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儚き想い、されど永遠の想い

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441部分:第三十四話 冬の花その五


第三十四話 冬の花その五

「あの」
「はい、何でしょうか」
「お茶はどうでしょうか」
 その声での言葉だった。
「粗茶ですが」
「お茶ですか」
「抹茶があります」
 彼女が出すのはその茶だった。
「それは如何でしょうか」
「有り難うございます」
 微笑みだ。義正はその好意を素直に受けた。
「それではそれを」
「そうですか。飲まれますか」
「菊にお茶とは贅沢ですね」
 そこに見るべきものを見てだ。義正はこう言ったのである。
 そしてだった。そのうえでだった。
 その茶についてだ。彼は話すのだった。
「お茶にも幽玄がありますね」
「主人もいつもそう言っています」
「そうなのですか。御主人もまた」
「はい、菊にもお茶にもです」
 茶道のだ。その抹茶にもだというのだ。
「幽玄があると」
「そうですね。お茶にはそれがありますね」
「はい。ただ」
「ただ?」
「それはその時によるとのことです」
 幽玄があるかどうかは。そうだというのだ。
「これは菊にもだと主人は言っています」
「菊に。その様にすればですね」
「幽玄は自然にもありますがそれを確かにするのはです」
「人がそうしてだからですね」
「それでお茶もです」
「特にお茶はですね」
「お茶は。時と場合として幽玄はなくなると」
 婦人の夫、この屋敷の主はそう言っているというのだ。
「幽玄ではなく他のものにもなると」
「確かに。お茶は」
「変わるものですね」
「お茶は詫び、寂びと言われていますが」
 だがそれはだ。変遷するものだというのだ。
「それは基本であって」
「はい、変遷します」
「千差万別ですね」
 義正は茶についてこうも言った。
「まさに」
「そうです。お茶の道は変わります」
「一つのものではありません」 
 義正は婦人に応えまた話した。
「春には春のお茶があり」
「冬には冬のお茶がありますね」
「そして場所によっても」
 茶は変わるというのだ。
「こうして菊の前で飲むお茶もありますね」
「では飲まれますね」
「有り難うございます」
 受けるとだ。義正は応えた。
 そしてだ。真理もだった。婦人に対してこう言うのだった。
「それでは。謹んで」
「お茶を召し上がられますね」
「そうさせてもらいます。では」
 こうしてだった。彼女達はだ。
 その茶を飲むのだった。屋敷の縁側でだ。
 そこに四人で座った。義愛はそこに寝かされた。そしてだ。
 三人で座りだった。顔を見合わせつつだ。茶を飲みだった。
 義正はその抹茶についてだ。微笑んで述べた。
「美味ですね」
「左様ですか」
「こうしたお茶ははじめてです」
 菊の前、冬の茶だというのだ。
「それだけに新鮮で」
「そうしてですか」
「このお茶を知ることができて嬉しく思います」
「有り難うございます。私もそう言って頂いて嬉しいです」
「そうなのですか」
「お茶はおもてなしです」
 このことは千利休の頃から変わらない。
 
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