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儚き想い、されど永遠の想い

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12部分:第一話 舞踏会にてその九


第一話 舞踏会にてその九

「確かに英吉利の文学は素晴しいです」
「そのシェークスピアがだね」
「そうです。仏蘭西もです」
「仏蘭西というと」
「ユゴーやビィヨンになりますね」
 文豪だけでなく詩人も話に出した。彼は詩も読んでいるのだ。
「そういった作家や詩人です」
「そちらもいいが」
「日本のものもまたいいものです」  
 微笑んでだ。歩きつつ紳士に話す。
「それは読んで頂ければわかります」
「読めばだね」
「夏目漱石もそうですし」
 まず名前を挙げたのはこの人物だった。言わずと知れた当代随一の小説家である。後世においては文豪に数えられる小説家である。
「他には二葉低四迷も」
「あの作家もかい」
「もう古くなってしまったでしょうか」
 二葉の名前を出してだ。義正は苦笑いになった。
「もう」
「そうだね。あの文章はもうね」
「あの頃は斬新だったのですね」
「うん。とてもね」
 文語から口語に換えた。それが彼の功績であった。しかしその口語も急激に大きく変わりだ。大正のこの時代においてはなのだった。
「もう古くなってしまったね」
「より読みやすくなりましたね」
「そうだね。どの作家の文体もね」
「その読みやすい文体では」
 義正は話を戻した。そちらにだ。
「やはり白樺派が最近いいですね」
「彼等も日本を代表する作家達だというんだね」
「そう思います。ただ僕は」
 微笑んで深い考えの目になってだ。彼はここでこんなことを言った。
「彼等や漱石よりも名が知られる作家は」
「誰だというのかな、その作家は」
「谷崎でしょうか」
 この名前を出すのだった。
「谷崎潤一郎でしょうか」
「ああ、あの」
 紳士はその名前を聞いてだ。すぐに声をあげた。あれか、といった感じでだ。
「何かと話題になる」
「少し話題にするのははばかれる作家ですが」
「いや、それは気にしなくていいよ」
 紳士は笑ってそれはいいとした。
「ここにいるのは僕達二人だけだ。それなら」
「気にしなくてもいいですか」
「そうだよ。実は僕も谷崎はね」
「読まれますか」
「好きだね」
 笑ってだ。こう義正に話した。
「あの独特の作風がね」
「そうでしたか」
「うん。そうか君も谷崎は読むのか」
「耽美ということを抜きにしてもです」
 それ故に問題となる作家なのである。この時代でもそうであったし後世の昭和になってもだ。彼はそのことで問題になり続ける作家であった。
「芸術か猥褻かとなると」
「どちらかな、彼は」
「芸術だと思います」
 それだというのである。
「あくまで僕個人の意見ですが」
「そうか。芸術か」
「はい、そしてその芸術故にです」
「彼の作品は輝くんだね」
「おそらく漱石や白樺派を超えます」
 そこまでだとだ。義正は谷崎を高く評価して述べる。
「そうなります」
「谷崎か」
「他には芥川も好きですが」
「広く読んでいるんだね」
「そうかも知れませんね。文学は好きなので」
 微笑みでだ。紳士に話した。
「ですから」
「そういえばだけれど」
 バルコニーの下に来た。紳士はそのバルコニーを見上げて話した。
 
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