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儚き想い、されど永遠の想い

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66部分:第六話 幕開けその十


第六話 幕開けその十

「御話がしたいのですが」
「どうしてもでしょうか」
「貴女さえよければ」
 真理のその黒い琥珀の目を見据えてだ。そのうえでの言葉だった。
「そうさせて下さい」
「私さえよければ」
「駄目でしょうか」
 無意識のうちにだ。義正の目はだ。
 切実なものになっていた。その目で見られるとだ。
 真理は断れなかった。そうしてだった。
 顔だけでなく身体も完全に彼に向けた。そうしてだった。
 自分からだ。義正に対して言った。
「少しだけでしたら」
 少しでは済まない、それがわかっていてもだ。言ったのだった。
「御願いします」
「はい、それでは」
 義正も真理の言葉を受けた。二人は。
 ロビーの一席に座った。幸いにして周りは二人に気付いてはいない。彼等それぞれの世界にいる。そして二人もだ。今二人の世界に入ったのだった。
 向かい合って座ってだ。義正から話したのだった。
「今日の演奏ですが」
「ショパンですね」
「いいものですね」
 こう真理に話す義正だった。
「実ははじめて聴いたのですが」
「私もです」
 ここで真理は素直に真実を述べた。
「実は」
「ショパンを聴かれたのはですね」
「はい、はじめてです」
 また答える真理だった。
「実はそうなのです」
「御互いにショパンははじめてだったのですね」
「そうですね。そうなりますね」
「そうですか」
 それを聞いてわかってだ。
 義正はまずは笑顔になった。そのうえで真理に話すのだった。
「御互いに。はじめてでしたか」
「しかし。素晴らしい音楽でしたね」
「確かに」
「あの音楽なら」
 どうかとだ。真理は話す。
「また聴きたいと思います」
「私もです。是非です」
「はい、また機会があれば」
「聴きたいと思います」
「それではですが」
 ここでだ。義正は提案した。これも自然に出た。
「一度レコードで聴かれてはどうでしょうか」
「レコードですか」
「レコードでは色々な音楽がかけられます」
 これもこの時代になって出て来たものだ。レコードによりだ。音楽は大衆にさらに広まった。音楽が録音されるようになってである。
「その中にはです」
「ショパンもあるのですね」
「はい、クラシックに」
 あるというのだ。ショパンもだ。
「あります。それでどうでしょうか」
「そうですね。それでは」
「それを聴かせてくれるお店もあります」
「お店で。音楽を聴けるのですか」
「そうです。そうしたお店もあるのです」
 こう真理に話すのだ。
「そこはどうでしょうか」
「そうですね。それでは」
 少し考えてからだ。真理は義正に答えた。
「今度。御願いします」
「その店に一緒に来てくれますね」
「それでどうしたお店でしょうか」
 真理はそのことを尋ねた。その共に行くという店がどういった店なのかをだ。義正に対して静かな口調で尋ねたのである。
 
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