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儚き想い、されど永遠の想い

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60部分:第六話 幕開けその四


第六話 幕開けその四

「それが人を苦しめるものならばだ」
「いりませんか」
「うむ、いらん」
 実際にそう考えているというのである。
「わしも若い頃は固い考えだったが」
「今は」
「時代のせいか。変わったわ」
 今度は笑顔だった。父親の優しい笑顔である。
「どうもな」
「そうなのですか」
「相手がやくざ者やどうしようもない奴でない限りは」
「いいのですね」
「そう思うぞ」
 今ではだ。こう考えているというのである。
「御前はどうじゃ。それは」
「私は」
「うむ。どうなのじゃ」
「先程も述べたと思いますが」
「与謝野晶子か」
「素晴らしいと思います」
 彼女のその愛の貫き方にだ。感銘しているというのだ。
 こう話してだ。そのうえでだった。
 父はだ。あらためて話すのであった。
「真理が若しそうした相手を見つけたならばだ」
「その時は」
「わしの前に連れて来るのだ」
 こう彼に言うのである。
「いいな、そうしろ」
「お父様の前にですか」
「どうした相手か見させてもらう。そしてだ」
「そして?」
「その相手が御前に相応しい人格ならばだ」
「それでいいのですね」
「そうだ、それでいい」
 確かな顔と声でだ。娘に対して話すのであった。
 そう話してだ。あらためてだった。父としてまた言うのである。
「御前に相応しい相手ならばだ」
「そうした方ならば」
「その時を待っている」
 まさにだ。正面から待ち受けている言葉だった。
 父親としてだ。そうするとだ。彼も覚悟を決めているのだ。
「わしはそうしているからな」
「わかりました」
「恐れるな」
 娘への言葉であった。
「いいな、全てにおいてだ」
「恐れてはなりませんか」
「勇気という言葉があるな」
 こうした時にはあまり使われない言葉だ。しかしだった。
 父はここであえてだ。こう言ったのである。その言葉を娘に告げたのだ。
「その言葉が」
「勇気ですか」
「そうだ。与謝野晶子だが」
「その方もまた」
「勇気を持っているだから一途になれたのだ」
「勇気と一途は」
「関係があるのだ。無関係ではない」
 その二つはそうだというのである。
「勇気が一途を作るのだ」
「その二つがですね」
「そうだ。勇気は愛についても必要ぞ」
「では私は」
「おなごだからといって勇気が不要ではない」
 それは違うというのである。
「おなごでもだ。男と同じだけ勇気は必要なのだ」
「そして愛にとっても」
「必要なものだ」
 和服の袖の中で腕を組んだ姿勢のまま。強い声で述べたのだった。
「わかるか、そのことが」
「それは」
「今はわからずともよい」
 ここでは言葉が少し穏やかになった。しかし確かな口調なのはそのままだった。その声で己の娘に話をするのである。
 
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