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儚き想い、されど永遠の想い

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425部分:第三十三話 鈴虫その一


第三十三話 鈴虫その一

                  第三十三話  鈴虫
 屋敷に鈴虫達が来た。それは木で作られた小さい籠の中にいた。
 その中で何匹かの鈴虫達が鳴いていた。それを見てだ。
 真理はだ。目を細めさせて言った。籠は窓辺にありその窓には黄色い満月がある。
 その月と壺に入れた白くなったすすきも見てだ。義正に言うのだった。
「これもまた秋ですね」
「そうです。秋の夜です」
「秋に鈴虫。それに」
 それに加えてだった。そのささやかな美しさのある音と共に。
「黄色い満月と白いすすきですね」
「最高の組み合わせですね」
「どうして秋の夜には月とすすきが合うのでしょうか」
 それも見ての話だった。
「それは何故でしょうか」
「それはです」
「それは?」
「感性の問題だと思います」 
 これがこのことについての義正の言葉だった。
「それでだと思います」
「感性ですか」
「例えばすすきですが」
 壺にある白いすすきを見て言う義正だった。
「これは日本人から見ればいいものですね」
「はい、秋の一つです」
「しかしこれもです」
「他の国ではですか」
「ただの草だそうです」
 それに過ぎないというのだ。すすきもだ。
「白く枯れた。それだけの」
「このすすきの風情もなのですか」
「他の国の方にはわからないものなのです」
「そういえば月もでしたね」
 真理は月の話もした。
「この月も西洋では確か」
「不吉なものです」
「これだけ奇麗なのにですか」
「月は夜、そして夜を忌むのならです」
「月もですね」
「そうなります」
 西洋のその考えをだ。真理に話したのである。
 その話を聞いてだ。真理もだ。考える顔になりだ。
「本当に違うのですね。それもまた」
「ですが日本人にとっては」
「すすきも月も。それに」
「鈴虫もですね」
「どれも心地よいものです」
 実際にその三つを感じながらだ。真理は言った。
 鈴虫の声にもだ。目を細めさせてだった。
「いいものですね」
「そうですね。とても」
「これも他の国ではですか」
「ただの。音だと」
「この声がそれで終わるのですか」
「そうです。そうではないのです」
 そうしたものに過ぎないと話していく義正だった。
 しかし彼もだ。こう言うのだった。
「それが文化の違いとはいえです」
「どうにも。違和感を覚えますね」
「はい、どうしても」
 彼にしてもそうだというのだ。実際に感じているというのだ。
「これだけ奇麗な声もそう思われるとは」
「その通りですね。しかしこうして聴いていますと」
「落ち着きますね」
「それでなのですが」
 落ち着いた顔でだ。義正はここで話を変えてきた。その中でだ。
 真理にだ。こんなことを話してきた。それは彼女自身のことだ。
「今はお身体はいいですね」
「はい、とても」
 微笑みだ。真理もそうだというのだ。
 
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