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儚き想い、されど永遠の想い

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88部分:第八話 進むだけその五


第八話 進むだけその五

 真理はその日はだ。白い優しい生地のワンピースに同じ色の鍔の広い帽子を身に着けてだ。そのうえで須磨の砂浜に向かった。
 そうして待ち合わせ場所の駅前に来た。するとそれと同時にだった。
 義正もそこに来た。彼の今の姿は。
 赤いベレー帽にだ。黒いネクタイにえんじ色のベスト、そして白いシャツに黒いズボンと靴という英吉利を思わせる姿であった。
 その服も丁寧にアイロンがかけられ端整な感じだ。その姿でそこに来たのだ。
 その彼を見てだ。思わずだ。
 真理はだ。こう言ったのだった。
「何か」
「何かとは?」
「源氏の君みたいですね」
 喜久子と麻実子の話を思い出してだった。
「その服は」
「源氏物語ですか」
「はい、何か」
「まさか。私はその様な」
 義正は苦笑いでだ。こう真理に返すのだった。
「ああした見事な人物ではありません」
「いえ、それは」
「それにです」
 義正は真理の傍に来ながらだ。こうも言うのだった。
「今の私の服は洋服ですから」
「それも違うというのですね」
「はい、源氏の君は平安時代の方です」
 それならばというのだ。
「今は大正ですから」
「確かに時代は違いますね」
「はい、ですから」
「けれどです」
 しかしだった。ここでだ。
 真理は一呼吸置いてからだ。こうその義正に話すのだたt。
「義正さんはです。その人格や品格がです」
「そういったものがだと仰るのですか」
「そうです。源氏の君の様です」
 こう言ってからだ。こんな風にも言い加えたのだった。
「あの方から派手な女性遍歴を消した様な」
「そういえばあの方は」
「それがあまりにも目についてしまいますね」
「そうした作品なのですが」
 それでもだというのだ。
「あの人間性は見事なのですが」
「確かに。人間性は」
「実にいいです」
 源氏の君の人間性についてはだった。
 二人も批判めいたことは言わなかった。特にだ。 
 真理はだ。こう言うのだった。
「ああした人が現実にいれば」
「世の中は素晴らしいものになりますね」
「高貴で。清々しく」
 少なくともその人間性はけなされる人物ではないのだ。確かに女性遍歴は派手でもそれが嫌味に見えないのが源氏の君なのだ。
「こうした場にいても本当に」
「映えますね」
「そうですね」
 そうした人物だというのである。
「とてもですね」
「男の側から見ても理想の一つです」
「理想のですか」
「男は。武だけではありませんから」
 それだけではないとだ。義正は言うのだった。
「文もまたです」
「必要なのですね」
「源氏の君に武の色はありません」
「そうですね。あの方に武はありませんね」
「文です」
 当時の貴族達は武を嗜まなかった。あくまで文に生きていたのだ。だからだ。その中で生まれた源氏の君もだ。武とはかけ離れたものなのだ。
 
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