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儚き想い、されど永遠の想い

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73部分:第七話 二人きりでその三


第七話 二人きりでその三

「行きたいんだけれど」
「何処でしょうか」
 怪訝な顔でだ。佐藤は義正に対して問い返した。
「その場所は」
「レコードの聴ける場所だよ」
 そこだというのだ。
「そうしたお店があったね」
「マジックでしょうか」
 ふとだ。佐藤は言った。
「あのお店でしょうか」
「ああ、わかるんだ」
「そうですか。あのお店にですか」
「うん、行きたいんだ」
 こうだ。佐藤に対して話す。
「前に君が言ってくれたよね。あのお店がいいってね」
「はい、それは」
 そのことはだ。佐藤はすぐに認めた。
 そしてそのうえでだ。彼は義正に対してこう話した。
「それでは。土曜日にですね」
「行かせてもらうよ。それでいいね」
「わかりました。ただ」
「ただ?」
「くれぐれも御気をつけを」
 心から心配する顔でだ。義正に対して話すのだった。
「近頃物騒でもありますし」
「あれだね。アナーキストやそういった面々が」
「近頃怪しい主張を言う者が多くなっています」
 大正デモクラシーの光と影だ。民主主義が花開く中でだ。そうした鬼っ子が誕生してしまいだ。テロ活動を起こしてきていたのだ。
 佐藤はそのことを危惧してだ。主に話すのである。
「ああした者達は財閥の人間を嫌っていますから」
「ブルジョワジーというんだね」
「はい、そうです」
 共産主義から来る考えだ。この思想も広まってきていたのだ。
「だからです。くれぐれもです」
「この神戸にもいるんだね」
「東京程にはないにしても」
 それでもだというのだ。78
「やはり。いない訳ではありませんから」
「危険には気をつける」
「目立つ格好は避けて下さい」
 それはだ。くれぐれもだというのだ。
「スーツ程度なら問題はありませんが」
「うん。それじゃあ」
「私も。近くにいますので」
 佐藤がこう言うとだった。義正はだ。
 少し戸惑った顔を見せてだ。こう彼に返した。
「いや、君は」
「私は?」
「できれば。安んでいてくれるかな」
「休んで、ですか」
「うん、やっぱりね。一人で来たいからね」」
 だからだとだ。こう話すのだった。
「そうしてくれるかな」
「いえ、そういう訳にはいきません」
 しかしだった。彼はだ。
 その職務に忠実なところ、義正にとってこの場合はいささか困ったことにだ。それを見せてそのうえで主に対して話すのだった。
「私は御主人様を御護りしなければなりませんから」
「どうしてもっていうのかい?」
「いけませんか」
 声が切実なものになっている。しかしだ。
 彼はだ。あくまでこう言うのだった。
「それは」
「やっぱりね。今回はね」
「どうしてもですか」
「うん、御願いできるかな」
「宜しいでしょうか」
 念を押す調子でだ。また言う佐藤だった。
 
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