| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

儚き想い、されど永遠の想い

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

415部分:第三十二話 紅葉その五


第三十二話 紅葉その五

「次の春は」
「長いと思えば長いでしょう」
 その聡明さを発揮してだ。義美はこう述べた。
「しかし。満ち足りて暮らしていかれれば」
「春までも短いね」
「人が時間を長いと思う時は辛いと思うか耐えられないと思う時です」
「その逆になれば」
「はい、短く感じます」
 楽しい時はすぐに過ぎ去る。逆説的に言われることだった。
「そうなりますね」
「その通りです。短く過ぎます」
「秋も。そして冬も」
「春までは短いね」
「短く感じられるべきです」
 義正に述べたのだった。こう。
「是非共」
「そうだね。ではこれからも」
「充実させて下さい」
 これが妹から兄への言葉だった。
「三人でその時間を築かれていって下さい」
「あの人の病を聞いて今に至るまでだけれど」
「短かったですね」
「充実しているよ」
 過去形の言葉ではなくだ。現在形の言葉だった。
「とてもね」
「だからこそあっという間でしたね」
「そしてこれかも」
「気付けば春です」
「気付けば」
「一旦目を閉じ開ければ」
 それでもうだというのだ。
「春になります」
「早いね。それはまた」
「時とはそういうものです」
 充実した時を過ごせばだ。そうなるというのだ。
「では。私もこれからも」
「覚えていてくれるね」
「そうさせてもらいます。では」
「うん、それでだけれど」
 義正は話が一旦終わったのを見てだ。妹にあらためて話した。
「一ついいかな」
「はい、何でしょうか」
「義美もそろそろだったね」
「結婚のことですね」
「うん。いよいよだけれど」
「私も時間を短く感じています」 
 微笑みだ。兄にこう答えたのだった。
「今はとても」
「そう。義美もなんだ」
「そうです。そしてですね」
「これから二人になれば」
「より充実した時間を過ごせますね」
「それは義美と彼次第だよ」
 義正は必ずそうなるとは答えなかった。
 そうしてだ。妹にこう話した。
「御互いが努力してそうなるものだから」
「ただ。二人一緒にいるだけでそうはならないですか」
「そう。ならないから」
 また言う義正だった。
「義美と彼で努力してそうなるんだ」
「わかりました。そうですか」
「そう、二人でね」
 これが妹への言葉だった。そうしてだ。
 義正は妹に告げてからだ。仕事に戻った。義美もそうした。
 彼は仕事を続けていってだった。それが終わりだ。駐車場で佐藤の出迎えを受けた。
 彼は笑顔でだ。こう彼に話してきた。
「おかえりなさいませ。それではですね」
「うん、屋敷に帰ろう」
「はい、では今から車を出します」
「今日の夜の予定はなかったね」
「それはありません」
 実際にないとだ。佐藤は微笑んで義正に答えた。彼は義正の秘書も務めているのだ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧