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儚き想い、されど永遠の想い

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452部分:第三十五話 椿と水仙その三


第三十五話 椿と水仙その三

「首が落ちる、それは即ち」
「切腹ですね」
「戦国には戦に敗れることにもつながるからだと」
「どちらにしてもお武家様には好まれなかったのですね」
「そうした花です。ですが」
「今ではですね」
「それが変わりました」
 そうなったというのだ。
「今ではです」
「むしろ喜ばしい花ですか」
「私はそう思います。何故なら」
「何故ならといいますと」
「冬に見られる花だからです」
 そのことからだ。椿を喜ばしく思うというのだ。
「それではそのお花を」
「はい、今から見に行かれるのですね」
「勿論この子も一緒です」
 今もすやすやと眠っているだ。義幸を見ての言葉だった。
「連れて行きましょう」
「そうですね。この子も一緒でないと」
「意味がありませんから」
 こう話してだった。二人は義幸も連れてだ。
 そうしてだった。義正が案内するその茶室に向かった。
 まだ雪が僅かだが残っていた。茶室や庭の隅にだ。それは氷の様になっており白と銀を見せていた。そしてそのうえでだった。
 庭にあり咲いている椿を見る。その花達はだ。
 赤だった。そしてだ。
「白もありますね」
「そうですね。白も」
「二色の椿が一緒にあるのですか」
「前に来た時は一つだけでした」
 義正はその椿達を見ながら話す。赤と白の。
「しかし増えたのですね」
「どうしてでしょうか」
「それはです」
 二人の後ろからだ。声がしてきた。そこにはだ。
 地味な茶色と柿色の和服を着た老人がいた。髪の毛は奇麗になくなり顔には皺がある。その彼が二人に対して言ってきたのである。
「白いものは私は植えたのです」
「そうされたのですか」
「はい、白もです」
 こうだ。穏やかに二人に話すのである。
「そうさせてもらいました」
「それは何故でしょうか」
「仏蘭西の本を読んだのです」
「あの国のものをですか」
「デュマという作家は御存知でしょうか」
「二人いますね」
 デュマと聞いてだ。義正はだ。
 すぐに二人だと答えた。そうして言うのだった。
「父の大デュマと息子の小デュマですね」
「流石ですね。お二人共ですか」
「父は三銃士や岩窟王を書いていて」
「そして息子はですね」
「そうでしたね。その息子の小デュマが」
「椿姫を書いています」
 そのことをだ。二人で話すのだった。そうしてだった。
 義正はあらためてそれぞれの椿を見る。そのうえで言うことは。
「マリー=デュプレですね」
「彼女のことが心に残り」
「そうしてですか」
「はい、こうしました」
 それで植えたというのだ。白の椿もだ。
「彼女の心の清らかさが心に残りまして」
「彼女は確かに奇麗な心の持ち主ですね」
「娼婦ではありますが」
「はい」
 この時代はさらにだった。偏見のある仕事だった。だがそれでもだったのだ。
 
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