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儚き想い、されど永遠の想い

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26部分:第三話 再会その一


第三話 再会その一

                 第三話  再会
 義正はだ。あの電車に乗った時からだ。
 物思いに耽ることが多くなった。あの横顔を見ながらだ。 
 それは仕事の時も同じでだ。己の部屋でサインをしながらもだ。ふと物思いに耽ることが多くなっていた。その彼を見てであった。
 彼の直属の部下達がだ。気遣ってこう声をかけたのだった。
「あの、どうかされたのですか?」
「何かお悩みでも」
「あるのですか?」
「それは」
 義正は彼等に対してだ。真実を言わなかった。言えるものではなかった。
 それでだ。その真実を隠してだ。こう言うのであった。
「この前。映画を観まして」
「街、でですか」
「街の映画館ですね」
「八条家の映画館で」
「はい、そうです」
 まさにそこでだというのだ。実際に彼は映画館にも入ったりしている。それでそのことを理由にすることができたのである。幸いなことに。
「映画というのもいいものですね」
「そうですね。何か別の世界の様です」
「ああして。写し絵が見られるとはです」
「世の中も進歩しました」
「恐ろしいまでに」
「人が空を飛び海の中に潜る時代ですしね」
 飛行機と潜水艦のことだ。どちらも第一次世界大戦で出て来たものだ。
「ああしたものもです」
「出て来たのだと」
「そう仰いますか」
「はい、そして」
 さらにだとだ。義正は真実を隠したまま話すのだった。
「映画になった物語がです」
「素晴しかったのですか」
「思い出すまでに」
「そうです。素晴しいものでした」
 これも事実である。だがそれは別の事実を隠す事実になっていた。
「また観たいものですね」
「ではまた映画館に行かれますか」
「そうされますか」
「はい、そうしたいと思います」
 実際にそうしたいとだ。彼は真実を隠す為に答えた。
「是非」
「では今度の休日にです」
「そうされるといいかと」
 部下達は彼の憂いの理由がわかったと思ってだ。笑顔で頷いてみせた。しかしだ。その隠された真実はだ。彼を悩ませ続けていた。
 食事の時もそれは同じだ。仕事が終わり屋敷でディナーを食べていてもだ。ふと手を止めていまう。それを見てであった。
 傍らに控える佐藤がだ。こう彼に囁くのであった。
「まさか」
「まさか?」
「まさかとは思いますが」
 見ればだ。佐藤は疑念の顔になっていた。その顔で義正に囁いてきたのだ。
「あの電車でのことを」
「いや、それは」
「その通りですね」
 長い間傍にいるだけはあった。彼に誤魔化しは効かなかった。
 その誤魔化しを打ち消してみせたうえでだ。さらに囁くのだった。
「あの方を御覧になられて」
「敵同士だね」
 義正はフォークとナイフを再び動かしはじめた。そのうえで白い皿の上にある肉を切りながらだ。そのうえで話をするのであった。
「白杜家とは」
「はい」
 佐藤は主から少し離れて姿勢を戻してから答えた。
「その通りです」
「敵同士でも。それでも」
「気にかけられていますか」
「奇麗な顔だったよ」
 こうだ。ほう、とした声で話すのだった。
「あの顔はね。とてもね」
「そう思われますか」
「とてもね。ただ」
「ただ?」
「敵同士だね」
 また、だ。こう話す彼だった。
 
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