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儚き想い、されど永遠の想い

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405部分:第三十一話 夏の黄金その九


第三十一話 夏の黄金その九

「勿論この子も一緒です」
「私達は三人ですから」
「この子は置いておけません」
「はい、何があっても」
「この子は必ず覚えています」
 このうえなく優しい目になってだ。義正は話していく。
「貴女と共にいたことを」
「そして私と一緒に多くのものを見たことをですね」
「全て覚えています」
「これまでに見たことをですね」
「そしてこれから見ることも」
 過去と未来、まずはこの二つだった。
「この瞬間もです」
「今現在もですか」
「この子は覚えています。一生忘れません」
「もうすぐ去ってしまう私のことを」
「何があってもです」
 覚えているというのである。
「無意識の中に」
「そうですね。私はその中にい続けるのですね」
「はい」
 その通りだとだ。義正は答えた。
「永遠にです」
「ではです」
 真理は今度はその義正を見て尋ねた。
「貴方もですね」
「はい、無論私もです」
「貴方の中にも私は」
「永遠に生き続けます」
「死ぬのは絶対ですが」
「魂は不滅です。そしてです」
「記憶もまたですね」
 それもだとだ。真理は気付いたのだった。
「永遠ですね」
「はい、私の。そして義幸の」
「二人の心の中にですね」
「他の方もまた同じです」
「私は忘れられて。そうして去るのではなく」
「永遠に生き続けるのです」
 こう話していくのだった。真理に対して。
「ですから死にそれで終わりではありません」
「そうでしたね。そして終わりというものは」
 終わりを否定されてもあえてだった。真理は話す。
 そうしてだ。彼女は話していく。
「はじまりでもありましたね」
「はい、はじまりでもあるのです」
「全ての終わりは全てのはじまりでしたね」
「ですから怯えることも逃げようとすることもないのです」
「生きていればいいですね」
 微笑みだ。真理は義正の言葉に頷いた。
「永遠に。そういったものを受け入れていって」
「貴女は春で終わりではないのです」
「むしろ春からはじまる」
「私やこの子」
 また義幸を見る。安らかに寝ている我が子を。
「他の方々の中で」
「その時にですけれど」
「そのはじまりの時ですね」
「悲しみは感じないで下さい」
 切実にだ。このことを話したのだった。
「喜びを感じて下さい」
「それをですか」
「はい、はじまるのですから」
 だからだというのだ。
「それでどうして悲しむことがあるのでしょう」
「ですね。確かに」
「はい、ではそうして下さい」
 そうした話をしてからだ。義正は今度はだ。
 真理にだ。こう話したのだった。
 
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