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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第七章 C.D.の計略
  勝利のヴィジョン 敵の資格

数え役満シスターズ

原点を『真・恋姫無双』とする、アイドルユニットだ。
かつての世界ではその人気からファンが暴走し、身に着けていた彼女たちのイメージカラーの黄色い布から「黄巾党」と呼ばれ、暴徒と見られていたがそれも昔の話。魏国の当主・華琳の目に留まり、その活動で活力や慰安を振りまいていた三人姉妹。

そして、それは世界が結合されても同じこと。
彼女たちの世界の人間の中で、唯一肩書きが変わらなかったのは、彼女たちくらいかもしれない。



「ちょっとぉ?私たちも観測者っていう肩書は変わらないのだけでどぉ?」

「うむ!加えて我らは、今だ漢女道亜細亜方面前継承者と、現継承者であるぞ!!」

「いや、あなたたちは人間じゃないでしょう。というか思いたくない」

「「ひどいぃっ!!」」


何やら騒ぎ出す貂蝉に卑弥呼。
そしてそれを、はいはいとあしらいながらいつもの毒舌で対応する華琳。


場所は武道館。
数日後にはファンで埋まるであろうここは、今は空っぽのドームである。

真ん中の円形ステージと、そこから十字に伸びる花道。花道はさらに、グルリとドーム内を回っている。



華琳たちがいるのは、ステージから一段下のアリーナ席。
コンサートスタッフや、照明や大道具などが置かれている準備期間中だ。

当然、彼女もヘルメットをかぶり、書類を手にし、現場監督さながらの恰好をしているのだが


「なんであんたたちはいつも通りの変態恰好なのよ」

「これが正装よぉん?」

「その通り!!」

「あったま痛い・・・・」


はぁ、と頭を抱える華琳。

スタッフの中には、凪、真桜、沙和という、前からも警備員を受け持っていた面子や、付き合いから愛紗や翠もいる。
魏軍のメンバーは言うまでもないが、他の彼女たちが来ているのは、おそらくは北郷一刀についてきてだろう。


そして、その一刀はというと

「よーし!じゃあ「YUME 蝶ひらり」通しでやってみるぞ!!」

「「「はーい!!」」」

ステージの上で、数え役満☆姉妹の三人、天和、地和、人和のリハーサルを監修していた。

意外かもしれないが、これも彼の仕事の一つである。
とはいっても、原典を知っている諸兄ならご存知かもしれないが。彼はかつての世界では彼女たちのプロデュースもこなしていたのだ。


「一刀も張り切ってるわねぇ・・・」

「ああ、その話だがな・・・・」

「成功させないと、ご主人様自腹でシュウマイだとかをおごらなきゃならないからなー」

「・・・なるほどね」

ライブ後のお疲れ様会。
本来は体力を使い果たすライブなのだが、その後でもがっつりしっかりたっぷりと食べて飲むことができるのがこの張三姉妹。

そんな裏事情を知る愛紗と翠の話を聞いて、そうなの・・・ともらす華琳。

蓄えがないわけではないが、一刀とて相手をする女子がこれほど多いのだ。
出費は控えられるだけ控えたい。


「だったら私たちも一緒におごってもらえるんじゃないか?」

「あ、それいいわね」

「お、おい!ご主人様の懐事情も考えて・・・」

「なによ。男児たる者、それぐらいの度量はないとダメでしょう」

「それはそうだが・・・」


「ん?なになに?ライブ終わったら隊長おごってくれるん?」

「やったのー!これは沙和張り切っちゃうのー!」

「こらお前ら!!隊長にたかるようなことは・・・・」



「なに!?北郷がおごってくれるだと!?」

「姉者。そう大声を急に出すな・・・」

「聞いた!?兄様とごはんだってさー!」

「き、季衣?腹八分目っていう言葉がね・・・?」


(ああ、俺の末路は変わらないのね・・・・)


華琳、愛紗、翠の会話から、さらに北郷隊三人に飛び火し、さらに秋蘭、春蘭たちの耳にも届いてしまった。

ほろりと涙を流しながら、一刀は頭の中で預金通帳の数字を数え始めていた。


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その時

武道館裏手にいた男は、余っていたのであろうスタッフの服と帽子をかぶって台車を転がしていた。
台車の上でゴトゴト揺れているのは、一辺100センチ程度の木箱。


適当に手に入れた、首からかけるカードケースに白紙の紙を入れ、誰かと通り過ぎたところで体を揺らして死角に入れる。

(ああ、きっと裏面なんだな)

そう思わせて、実に三人。
彼からすれば三回連続だが、通り過ぎたスタッフ個人からすれば一回だけのこと。特に警戒することもなく、通り過ぎていった。


そして、男は「男性用トイレ」と書かれた扉の前で止まる。

個室は三つ。
手前に台車を、奥に自分が入り、機会を待つ。


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ほどなくして、一人入ってきた。
残念ながら個室に入るようではなかったらしいが、問題ない。

男は飛び出し、用を足していた男を一瞬で気絶させ、そのスーツを剥ぎ取った。


そして再び台車を転がす。
スタッフ証は男のものを奪い、写真をすべり込ませてある。

多少のずれ程度、ばれるものか。



と、そこで数人のスタッフとすれ違う。
服装からして、おそらくはアイドル所縁のスタッフだろう。

だが、無視。
軽く頭を下げさえすればそれだけだ。



背後から彼女たちの会話がするが、構わない。
自分の目的は、あくまでもステージ。


人質になるであろう観客?
人数の多さに警備の穴をつける?

必要ない。

迎え撃つ場所。
そして、広く自分の言葉を拡散できるカメラが入ってさえいれば、それだけでいい。


例え力を持っていようとも、所詮は人間。対した敵ではない。



ガラガラと押し進む。
左右に分かれる通路もあるが、それには入らず一直線にアリーナ席へ向かう。そこからステージに上がれば、後はどうにでもなる。


進み、進み。
さあ、あとは10メートルもなくアリーナへと入るぞ。


そこで


「ちょっといいかな」

背後から声を掛けられた。
ビタリと、男の足が止まった。

どーしたのー?と、のんびりとした声やらが聞こえてくるが、それは呼び止めた声ではない。


その背後にいたのは、北郷一刀。
汗だくになるまでリハーサルをさせられた張三姉妹との休憩を終え、昼飯にでもするかと部屋から出たところを、呼び止めたのだ。


それを背中越しに察し、振り返る。


「どうも・・・なにか?」

「ああ、うん。見ない顔だなー、と思ってさ」

「・・・下見に来たんですよ。何分初めてで」

「ふーん」


一刀の言葉に、男は少し焦る。

大丈夫。
このスーツ姿なら、この業界に入って間もないとか言えばいい。むしろ、ここの割り当て員ではなくとも、今後のために見に来たんですともいえる。


「これ、ステージのほうに運ぶんですよ」

「へーえ」

早くいこうよー、という少女たちの声が、段々と収まっていく。
彼女たちとて、畑は違えどあの戦乱の時代を駆けた者たち。何かを感じ取っていたとして、おかしくはない。


「んじゃ、私これで」

「あ、はい。俺、今回プロデュースさせてもらってる北郷一刀です」

「えっと・・・失礼ですが、「EARTH」の?」

「そうだね」

日常会話を、軽いジェスチャーやリアクションを踏まえて話す二人。
だが、振舞う男は感じ取っていた。わかっていた。


この北郷一刀という男は、ここまで一度も自分から視線を逸らしていない。




「嘘だな」

断言された。
何を言うんですか?という弁明すら許されない、絶対的な確信をもって告げられる判決。


男はそれを感じ取った。
細かいことは必ずしもわかっていないだろう。わかる筈もない。

だが、この男は間違いなく自分のことを「不審者」と認識した。



では、男はどうするのか。

無駄だと知りながらも取り繕うのか?
ここから逃げ出すために足を動かすのか?
別の話題に切り替えて気を逸らすか?


違う。
そんな「どうするか」等という考えより早く、男の脳内は怒りに満ちた。



「この俺を・・・・・」

「どした?」

ブルブルと肩を震わせてうつむく男に、一刀は警戒をしながらもその顔を見ようと近づく。


「こ・・の・・・俺を・・・」

「おい?」

だが、男は聞こえてないのか答えない。
少し強めの口調で再度聞く一刀だが、彼より早く男――――冠木の沸点に限界が訪れた。


「この俺を・・・・人間如きがそんな目をしてみていいもんじゃ・・・ないぞ・・・!!!」

ブァッ!!と、一刀の翼が展開したのと、冠木が上着を翻してベルトを露わにするのとは、同時だった。


背後の張三姉妹に、翼越しに愛紗たちを呼ぶように叫ぶ一刀。
その隙に、一瞬にして冠木はマンティスゼクターをベルトに装填し、マスクドフォームへと変身を完了していた。

「貴様ら如きに止められる、この俺ではないんだがな」


ダンっ!!と、一刀が駆けだした。
手元に愛紗の青龍偃月刀を出し、両手を添えるように掴む。

長い付き合いの彼女の、手慣れた武器だ。
その動きの模倣はすでに終え、すでに彼自身の動きのものへと変わっているほど。

差し出すように、マンティスの右脇腹へと伸ばす。
そこから一気に、左手で押し上げて斬り裂こうとする一刀。



だが、それをあっさりと掴み止めて握り潰すマンティス。

バキリと掴まれた柄から折れる偃月刀。
しかし、一刀は即座に左手に新たな武器を出して攻撃を続けた。


続けること、実に六撃。
だが、それらすべてをマンティスは防いだ。

防御力に秀でたその装甲は、受けのために出した腕や足で一刀の武器を割るだけの堅さを持つ。



「・・・・・・!!」

だが、それに驚きながら一刀は更に振るっていく。
また同じことだと掌で受け、拳で反撃していくマンティス。

しかし彼の攻撃もまた、一刀には効果がなかった。

流石に本家本元には負ける。
しかし借り物でも、理樹のバリアはマンティスの攻撃を防ぐには十分すぎる硬度を有していたのだ。



「チッ、やるな人間」

「いやぁ、まだまだ」

ゴッ!!と、一刀の攻撃が強くなった。
正確には、武器が砕けなくなりつつあった。

単純な話、一刀の力とマンティスの硬度があったからこそ、武器はその衝撃に耐えられなかった。
ならば、これまた単純な話、出した武器を彼の翼力で強化すればいいだけのこと。

しかし、それでもまだ固い。



バキンッ!!

「キリがないな」

マンティスのつぶやき。
だが、このままいけばライダーフォームへの移行承認は時間の問題。

こいつからすれば、他の人間など来たところで問題ではない。
あの、自分の認めた「敵」の他は。


だが、一刀はそうは思っていない。
相手がライダーフォームにならないことが何よりも不思議だった。

だから、彼は力を借りての「クロックアップ」も「風足」も「加速開翼」もしていない。

何かが不気味だった。
何か言葉にできない、得体のしれない何かを感じ取っていたのだ。


だから、マンティスの思い通りにさせるわけにはいかず
だから、そのマンティスのキリがない宣言に対して、はっきりとこう返す。

「そうでもない」


狭い廊下の攻防の中で、飛び散るのは火花と鉄片。
その中で、一瞬で一刀は小石程度の刃の欠片を掴み取った。

そして

「我、絆ヲ手繰ル――――超電磁砲(レールガン)

バチッ!!ドン!!

「ぶっ飛べ」

「グッ!?」

ギャォン!!という何かが走る音と、それ以上の衝撃波の音が廊下に響いた。
そしてそれとほとんど同時に、マンティスの胸中にぶち当たった超電磁砲が轟音を立てて彼を廊下の果ての先まで連れ去っていった。



「フゥ・・・・ったく、何者だよ、あいつは!!」

肩を回して、一息つく一刀。
携帯を取り出しながら、マンティスの吹っ飛んでいった先へと歩を進める。


「もしもし?そっちに詠いる?」

『繋ぎます――――』

『なによバカ太守。何かあったの?』

「悪い詠。それどこじゃない。仮面ライダーだ」

『誰?』

連絡をつないだのは、用事で「EARTH」本部にいた元董卓軍軍師の賈駆・詠だ。
開口一番で憎まれ口をたたく彼女だが、一刀の言葉のトーンから状況を察するのは、さすがは名軍師といったところだ。


「知らないライダーだ。たぶんマスクドライダーシステム系統。何か連絡来てない?」

『ライダーですって?確か、ヒビキって人のとこにも来てなかった?』

「ああ。だけどそっちはショウが行った。問題はこっちだ」


スタスタと進む一刀だが、マンティスはかなり吹き飛ばされたようだ。

と、そこで思い出す。
アイツが押していた台車がない。

少し足が早まる。


『報告が来てたわ。マスクドライダーマンティスですって』

「・・・・他には?」

『えっと・・・あ、下手にダメージ与えると、それでライダーフォームになるらしいわよ?まだ攻撃してないなら、これ以上下手に戦わないで一撃で仕留めなさい。聞いてる?』


耳に携帯を当てていた一刀は、そこまで聞いてプチリと連絡を切った。
彼はすでに、アリーナ席のほうへとついていた。

彼の足元には、まるで何者かが踏ん張ってブレーキを掛けたかのような黒い焦げ跡が二本。
そして、バラバラになった木箱と台車。


「遅かったよ・・・詠」

「そう落ち込むな。お前の攻撃は素晴らしかったぞ」


頭上から声がした。
見上げることもなく、一刀が応える。


「お前の目的は何だ?」

「知らしめるだけだ。それだけでいい。人類はやはり、我らネイティブの元、底辺で生きるべきだと。ネイティブは、その上に君臨し永劫の繁栄をこの地で迎えると!!」

「下らないこと言うんじゃねぇ!!」

ブォッ!!と、一刀が振り返りながら手の中に武器を召喚する。
手にしたのは、春蘭の七星餓狼。

ステージの骨組みパイプの上に立っていたマンティスを狙って振り上げる。

だが

「キャストオフ」

《cast off》

バァン!と弾け飛んだ装甲でそれは防がれた。
とっさにそれを剣で防ぐ一刀だが、バックステップでの後退を余儀なくされてしまった。


《change mantid》

「ご主人様!!」

「愛紗!!」

事を把握したのか、一般スタッフが逃げていく中で、一刀の隣に愛紗たちが駆け寄ってきた。

その間に、すでにフォーム移行を完了したマンティスが肩から武器を取り外して構えている。


「あれが敵ですか?」

「ああ。何が何だかわからないけどな。とにかく早いと思う。翠を中心に陣を組んでくれ」

この場であいつの動きについていけるのは、風足が使える翠と、その系統の力を借りて使える自分だけだ。
メインはこの二人になるだろう。

だが、対面しておきながらマンティスはコリコリと頭部をひっかくように鎌の柄を揺らしているだけだ。
そうして数秒睨みあって、するとマンティスはクルリと踵を返してステージへと向かってしまう。


「おい貴様!!背中を向けるとはどういうことだ!!」

そのマンティスに、侮辱されたと思ったのか春蘭が叫んだ。
だが、マンティスは怒りも収まったのか冷静に告げる。


「己惚れるなよ人間。睨みあっているだけの置物が吠えるな。あの場でそれすらをかなぐり捨てて俺に向かってこない時点でお前たちは「敵」とは言えない」

「何だと・・・・!?」

「何度も言わせるな。俺の敵である「あの男」のように、勝てるかどうかを度外視した「立ち向かう者」でなければ、もはや俺の敵として値しない、と言っているんだ」


睨みあった時点でもはや落第。
勝ち目を待とうなどというそのような受け身ならば、そもそも自分の敵である資格無し。

「貴様らは、俺の敵にすらなれない」

「ナ メ る な ァッ!!」

ドォッ!!


爆発したかのような音がして、春蘭がその場から消えた。
目の前に武器を持ち立つ自分をして、「敵ですらない」等と言われるのは侮辱の極みだ。

歴戦の武将として名を馳せた、夏候惇元譲をそのような言葉で侮辱した罪は命を以って償うがいい。


「援護する!!」

姉を侮辱された秋蘭は、同じ程に怒っていた。
普段は冷静な彼女でも、血を分けた双子の姉をバカにされて冷静でいられるほど淡白な彼女でもない。


突っ込む春蘭。
その後頭部を狙って、弓を引く秋蘭。


春蘭の攻撃は、大きく振りかぶっての脳天への剛撃。
そのまま体を真っ二つにできるほどの一撃・・・・に見せかけた囮だ。

ギリギリで剣を引いて、頭を下げる。
すると、相手から見えない秋蘭の矢が、敵の眉間に向かって突き刺さるのだ。

そして、さらに腰を落とした春蘭の横一閃。
縦に割れなかった代わりに、今度は胴体で横に真っ二つにしてやる斬撃だ。


(もらっ)(た!!)

秋蘭、春蘭の二人は、全く同時にそう思った。
タイミングは完ぺきだった。

マンティスからも、その矢は見えていなかった。
振り下ろされようとする剣。

だが、この大振りの剣は躱すといい。
代わりに、貴様の眉間に風穴を通す。


しかし

「どうした?自慢のパワーは」

「グッ!?」

マンティスは、春蘭に向かって踏み出しそれを止めた。
片手で振り下ろされた春蘭の剣を止めたのだ。


バカな。
自分の剛撃は、囮とはいえ気迫と威力は間違いなく本物。

ギリギリで引くまでは、その一撃は本物のはずだ。

だというのに、まさか避けるでもなく、そして、受け止めてもなお裂けぬ敵だというのか・・・・!!


「マズ」

「姉者!!!」

グォン、と体を捻る。
背後から迫っていた秋蘭の矢が、春蘭の肩に突き刺さる。

だが肩を負傷した程度で止まる彼女ではない。
なおも攻撃をしようと、足を振り上げて一撃をぶちかます。

見事な一撃が、マンティスの側頭部に。
しかし


「なるほど猪武者か。だがな、勝利のビジョンもなくただ突っ込む獣では俺の「敵」にはなりえない!!!」

足を掴み、春蘭を持ち上げて放る。
そしてその耳に向かって裏拳の一撃。

手前で止まったそれは、しかし確実に衝撃波が春蘭の鼓膜にぶち当たってそれを裂いた。


「ぐぁあ!!」

「姉者!!」

衝撃に弾かれて飛ぶ姉を追って、秋蘭が走り出す。
それを見て、即座に愛紗が号令を出して駆けだした。


「総員迎撃態勢!!」

「残念だな」

愛紗は叫んだ。だが、駆けだしたはずの足は止まっている。
そして、返事の代わりの声は背後からした。


振り返れない。
気づけば、前に立っていた翠が、離れた場所で、辛うじてガードしたかのような体勢でしゃがんでいた。


ドサリと倒れる音すらなかった。
攻撃を行った音もなかった。
近づいてきた、移動音すら皆無だった。

バカな。
この機動は知ってはいるが、何一つとして前兆もなくここまで早くだと――――!?


「翠ッ!!走れェッ!!」

「くっ!!」

「フッ!!」

攻撃と共に振り返る。
背後には倒れている仲間がいたが、わかり切ったことに目を向けない。

振り返った先に居るこの敵を―――――マンティスを食い止める!!


しかし

「おっと危ない。はい残念だ。ライダースラッシュ」

愛紗の偃月刀は、待ち構えていたマンティスのツインスライサーの刃で切り裂かれた。


《1,2,3》と、ゼクターの反り返った腹部をタップされ、タオキン粒子が刃に溜まる。
そして、斬り裂こうとそれを振るおうとし


「ぬん!!」「破ァっ!!」

強烈な二つの拳に阻まれ、その場を退がる。
確かに攻撃を加えたはずだが、まだ倒れていなかったのか。

卑弥呼と貂蝉の二人の拳を直前で回避したマンティス。

と、そこで気づいた。
なるほど、あの男か。


「どういたしまするか!ご主人様!!」

「あたし達ならぁ、あいつをぶちのめすことぐらいはできそうよぉん!!」

「いや、二人はみんなを連れて外に行ってくれ。みんな動ける状態じゃない」

北郷一刀が、愛紗の身体を抱え上げて二人に指示を出している。



おそらく、あの一瞬。
自分があの女の背後にいる人間たちを打ち据えていた、あのクロックアップの中。

あの男は彼女たちを守ろうとガードしていたのだ。

だからこそあの倒れた女どもはまだ生きていて、一人はガードし、あの筋肉ダルマは反撃までしてきたのだ。


「ご主人様・・・」

「凄い汗だぞ?まあ俺は愛紗の匂いならいいけど」

「ば、バカなことをおっしゃってないで・・・・」

息切れしながら、愛紗が一刀を窘める。
彼女を元気づけようと笑う一刀だが、ここではもう彼女は戦えないだろう。

背後に立たれただけで、これほどの疲労感。
おそらく、あの動きについていける者でなければ身体の前に精神がつぶれる。


「頼む、二人とも!!」

「あいわかった!」

「ご主人様も、無理しないでねぇ!?」

ダンっ!!と、二人が彼女たちを抱えて外に向かう。
マンティスがそれを阻止しに来るかと思って警戒する一刀だが、彼はそんなことに気を取られずにステージ上へと上がっていた。

ガラガラとカメラを引っ張り出し、コードをつないで電源をつける。
そして、手元のノートパソコンをいじりだすと、それだけでいとも簡単に電波ジャックをしてしまった。



「世のネイティブ諸君!!そして、その中でも我らの支配を望む同志よ!!集え!!ここは武道館ホール!!すでに太陽は我が手に堕ちた!!戦いの神を下し我らの支配は完全なものとなる!!」

カメラに向かて叫び、ズルリと一人の男を引っ張り出すマンティス。
その男を見て、一刀も、そしてその場に残っていた翠も驚愕する。

その血を流した跡を残した男は、あの天道総司だったからだ。

マンティスの発言からまさかと思っていたが、まさか本当に、天道総司を倒し、捕える男がこの世に居ようとは―――――!!


「人類は、我らネイティブよりも底辺にあり、支配されるのが相応というものだ!!」

さらにマンティスは叫ぶ。
同志に対しての宣言は終えた。

後は、我が最大の敵であるあの男にだ。

「戦いの神よ!!ガタックよ!!我が敵よ!!俺はここだぞ。あの男を連れて、ここまで来い!!」


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テレビの前で、その放送を加賀美は見ていた。
ついに動いたか。


「じゃあ、手筈通りに」

そういって、部屋を出ていく。
男の目には、ただ決意と覚悟が燃え上っていた。



to be continued
 
 

 
後書き
カブト編、最終戦に向かっていくぜ!!

マンティスがガチ強い
いや、下手すると翼人クラスに強いですからね。マジで。


武道館内に残っているのは、一刀と翠のみ。
果たして、加賀美はどのようにマンティスを押しのけて天道を救い出すのか!!



蒔風
「ドキドキ・・・・」

そしてお前は何をしてるだぁー!!!



一刀
「次回。最強の証明」

ではまた次回

 
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