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儚き想い、されど永遠の想い

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444部分:第三十四話 冬の花その八


第三十四話 冬の花その八

「そうした音楽を聴きたいと思います」
「そうですか。では屋敷に戻れば」
「はい、屋敷の中で」
「そうした音楽を聴きましょう」
 心が落ち着く音楽、それとだと話してだった。
 三人は百貨店に寄らずだ。自分達の屋敷に戻った。
 そのうえで蓄音機の前に座りだ。義正はあるレコードを出してだ。
 蓄音機にかけ針を置く。すぐに金属のチューリップから音楽が溢れ出てきた。
 その音楽を聴いてだ。真理は微笑んで述べた。その音楽は。
「シューベルトでしたね」
「はい、そうです」
「アヴェ=マリアだったでしょうか」
「どうでしょうか、この曲で」
「有り難うございます」
 音楽の中でだ。このうえない清らかな顔になってだった。
 真理はだ。こう言うのだった。
「落ち着くだけではありませんね」
「心が清らかになりますね」
「しかも優しくもなれます」
「この曲はそうした曲なのです」 
 義正も微笑んで話すのだった。その音楽の中で。
 義正はそのシューベルトについてさらに話した。
「シューベルトは常に周りに誰かがいてくれることを望んでいました」
「人がですか」
「寂しがりだったと言われています」
 幸いにして彼は常に多くの友人に囲まれていた。
 しかしだ。それでもだったのだ。
「孤独を常に感じていました」
「そうだったのですか」
「常に多くの友人達に囲まれながらも」
「孤独だったのですか」
「それを感じていました」
 そうだったというのだ。シューベルトはだ。
「その彼が作曲した音楽です」
「それがこのアヴェ=マリアですね」
「他の曲も御存知ですね」
「野ばらやそうした曲ですね」
「何度も聴かれてますね」
「はい、何度か」
 真理は過去も聴いていた。だからこそ言えたのだ。
「その音楽の中を聴いていますと」
「心が落ち着かれますね」
「そして清らかで優しい気持ちになれます」
「それがシューベルトです」
 人を恋しがり寂しさを感じていた彼の音楽だというのだ。
「私も彼の音楽を愛しています」
「人を愛している音楽だから」
「そうですね。では暫く」
「シューベルトを聴かれますね」
「そうしたいです」
 ソファーに静かに座り。真理は義正に述べた。
 その清らかさと優しさの中でだった。彼女はさらにだった。
 義正を見てだ。そして言うのだった。
「この音楽ですが」
「シューベルトのですね」
「この音楽はあの子にもですね」
「はい、義幸にも」
「聴かせてあげて下さい」
 これが彼女が今言うことだった。
「そうして下さい」
「無論です。それは」
「そうしてくれますか」
「三人で」
 ここでも三人だった。
「そうしたいです」
「そうですね。それなら」
「はい、それでは」
 こう話してだった。実際に三人でだ。
 彼等はシューベルトを聴く。その音楽をだ。
 聴いているうちにだ。真理は恍惚とした目になりだ。義正に話してきた。
 そしてだ。言うことはというと。
「できればです」
「もっと聴きたいですか」
「いえ、私は満足です」
 その音楽を聴くこと、それはだというのだ。
 
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