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儚き想い、されど永遠の想い

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41部分:第四話 はじまりその五


第四話 はじまりその五

「それもまたいいものです」
「清らかなものを昇華させて」
「現実にもそれを昇華させてはどうでしょうか」
「では。頭の中に思い浮かべた光景は」
 例えだ。そうしての話だった。
「それを実際に描くこともだね」
「いいものです」
「そうなんだ」
 それを聞いてだ。義正はまた言った。
「現実のものにするのも」
「それが芸術家だと思います。では」
「では僕は」
「旦那様は?」
「一つの芸術を作ろうとしているのかな」
「芸術?」
「それは芸術なのかな」
 そしてだった。この言葉はだ。
 彼は心の中で呟いたのだった。
「恋というものは」
「とにかくです。芸術なら」
「芸術なら?」
「いいと思います」
 佐藤はその彼にこう話した。
「芸術は人間が生み出す中で最も素晴らしいものの一つですから」
「だからいいんだね」
「人間は。この世に生まれたのなら」
 それならば。運命論的な話だった。
 佐藤は今度はそれを話に入れてだ。主に話すのだった。
「素晴らしいものを形作るべきです」
「そうあるべきなんだね」
「人は美しくかつ醜いものでもあり」
 それは佐藤も否定しなかった。できなかった。
 人間は絶対的な存在ではなく揺れ動き染まるものだ。その染めるものが何かによってだ。美しくもなり醜くもなるというのだ。
 それを話してなのだった。
「醜いこともしてしまいますが」
「美しいこともだね」
「人が醜いだけのものなら世界はより簡単にまとまっていました」
 佐藤はここではあえて悪を話した。醜いものを悪としてだ。
「そして美しいだけでもです」
 今度は善であった。
「世界はどれだけ単純でしょうか」
「しかしそうではないんだね」
「はい、世界は複雑です」
 また言う佐藤だった。
「だからこそ。素晴らしいものを残すべきではないでしょうか」
「美醜が共にある世界だからこそ」
「そう思います。私は」
 佐藤は微笑んで義正に話した。
「人は。その美醜の中で何かを残すべきです」
「わかったよ。それではね」
「はい、それでは」
 こうしてだった。義正はだ。
 一つの道を見たのだった。だがその道に進もうとはまだ決めていなかった。決められなかった。だが確かに見たのである。
 そして真理もだ。今は麻実子と話していた。
 彼女は静かにだ。紅茶を飲みながら。白い部屋の中で彼女に言った。
「私は」
「どうかされたのですか?」
「一つ思うことができました」
 こう麻実子に話す。
「頭の中から離れないことができたのです」
「頭の中からですか」
「そうです。そうなっています」
 麻実子の顔を見て。さらに話す。
「どうしても」
「それは一体?」
「ある方のことです」
「あの方とは」
「いえ」
 言ってしまってからだ。真理は気付いたのだ。
 気付いてだ。それですぐにだった。
 打ち消してからだ。そうしての言葉だった。
「何でもありません」
「そうですか」
「はい、何でもありません」
 また言うのだった。
 
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