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儚き想い、されど永遠の想い

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389部分:第三十話 運命の一年その九


第三十話 運命の一年その九

「そして人もまた」
「花ですね」
「花は永遠に残るものでもあります」
「いえ、それは」
 真理はその話には最初は頷けなかった。それは何故かも婆やに話した。
「私はそのことは」
「信じられませんか」
「花は散ります」
 真理はこのことを言った。
「必ずです」
「そして人もですね」
「はい」
 自分のことも考えてだ。真理は婆やの言葉にこくりと頷いた。
「必ず死ぬものですから」
「そうですね。花も人も」
「必ずですから」
「その通りです。花は必ず散り」
 そうしてだった。
「人は必ず死にます」
「それなら」
「それでもです。永遠に残ります」
「それはどうしてでしょうか」
「形あるものは必ず壊れますが」
 それでもだとだ。婆やは続けていく。
「しかしそれは心には残ります」
「心、ですか」
「人の心には残るのです」
 そうした意味でだというのだ。
「人の心には絶対にです」
「残りますか」
「はい、残ります」
 婆やは真理を見て彼女に話していく。
「人の心にはです」
「だから永遠なのですか」
「私は奥様のことを絶対に忘れません」
 実際にだ。婆やは自分自身のことも言った。
「私が生きている限り」
「そうしてくれるのですか」
「それは私の魂自体にです」
「残るというのですね」
「何度生まれ変わっても」
 それでもだとだ。切実に真理に話していく。
「私は奥様のお傍にいます。そして」
「あの方もですね」
「はい、旦那様もです」
 そしてだ。義正もだというのだ。
「旦那様も必ずです」
「私のことを忘れずに。そして何度生まれ変わっても」
「私以上にです」
「婆や以上に」
「あの方は私以上に奥様を愛して下さっているので」
 だからだというのだ。
「ですから」
「そうですね。義正さんは」
「奥様のことを何があっても忘れません」
「そうしてそのうえで」
「奥様と共にいてくれます」
「それが永遠なのですね」
 ここまで話してだ。真理は婆やの言葉の意味がわかったのだった。
 そうしてだ。彼女は静かにこう頷いて述べた。
「では私は」
「永遠にですね」
「忘れません」
 彼女もだとだ。微笑んで述べたのである。
「例え何があろうとも」
「そうされて下さい。それでは」
「それでは?」
「今はゆうるりと。何をされますか」
「音楽をお願いできますか」
 彼女がここで言ったのは音楽だった。
「それを」
「音楽ですか」
「滝廉太郎をお願いします」
 その彼の音楽をだというのだ。
 
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