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儚き想い、されど永遠の想い

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260部分:第十九話 喀血その十二


第十九話 喀血その十二

「そうして頂いてです」
「わかったことですね」
「そうです。しかしです」
「陸軍では」
「森林太郎氏がそうして主張されていたので」
 それでなのだった。結局。
「陸軍では脚気が残っていたのです」
「それは全てですね」
「あの方の意固地さ故です」
 それ故にだ。陸軍では脚気が残りだ。多くの者が倒れたというのだ。
「そうしたことがありました」
「それを見るとですね」
「あの方は責任を認めてはおられません」
 そのだ。森鴎外はだというのだ。
「これではです」
「あの方に醜いところはですね」
「あります」
 どうしてもだ。このことは否定できなかった。
 しあkしだ。同時にだった。婆やも言った。
「しかし。それと共に」
「はい、奇麗なものも」
「あの方は持っておられますか」
 森鴎外もまただ。そうだというのだ。
「そうなりますね」
「そうです。それが作品にも出ているのなら」
 どうかとだ。婆やは真理に言った。
「お嬢様が読まれてもです」
「いいのですね」
「思えば。夏目漱石も」
 この作家の名前も出す婆やだった。
「あの方も何かとでしたね」
「せっかちで癇癪持ちで、ですね」
「そうです。被害妄想なところもありました」
 漱石は漱石でだ。不安定な感情の持ち主だったのだ。後世で想像されているような泰然自若とした人物ではなかったのである。
「しかし作品は」
「余裕があり考えさせられる作品ですね」
「はい、とても」
 婆やは漱石の作品についても言う。
「坊ちゃんにしても」
「あれはいい作品ですね」
「こころもです」
 漱石の代表作が挙げられていく。
「いい作品だと思います」
「そうですね。やはりそこには」
「夏目漱石自身がいます」
「こころではそうですね」
 婆やはこころについて話した。
「あの人の明治帝への想いもまた」
「ありますね」
「明治ですか」
 明治という時代そのものに対してだ。
 婆やは想いを巡らし。そうして真理に話した。
「婆やの頃はあっという間ですか」
「短かったのですか」
「四十五年もありました」
 その四十五年がだ。短かったというのだ。
「あの明治維新からです」
「そこからはじまって」
「何もかもがあっという間に変わって」
 そしてだった。
「清や露西亜との戦争があり」
「そうしたことが続いていて」
「気付けばです」
 まさにだというのだ。その四十五年は。
「あっという間ですか」
「そうですか。婆やにとっては」
「婆やが生まれた頃はですね」
 真理にその頃の話もした。
「まだ幕府がありまして」
「あの志士の方々の時代ですね」
「あの頃は婆やはもう主人と一緒にいました」
「そうだったのですか」
「はい、あの頃京都が荒れていた頃は」
 既にだ。婆やも成人していてだというのだ。
 
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