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儚き想い、されど永遠の想い

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423部分:第三十二話 紅葉その十三


第三十二話 紅葉その十三

「柿をどうしてもですか」
「昔から好きでしたし。それに」
「それに?」
「あの熱帯の植物達に加えて蘭の暖かさを感じましたので」
「だからですか」
「はい、柿は身体を冷やしますね」
「どうしても」
「では少し暑くなったので」
 これは身体のことだけではなかった。もう一つのこともだった。
 だからこそだとだ。真理は話すのだった。
「ですから。少し冷やしたいのです」
「そうですか。だからですか」
「はい、柿もまた」
 慎みのある笑みでだ。真理は話すのだった。
「欲しいのですが」
「わかりました。では」
「はい、それではですね」
「柿に葡萄、それに梨を」
「召し上がるのですね」
「そうしましょう」
 こう話してだった。三人は蘭の前からも去ってだった。
 植物園の一室、喫茶のコーナーでだった。果物を切って白い皿の上に盛り合わせにしたそれを食べながらだ。まずは真理が笑顔で述べた。
「こうして切った柿もです」
「お好きですね」
「これまでは柿は切ったものでなく一個を丸ごと」
 それを食べていたというのだ。柿の食べ方としては普通だ。
 しかしその切った柿を食べつつだ。彼女は言うのだ。
「ですがこうして切ったものも」
「食べやすくてですね」
「はい、いいですね」
 笑顔で言った言葉だった。そしてだった。
 葡萄も食べつつだった。それでまた言うのだった。
「葡萄も。こうして一粒一粒を食べることも」
「それは変わらないのでは、元から」
「いえ」
「いえ?」
「こうしてお皿の上に乗せて食べることはです」
 それはどうかというのだった。
「やはり。何かが違いますね」
「違いますか」
「我が国の食べ方とは違いますね」
「確かに。切って食べるこれは」
「西洋のものですね」
「はい、そう思いますが」
「確かにそうです」
 その通りだとだ。義正は答えた。その切って食べるやり方もだとだ。
「我が国では果物は一個を丸ごと食べますね」
「西瓜やそうしたもの以外は」
「しかし西洋ではこうして切って食べることも多いのです」
「それで柿もこうして」
「その切った柿がですね」
「美味しいです」
 静香に微笑みだ。答えた真理だった。
「食べやすくて。柿を食べているようで何かが違いますね」
「そうですね。梨も葡萄も」
 葡萄もだった。皿の上にあるそれもだった。
「何かが違いますね」
「はい、本当に」
「柿は我が国の果物です」
 これ以上ない程に日本的なものだった。
「しかしそれでもこうして食べると」
「洋風に思えますか」
「はい、何処か」
 そうだというのだ。
「不思議なことですね」
「食べ方一つで食べものは変わりますね」
「それは前から知っているつもりでした」
「しかし実際にこうして食べると」
「はい、変わりました」
 まさにそうだというのだった。そしてだ。
 その柿をまた食べてだった。真理はだ。
 
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