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儚き想い、されど永遠の想い

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322部分:第二十四話 告げる真実その十一


第二十四話 告げる真実その十一

「本当に何もないのだ」
「何も、ですか」
「ないのですか」
「そうだ、何もない」
 そしてだ。何がないかというと。
「木すらない」
「木もですか」
「それもないのですか」
「あの半島にあるのは禿山だけだ」
 それが事実だった。森林資源という時点でない半島だったのだ。
「寺内さんが総督になられ最初に大規模な植林をされた」
「そこからはじめる場所ですか、あそこは」
「それはまた」
「当然植林だけではない」
 あらゆるものを生み出す木がなくてはだ。他のものも当然ながらないのだ。つまりだ。半島には本当に何もかもがないのである。
 そうした場所に進出してもだった。
「無益に思える」
「あそこは台湾と違いますか」
「木も何もかもがない」
「そうした場所でしたか」
「実際に莫大な予算を消費し続けている」 
 それこそだ。国家予算のかなりの額を毎年注ぎ込んでもなのだ。赤字のままなのだ。
 だからだ。彼は言うのだった。
「そうした場所を何時まで併合しているのか」
「ですが新渡戸先生はです」
「見事な経営プランを立てておられましたし」
「それに添って動いているのですよね」
「それなら」
「だからだ。台湾と違うのだ」
 何についてもそこだった。
「新渡戸君は台湾経営での経験から。確かに見事な計画を立てたが」
「それでもですか」
「あの半島の経営はですか」
「まずいですか」
「果たして赤字経営だけで済むのか」
 伊上は危惧も出した。
「将来に渡って禍根を残すのではないのか」
「我が国にですか」
「そこまでのものだと」
「そんな気がする」
 その将来を憂う顔でだ。伊上は話す。
「あの半島統治についてはだ」
「そういえばソ連にもあの半島の者がいるそうですね」
「鮮人が」
「そうらしいな。ではだ」
 ここでさらにだ。伊上は危惧を覚えて述べた。
「ソ連が彼等を工作員として使うことも考えられるな」
「それがソ連のやり方ですしね」
「連中は手段を選びません」
「ソ連は間違っても天国ではない」
 今度はソ連についても言うのだった。
「労働者や農民の国と宣伝しているがだ」
「実は違うのですね」
「あの国は」
「恐ろしい国だ。かつての帝政露西亜なぞ比較にならない」
 日本が長い間心底恐れていたその国、ソ連の前身である国よりもだというのである。
「魔物だ。あの共産主義に染まったら最期だ」
「日本は終わる」
「そうなりますか」
「あの思想は血を求める」
 危惧をだ。さらに述べるのだった。
「革命において多くの血が流れているそうだな」
「その様ですね」
「西洋ではそれが言われていますが」
「日本には伝わっていない」
 むしろソ連の宣伝ばかりが伝わっていた。そしてそれがそのまま日本に深刻な騒乱の種になろうとしていたのだ。それはこの時代にはもうはじまっていたのだ。
 
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