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儚き想い、されど永遠の想い

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480部分:最終話 永遠の想いその二


最終話 永遠の想いその二

「有り難うございます。シェフにもです」
「伝えてですね」
「お願いします」
 こう告げたのである。そうしてだ。
 皿の中のだ。ミルクと共にあるオートミールをスプーンで食べる。そうしてだ。
 真理にだ。また囁いたのだった。
「お水が来ました」
 こうだ。優しい声で囁いたのである。
「飲まれますか?」
 返答はない。しかしだ。
 義正は微笑みつつその場に残っていた。真理の枕元に。
 オートミールを食べ終えてもそうだった。そしてだ。
 その枕元に座っている。それを続けているうちにだ。
 少しずつだ。真理の瞼がだ。
 動きはじめた。それを見てだった。
 看護婦がだ。驚きの声をあげたのだった。
「まさか。本当に」
「そのまさかだよ」
 彼女の傍らでだ。医師が優しい声で述べてきた。
 二人は真理の足元のところに並んで立っている。その場所でだ。医師は看護婦、その彼女に対してだ。優しい声でだ。真理を見つつ述べてきたのである。
「今からね」
「奥様は起きられてですか」
「そして桜を観に行くよ」
 そうするというのだ。
「三人でね」
「ですが。目覚められるだけでも驚きで」
 それだけの体力がもう残っていないというのだ。
「そのうえで、ですか」
「起き上がってだね」
「桜を観に。歩かれるなどとは」
「できるよ。だからね」
「私はそれをですか」
「観るといいよ」
 微笑みだ。そうしての言葉だった。
「人が生きるということをね」
「死ではなくですか」
「死は肉体的なものに過ぎないから」
「だから生きることをですか」
「それを観られるんだ」
「私は。今から」
「そう。一緒に観よう」
 看護婦はここで医師の顔を見た。するとだ。
 その目もだ。非常に優しい。彼女がはじめて見る程に。 
 その目を見てだ。彼女はまた言うのだった。
「では。皆さんと共に」
「観よう。いいね」
「わかりました」
 こうしてだった。彼女もだ。
 真理を観るのだった。彼女は。
 瞼を動かしゆっくりと開ける。そうしてだ。
 自分を覗き込む義正に気付きだ。こう言ったのだった。
「ずっと。傍に」
「少しだけですが」
「そうですか。いらしてたんですね」
 彼の心はわかる。それで充分だった。
 そのことをわかってからだ。真理は義正に対して礼を述べた。
「有り難うございます」
「御礼はいいです。それよりもです」
 ここでだ。彼は手元の小さなテーブルの上に置いてあった水、ガラスのコップの中にあるそれを真理に差し出した。そのうえでこう尋ねたのである。
「飲まれますか」
「お水ですか」
「はい、如何でしょうか」
「それでは」
 真理は義正の申し出を受けた。そのうえでだ。
 ベッドの中から両手を出してだ。身体も起こした。ここでだ。
 義正と婆やがその彼女を支えようとする。しかしだった。
 
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