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儚き想い、されど永遠の想い

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153部分:第十二話 公の場でその十一


第十二話 公の場でその十一

「彼や近頃の文学ばかりを観て」
「身近なものを観ていませんでしたか」
「歌舞伎をです」
 それがだ。身近なものだというのだ。
「私達の傍に古くからあるそれを」
「観ていませんでしたか」
「気付かなかった、いや忘れていたと言うべきか」
「何につけてもその身近なものを観ていなかった」
「すぐ傍にあったというのに」
 日本にいる二人だ。まさにすぐ傍にだった。 
 その幸せになる答えがあったのだ。それがわかったのだ。
 義正も真理も気付いてだ。二人一緒にだ。
 自然と微笑み。また話すのだった。
「二人は前に出て幸せになっていますね」
「はい、なっています」
「私達もそうしてですね」
「幸せになりましょう」
「ではやはりです」
「舞踏会で何としても」
 二人にとって前に進む、それは即ちそういうことだった。八重垣姫が兜にある狐に従いそうしたのと同じくだ。舞踏会においてそうするつもりだったのだ。
 そのことを話した。するとだ。
 ふと話を一旦収めた二人の耳にだ。あるものが入って来た。その曲は。
「これは」
「日本の曲ですね」
「はい、間違いありません」
 義正は言った。そのソプラノの曲を聴いてだ。
 歌は清らかで伸びる感じだ。その曲を聴いて彼は言った。
「隅田川ですね」
「春のうららのですか」
「東京の川ですね」
 義正はまた言う。
「東京のことは詳しくないですが」
「それでも。何か」
「歌を聴いているだけで」
「はい、清らかな歌ですね」
「日本の歌です。近代の歌ですね」
 そのソプラノからわかった。しかしだ。
 義正はだ。真理にこんなことを話したのだった。
「しかしそれでもですね」
「それでも?」
「歌っているその隅田川は江戸に昔からあるものです」
 江戸の象徴とも言える川だ。それは江戸という町ができてからだ。そうなっているのだ。
 その川についてもだ。義正は話すのだった。
「この川においてもですね」
「日本があるのですね」
「昔の日本が。これは近代の歌ですが」
「歌われているのは日本ですか」
「日本です」
 この場合は近代も西洋のものも関係なかった。日本、その勝頼と八重垣姫のいる日本だというのだ。それであるというのである。
「西洋や近代は確かにいいですが」
「日本もまたですね」
「ここで私達に答えを教えてくれたものです」
 その日本なのだった。
「それなのですね」
「この曲ですが」
「隅田川はですね」
「これまではただ何となく聴いていました」
 知ってはいたがだ。それだけだったという真理だった。
「特に思うことはなかったです」
「では今は」
「それが変わりました」
 そうなったというのだ。
「日本がある歌ですか」
「そうです。日本です」
「この曲ですが」
 義正はまた話を変えてきた。隅田川を聴きながら。
 
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