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儚き想い、されど永遠の想い

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342部分:第二十六話 育っていくものその八


第二十六話 育っていくものその八

 妻のその膨らんだ腹を見て。そうしての言葉だった。
「今も少しずつ」
「そうです。今は」
「確か八ヶ月ですね」
「あと二ヶ月です」
 見ればその腹はだ。かなり大きくなり意識せずして見ずともわかるまでになっていた。その中に命が育っていることは明らかだった。
 命を見ながらだ。義正はまた言った。
「楽しみですね。そして」
「生まれればですね」
「私達で育てましょう」
「是非共」
「子供は。二人で育てることが理想ですから」
 夫婦で。そうした意味での言葉だった。
「それをはじめましょう」
「そのことを思うと」
 真理の顔は微笑みだ。それで。
 幸せにだ。言葉を出したのだった。
「もうそのことだけで一杯になります」
「子供のことで」
「不思議ですね。労咳は今も私の中にあって」
 死、即ちそれがだった。
「少しずつ私はその中に消えようとしているのに」
「新しい命のことを思うと」
「私達の愛する子供が生まれると思うと」
「自然にです」
 微笑みを浮かべての言葉だった。
「そのことで一杯になります」
「私もです」
「義正さんもですか」
「私達の育む命のことを考えると」
 本当にだ。それだけでだというのだ。
「そのことで全てが一杯になります」
「頭の中も心の中も」
「その全てが本当に」
「瞬く間に満たされてですね」
「そのことだけが考えられなくなります」
 そしてだ。それはというと。
「幸せのことだけを」
「幸せをですね」
「はい、幸せをです」
 そのことでだ。全てが満たされるとだ。真理に話すのである。
「そのことだけを」
「それは私もです」
 真理もだ。微笑み言うのだった。
「不幸は幸せの前には消えてしまうのですね」
「そう思います、私も」
「義正さんもその様にですね」
「そのことがわかってきました」
 実際にだ。不幸だけでなく幸福も知りだ。それでだというのだ。
「確かに」
「このまま子供が生まれれば」
「幸せはそこからもはじまります」
「生まれるまでも幸せであり生まれてからもですね」
「私達の子供を育てる幸せです」
 そうしたことがわかってきていた。二人で。
 二人は幸せを味わいだ。時を過ごしていた。
 八ヶ月がだ。九ヶ月になりそして遂に。十ヶ月になった。
 その時にだ。真理の父がだ。屋敷に来てだ。
 そのうえでだ。己の娘にこう言った。
「いよいよだな」
「はい、私達の命がもうすぐです」
「生まれるのか」
「お父様にとってもですね」
「孫になるな」
 そうなるとだ。彼も笑みを浮かべて言った。
 
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