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儚き想い、されど永遠の想い

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324部分:第二十四話 告げる真実その十三


第二十四話 告げる真実その十三

「海軍だけでのことではないのだ」
「露西亜の時と同じくですか」
「我が国全体のことですか」
「ソ連は露西亜の後の国だが」
 それでもだというのだ。
「あの国は露西亜以上に恐ろしい国だ」
「だからこそ日本全体で、ですか」
「ことにあたらねばなりませんか」
「そうだ。だが今はどうもだ」
 難しい顔はそのままでだった。伊上はまた話す。
「我が国は。特に陸軍と海軍がだ」
「どうも近頃仲がぎくしゃくしていますね」
「前からその傾向があったにしても」
「山縣さんがおられるうちはまだいい」
 よくも悪くもだ。山縣が陸軍を統率しているからだ。そのうえでの言葉だ。
「そして海軍もだ」
「山本さんがおられますね」
「あの方が」
「御二人がおられるうちはいいが」
 だが、だ。それでもだというのだ。
「しかし御二人がおられなくなると」
「危ういですか」
「陸軍と海軍も」
「いや、陸軍と海軍だけではない」
 ここでもだ。日本全体の話になった。
「日本全体がだ」
「といいますと」
「山縣さんや山本さんだけではなくですか」
「あの方々。元老の方々がおられなくなるその時だ」
 実際にだ。この時に元老は次々といなくなっていた。人は必ず死ぬものだ。寿命というものに勝てる者はいないのだ。
 それでだ。伊上は言うのである。
「日本はどうなるのか」
「舵取りがいなければ船は動きませんね」
「動かないでいるのよりも危険なことがある」
 伊上は周りの中の若い青年に述べた。共に飲んでいる彼に。
「それはだ」
「それは?」
「危うい方向に船が進むことだ」
「それは余計にですか」
「動かないことよりも危うい」
 このこともだ。伊上が強く懸念していることだった。
 そしてだ。この国を例えに出したのだった。
「独逸だ」
「今あの惨状にあるあの国ですか」
「あの国のことですか」
「独逸は凄かった」
 既にだ。言葉は過去になっていた。
「ビスマルクの頃はな」
「しかしそのビスマルクが去ってから」
「問題はそれからでしたか」
「そうだ。ヴィルヘルム二世は見誤っていた」
 そうだったとだ。伊上は酒を飲みつつ話す。
「独逸は拡張するべきではなかったのだ」
「ではどうするべきだったのでしょうか」
「海軍増強と植民地の確保以外の道は」
「領土は現状維持」
 まずは領土から話す伊上だった。
「そして海軍もあそこまで極端には大きくしない」
「あくまで程々ですか」
「程度を見てのですか」
「そうした海軍にすべきだったのですか」
「そうして国内の産業を充実すべきだったのだ」
 より一層というのだ。独逸の産業をだ。
「外交的には調停役に徹する」
「ビスマルクの様にですね」
「そうしていくのがよかったのですか」
「独逸は」
「英吉利、露西亜と衝突するべきではなかった」
 ところがこう言ったところでだった。伊上は。 
 
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