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儚き想い、されど永遠の想い

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438部分:第三十四話 冬の花その二


第三十四話 冬の花その二

「それはどうしてもです」
「冬にあるのは雪だけだと思っていたのだな」
「妻にはそうは言っていませんでした」
 強がりも見せたのだ。彼女を安心させる手前として。
「ですが実際はです」
「確信は持てなかったのか」
「これまでの冬以上に」
 義正はここで沈痛な面持ちにもなった。
 そしてその面持ちでだ。彼は言うのだった。
「そうなれませんでした。しかしです」
「わし等と話してだな」
「それがですね
「はい、落ち着きました」
 微笑みだ。こう答える彼だった。
「これでまたです」
「三人で行けるな」
「確かな気持ちで」
「確固たることだ」
 父は腕を組みだ。そのうえで我が子に告げた。
「あらゆることにだ。自信を持ってだ」
「そうして進むべきですね」
「その為には知ることだ」
 こうも言う父だった。
「そのことについてな。そうしてだ」
「そうするべきだと」
「その通りだ。では行くのだ」
「冬もですね」
「冬の後に春がある」
 彼等が待ち望んでいるだ。その春だというのだ。
「そしてだ」
「さらにですね」
「その春まで楽しむのだ」
 父が我が子に告げる言葉だった。
「いいな。春までな」
「冬は辛いものではないですね」
「そんなものはない」
 父ははっきりと我が子に言った。
「この世の。花鳥風月の中に辛いだけのものはないのだ」
「そこには様々なものがありますね」
「それが花鳥風月だ」
 義正が今真理と義幸を連れて巡っているそれがだというのだ。
「むしろ冬にしてもだ」
「はい、確かに寂しさと寒さもありますが」
「それ以上のものがあるな」
「そうですね。では冬も」
「楽しみ。心に刻んでおくのだ」
 そうした話をしてだった。義正はだ。
 十二月、その冬のはじまりもだった。楽しむことにしたのだった。
 両親に言われ誘われた通りだ。母の友人のその屋敷にお邪魔した。当然真理と義幸も一緒だ。三人でその和風の屋敷に入るとだ。そこにだった。
 気品のある老婦人がいた。雪の様な白髪を奇麗にまげにしており着ているものは草色の絹の和服だ。帯は緑である。
 まだみずみずしさが見られる顔をしておりその婦人が三人にだ。こう挨拶をしてきたのである。
「八条の奥様の」
「はい、そうです」
 義正は微笑み婦人のその言葉に応える。
「三男の義正です」
「義正さんですね。奥様からお話は聞いています」
「そうですか。聞いていますか」
「はい」
 そうだとだ。婦人も微笑みで応える。そうしてだ。
 そのうえでだ。彼女はこう三人、真理と義幸も含めて言ってきた。
「それではこちらに」
「お庭にですね」
「我が家の菊を見たいとのことですが」
「母が言っていました」
 母からの紹介のこともだ。義正は話した。
「それを受けてです」
「そうでしたね。では」
「お願いします」
 こうしてだった。三人は屋敷の庭に案内された。そこはだ。
 黄色や白の菊が咲き誇っていた。数えきれないだけの鉢にだ。
 その鉢にある菊達を見てだ。まずは真理が言った。
 
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