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儚き想い、されど永遠の想い

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218部分:第十六話 不穏なことその十


第十六話 不穏なことその十

「ですから」
「だから読まれていないのですね」
「はい」
 ベッドの中からこくりと頷いて答えたのだった。
「そうです」
「志賀直哉にも長編があるのですか」
 婆やはこのことから言った。
「そうだったのですか」
「知らなかったのですか」
「はい、実は」
 そうだったと。真理にも素直に話す。
「申し訳ありませんが」
「申し訳なくはないですが」
「しかし。あの人の長編」
「どういったものなのでしょうか」
「多分。これは予感ですが」
 婆やのだ。それだというのだ。
「私の好きそうな作品ではないでしょうね」
「左様ですか」
「そしてお嬢様も」
 真理も見てだ。そのうえでまた話した。
「そうだと思います」
「私もまた」
「ですから」
 それでだというのだ。
「読まれない方がいいです」
「そうですね。それでは」
 こうした話をしてだった。真理はそのことを決めた。
 それでだ。彼女はまた言った。
「では志賀直哉の作品は」
「今ある作品をですね」
「短編を中心に」
 読んでいくというのだ。
「そうしていきます」
「わかりました。それでは」
 こうした話をしてだった。真理は読書に音楽で身体を癒すことにした。その中でだ。婆やは彼女にあるものを出してきた。それは。
 紅茶だ。白と青の西洋のティーカップのそれに入った紅茶にはだ。他にも入れられていた。それの香りも嗅いで。真理は言った。
「生姜ですね」
「はい、風邪をひいておられるので」
 それでだというのだ。
「入れさせてもらいました」
「そうですね。風邪にはですね」
「はい、生姜です」
「すいません」
 幸せな微笑みでだ。真理は婆やに言った。
「こんなことまでしてもらって」
「いえ、これもまた」
「婆やにとっては」
「当然ですから」
 だからだ。いいというのだ。
「御気になさらずに」
「そう言って下さいますか」
「そうです。お嬢様の婆やへの御礼は」
「それは」
「お嬢様が元気になられることです」
 それだというのだ。それこそがだとだ。
「ですから。これも飲まれて」
「そうですね。元気になります」
「そうされて下さい」
 こんな話をしてだった。真理は婆やが淹れたその生姜入りの紅茶を飲んだ。そしてそのうえでだ。二日程経ってベッドから出られたのだった。
 その真理にだ。義正も婆やもだ。彼女に笑顔でこう言った。
「よかったですね」
「本当に。治られて」
「あまり酷くない風邪でしたから」
 だからだ。真理もすぐに起きられたというのだ。
 
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