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女の髭

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第二章

「なくなりました」
「そうだったんだな」
「はい、そして今は殆どの人が生やしてないですね」
「剃ってるんだな」
「僕にしましても」
 こうアブンに話した。
「そうですよ」
「そうなのか」
「確かにロシアは寒いですが」
 それでもというのだ。
「今生やす文化はないですね」
「昔の話か」
「ましてスターリンみたいな髭は」
 あの独特の口髭はというのだ。
「生やすとすぐに真似かって言われますね」
「有名人だからか」
「そうです、まあそこは文化の違いですね」
 今のロシアとアラブのというのだ。
「イスラムではやっぱりお髭は欠かせないですね」
「ないと男ではないとさえ思われる」
 現実にとだ、アブンはピョートルに笑って話した。
「どうもな」
「つまりお髭は男のもの」
「まさにな、女に髭はないとも言うぞ」
「ああ、そうですか」
 ここでだ、急にだった。
 ピョートルは笑ってだ、こう言ったのだった。
「アラブではそうですか」
「そう言われるぞ」
「そうですね、アラブは暑いから必要ないですし生えませんね」 
 ピョートルはこうも言った。
「そうですね」
「?カレイチョフさんどうした」
「いえ、これも違いですね」
「違い?」
「そうです、ロシアとアラブの」
 そうだというのだ。
「やっぱり」
「話が見えないが」
「はい、ですから」
「ですから?」
「アラブでは女の人にお髭は生えないですね」
「いや、女に髭は生えない」
「アラブではですね」
 ピョートルは笑ったままアブンにまた答えた。
「そうですね」
「その言い方だとロシアでは」
「実は生えるんです」
「馬鹿な、そんな筈がない」
 アブンはピョートルの笑顔の言葉に驚きを隠せない顔で返した。
「絶対に」
「お髭は男の人に生える」
「それが自然の理だ、アッラーが定められた」 
 信仰も話に出した。
「異教になるが北欧神話でもそんな話があった」
「ないもの、ですね」
「山の根や熊の踵、鳥の唾液にだ」
「女の人のお髭ですね」
「そうあった」
 北欧神話のフェンリル狼を束縛する紐を作る時に使ったのだ、この巨大な狼も首にこの紐をかけられて動けなくなった。
「だからだ」
「あれはあまりない、でしたね」
「あまりか」
「ロシアは寒いですから」
 ピョートルは再びこの話をしてきた。
「ですから」
「その寒さに対する為にか」
「はい、生えるんです」
 その髭がというのだ。
「そうなのです」
「そうだったのか」
「信じられませんか」
「嘘かと思っている」
 アブンは自分の感想を正直に述べた。
「実際にな」
「そうですね、では実例をお見せしましょう」
「実例をか」
「スタッフでターニャ=トルストワさんって人がいまして」
「その人がか」
「濃くはないですよ」
 ピョートルはこのことは断った。
「ですがしっかりとです」
「生えているのか」
「ご主人と同じ場所に」
 つまり鼻と上唇の間にというのだ。
「生えています」
「本当なのか」
「百聞は一見ともいいますし」
 だからだというのだ。
「ですから」
「まずはか」
「お会いになっては如何でしょうか」
「そうだな」
 腕を組んで考える顔になってだ、アブンはピョートルに応えた。 
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