うのか」
「そうじゃ、わしはそう思うわ」
 こう言うのだった、そして龍馬もだ。
 乾の噂を聞いてだ、おとめにこんなことを言った。
「上士の親戚で乾殿っておるな」
「ああ、あの暴れん坊だね」
 おとめは大柄な身体で腕を組みつつ弟に応えた。
「もうどうしようもなかったっていうけれどね」
「最近随分大人しいそうじゃのう」
「ああ、武芸をする様になってらしいよ」
 おとめも親戚同士なので乾の話を聞いていて知っていて龍馬に話した。
「暴れん坊なのもね」
「治ったんじゃのう」
「そうらしいね」
「暴れん坊が治るなんて凄いぜよ」
「凄いって当り前だよ」
 おとめは乾を褒めた龍馬にむっとした顔で言った。
「大人になったら行いがあらたまらないとね」
「しかしあらたまらないモンもおるぜよ」
 これは龍馬が子供の頃から見ていて知っていることだ。
「高知の町のならず者達はそうぜよ」
「上士の家なら当然だろ」
「上士は威張ってる奴ばかりぜよ」
 こう姉に返した龍馬だった。
「乾の嫡男は威張ることもしないと聞いてるぜよ」
「暴れん坊でなくなっただけじゃなくてだね」
「そのことも凄いぜよ、乾の嫡男は凄いぜよ」
 こう言うのだった、実際に龍馬は子供の頃に板垣当時はまだ乾という姓だった彼にこう思ったのだった。 
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