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儚き想い、されど永遠の想い

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369部分:第二十八話 余命その十一


第二十八話 余命その十一

「どうにも」
「そうですね。ですが百八ですね」
「はい、その百八です」
 除夜の鐘の話に戻る。
「それを払うというのもです」
「日本ならではの習わしですね」
「風情があります」
 義正は蕎麦を食べながら微笑んで話す。
「そう思います」
「そうですね。そして新年には」
「新年の習わしがありますから」
「そしてそれも楽しみ」
 風情を楽しめるのはだ。大晦日で終わりではなかった。
 一年もだとだ。彼等は深夜の鐘の音を聴きながら話す。
 そのことを話している中でだ。真理も微笑んで言う。
「私は。来年も」
「聴けます」
 義正がその真理に答える。
「こうして二人で」
「そうですね。必ず」
「そして冬を過ぎて」
 そうしてだった。冬の先にある。
「桜を見ましょう」
「来年も再来年も」
「そうしましょう」
 こう話すのだった。そうしてだった。
 除夜の鐘の中で蕎麦を食べる。彼女も。
 一皿食べた。それからシェフ達に話すのだった。
「あの」
「お代わりですか?」
「御願いできますか?」
 おずおずとしてだ。彼女はシェフ達に尋ねたのである。
「もう一皿ですが」
「勿論です」
 シェフ達は笑顔で真理の願いに応じた。
「それではすぐに持って来ます」
「茹でてきますので」
「有り難うございます。それでは」
 こうしてだった。もう一皿頼んだ。そうしてそのざる蕎麦もだ。
 真理は食べる。その中で彼女は話した。
「お蕎麦もやはり関西ですね」
「はい。実は私は関東に出張に行った時に」
 どうだったのか。義正が話す。
「関東のものを食べましたが」
「それはどうだったのですか?」
「つゆが違います」
 肝心のものの一つであるそれがだというのだ。
「それも全く違うのです」
「おつゆがですか」
「関西では昆布と鰹節の二つで取りますね」
「はい」
「関東ではおろし大根の汁に醤油です」
「その二つですか」
 真理は義正のその話を聞いてだ。不思議そうな顔になった。
 そしてその顔でだ。彼に問い返したのである。
「それはまた」
「妙に思われますか」
「少し」
 実はかなりなのだが口ではこう述べた。
「関西とは全く違うのですね」
「かなり辛いです」
 ひいてはそうなった。
「関東のつゆは」
「そうですね。関東はそのお醤油も違いましたね」
「それも違いますので」
 ひいてはだった。料理の根幹であるそれも違うのだった。
「関西では薄口ですが巻頭では濃いのです」
「それは聞いています」
「特にうどんです」 
 蕎麦とくればそれだった。尚この頃も関西ではうどんの方がよく食べられる。
「つゆが黒くて」
「黒いのですか」
「そしてやはり辛いです」
 そうだというのだ。うどんもまた。
「関西のそれとは全く違います」
「同じ日本であっても」
「全く違います」
 義正はこう言い切った。
「それは驚く程です」
「そこまでなのですか」
「はい。ですが私は」
「義正さんはですか」
「やはり関西のものが好きです」
 そのだ。関西のつゆがだというのだ。
「馴染みもありますし」
「そうですか。馴染みがですか」
「はい、あります」
 まさにそうだとだ。義正は微笑み真理に話すのだった。
「私には関西の味がいいです」
「では私もですね」
「関西の味にしましょう」
 二人で話してだった。
「またお蕎麦を食べる時も」
「そしてうどんもまた」
「では」
 こうした話をしてだった。二人はだ。
 新年を迎えた。二人にとっては運命になる、その一年を迎えたのである。


第二十八話   完


                 2011・10・5
 
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