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儚き想い、されど永遠の想い

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199部分:第十五話 婚礼その八


第十五話 婚礼その八

「そうなられますね」
「そう願っています」
「左様ですか。いいことですね」
「そしてそれは」
 喜久子は幸せの中にあるその笑顔でだ。その麻実子に返した。
「麻実子さんもですね」
「はい、私も」
 彼女もだ。自分で認めるのだった。自分自身のその幸せのことを。
「今幸せになろうとしています」
「婚約が決まったとか」
「決まりました」
「そうなのですか。貴女も」
「はい」
 幸せに満ちた顔で頷いての言葉だった。
「そうです。いよいよ」
「誰もがそうなるのですね」
 真理は麻実子のことも聞いてだ。至福の顔で言った。
「幸せに」
「そうですね。誰もが」
「そうなっていきますね」
「幸せは人それぞれですが」 
 幸せと一口に言っても様々な幸せがある。真理はそのこともわかってきていた。
 わかったうえでだ。そのうえで言うのであった。
「それが邪な幸せでない限りは」
「実現されるべき」
「そうだというのですね」
「そう思います。幸せは手に入れるものですが」
 それでもだというのだ。
「他の方を害したり奪ったりするものではありません」
「そうした幸せは幸せではない」
「では何でしょうか」
「それこそ不幸です」
 普通とは違った使い方だがこう言うのだった。
「それは不幸です」
「不幸ですか。それは」
「そうした幸せは」
「本当の幸せではないのですから」
 だからだとだ。これが真理の言いたいことなのだ。
「そう思います」
「幸せは手に入れ育むべきで」
「奪ったり害したりするものではないですか」
「そうですね。お話を聞きますと」
「私達もそう思えます」
「そうですね。では」
 ここまで話してだった。真理は。
 また茶を淹れた。そのうえで二人にその茶を勧める。
「では。もう一杯」
「はい、御願いします」
「宜しく御願いします」
 喜久子と麻実子もだ。幸せになろうとしていた。義正と真理を中心にしてだ。幸せが拡がり育まれようとしているかに見えていた。
 そのことは伊上も見ていた。そのうえでだ。 
 屋敷に来た古い知人にだ。こんなことを話すのだった。
 海が見える緑の庭にいてだ。その言うことは。
「こうして幸せになっていくのは」
「いいことですね」
「はい、とてもいいことです」
 笑顔で知人に話すのである。
「これ以上いいことはありません」
「しかも八条家と白杜家の対立が消えました」
「この度の婚礼で」
「私も。両家の対立については」
 知人も話すのだった。青い海と白い雲を見ながら。緑豊かな庭からその二つが見える。洋館の庭からだ。その絵画の如き世界が見えている。
 それを見つつだ。伊上に話すのである。
「どうにかならないかと思っていました」
「しかし。それが遂にです」
「収まったのですね」
「それも見事な形で」
「八重垣姫ですね」
 知人が出す名前はこれだった。
「まさにそれですね」
「八重垣姫ですか」
「武田と上杉もまた争っていました」
 その両家の対立がそのまま歌舞伎になったのだ。戦国時代において繰り広げられた対立がそのまま歌舞伎となり恋愛模様となったのだ。
 
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