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KAMITO -少年篇-

作者:redo
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カミト参戦

「秘術……魔鏡氷晶(まきょうひょうしょう)!」

白が印を組み、術名を発音した次の瞬間、氷で出来た透明な鏡の板が何枚も出現する。氷の鏡がドーム状に四方八方に展開され、サスケを閉じ込めてしまった。

「なんだこの術は?」

氷の鏡に囲まれたサスケは、今の出来事をすぐには理解できなかった。それはカカシもサクラも同様だった。

3人が言葉を失っている間、白はおもむろに歩き出す。

「なっ!?」

なんと白は、自分が作り出した鏡の中に吸い込まれるように入っていった。そして僅かに鏡が光を反射したかと思うと、瞬く間に全ての鏡に白が映り込んでいた。

経験豊富なカカシでさえ初めて眼にする術に、サスケは迂闊に動けず、ただその場で固まるしかなかった。

「くそっ!」

サスケを助けようと鏡のドームを目掛けてカカシは駆け出すが、透かさず俊敏に動いた再不斬が目の前に立ち、行く手を阻まれてしまった。

「あの術が出た以上、あのガキはもうダメだ。それに……お前の相手は俺なんだろ?」

「くっ!」

カカシは再不斬との一騎討ちに持ち込まれ、形勢がひっくり返った。

そして一方こちらでは、サスケと白による一騎討ちが始まろうとしていた。

「じゃあ……そろそろ行きますよ」

全ての鏡に映った白の不気味かつ冷徹な声が、どこから聞こえてくるかもわからず響き渡る。

(これは、鏡なのか!?一体何を……?)

自分を囲む鏡から発せられる殺気に、サスケは圧倒されていた。

「僕の本当のスピードを……お見せしましょう!」

言葉の結尾を強調し、サスケは更に圧倒されそうだった。

必死に頭を回転させて状況を理解しようと身構えるが、白の非情な攻撃が始まりを告げた。

ほんの僅かな一瞬、サスケの肩に1本の千本が横切り、肩に細長い傷を与えた。

「ぐっ!?」

その痛みに気づいた時はすでに遅く、サスケは白の最速の攻撃を無性に受け続け、全身が切り刻まれていくのを確かに感じ取っていた。

「ぐうっ!!があぁぁぁぁ!!」

サスケは悲痛な叫びがカカシ達の耳にまで届く。無数の千本を喰らったサスケの全身は血塗れとなり、力尽きたかのように地面に膝をついた。

「サスケ君!」

鏡のドーム内で何が起きているのかはわからない。このままではサスケが死んでしまうと物怖じしながら、サクラは必死に声を上げる。

カカシはすぐにでもサスケを助け出そうと行動を起こしたいが、目の前に立ちはだかる再不斬によって未だに動きを制限されている。

「……迂闊に動けば……そっちの2人を殺るぞ」

「くっ……」

悔しさのあまりに歯を食い縛るカカシは再不斬と対面。サクラは護衛のためタズナの傍を離れられない。2人はそれぞれの状況下のせいで動けず、ジッと耐えるのに精一杯だった。

「ぐうぅぅ!!」

サスケは為す術もなく、白の一方的な攻撃は止まらず切り傷が増えるだけだ。拷問を受けるような有り様に、サクラは動かずにはいられなかった。

「タズナさん、ごめん。……少しだけ、ここを離れるね」

サクラの、怒りと使命感が混合したような瞳に、タズナはすぐさま答えた。

「ああ……行ってこい」

「……うん!」

タズナに背中を押されたサクラは、絞り出すような返事をして駆け出した。

「サスケ君!今行くから!」

ホルスターから抜き取った1本のクナイと共に、一筋となってサスケの所に突っ込んでいく。

「受け取って!」

鏡の中に点在する白に狙ったと思われたが、サクラは攻撃ではなくサスケにクナイを渡すつもりなのだ。

サクラの投げたクナイが鏡のドームの隙間を通ってサスケに向かっていくが、その矢先。

タッ!

突如、白が鏡から外側に半身だけを出し、サクラの放ったクナイを片手で簡単に受け止めてしまった。

「そんな!?キャッチされた!」

「里一番の切れ者……でしたっけ?聞いた話と全然違いますね。呆れてものも言えませんよ」

サクラを一蹴しながら白は再びサスケを見据え、とどめを刺そうと追撃の構えを取る。

(くそっ……カミトがいれば……!)

サスケはこの時だけ、嫉妬にも近い感情を抱いていたはずのカミトを当てにした。事実、カミトの感知能力なら白の攻撃を見切り、攻略できるはず。そして白のチャクラを感知して本体を見極めることもできたはず。

「くっ……カミトの野郎を恨むぜ、まったく」

不敵な笑みを浮かべながら愚痴を吐いたサスケに、白は即座に反応を示した。

「こんな状況で笑っていられるとは……面白い方ですね」

追い込まれているのは自分ではなく、サスケのはず。だが、サスケの心は折れていない。

「大した度胸の持ち主ですね」

白は自分の術を受けても笑みを浮かべていられる敵に初めて直面した。

「でも……ここまでのようですね」

仮面の下からでも分かる程、白の凶悪な殺気がサスケに向けられる。

「 サスケ君!!逃げて!!」

サスケが今にも殺されそうになる。それを肌でしっかりと感じていたサクラは身の毛立つ思いで叫ぶ。

もう殺られる__かと思われた瞬間。

「水遁・水龍鞭(すいりゅうべん)!」

澄んだ声による術名が辺りに響き渡った突如、霧の奥からゲル状の鞭が飛んできた。

「うわっ!」

鏡から出ていた白の半身に鞭が巻き付き、白は鏡ドームの外側に引っ張り出された。

「え?……何?」

白を地面に這い蹲らせた突然の出来事に、サクラは眼を見開いた。

「……今のは……まさか……」

地面からゆっくりと起き上がる白は、これが誰の仕業なのか予想していた。

そして__。

不意に、白は自分の背中に重く伸し掛かるような圧力を感じた。

「……動くな」

気づくと、白はいつの間にか後ろを取られ、右手に逆手持ちにしたクナイの先端を首に突き付けられていた。

「やっと来てくれましたか。歓迎しますよ……カミト君」

振り向いて顔を目視せず声だけで見抜いた白に、カミトは少なからず感心した。

「今のは……瞬身の術!?」

突然のカミトの登場に驚いたカカシだが、それ以上に驚いたのは白の後ろを取った術の方だった。

先ほどカミトが駆使した《瞬身(しゅんしん)の術》は、チャクラで己の肉体を活性化させ、高速移動する術。

高速移動という点では《飛雷神の術》と似ているが、肉体強化ということで体術に分類される。時空間忍術に分類される飛雷神とは別物。移動速度も飛雷神に比べて劣っている故、神速とは言えない。

しかし、今のように敵の後ろを取るには打って付けの術。

飛雷神とは違う意味で驚愕せざるを得なかった。

「来るのが遅いんだよ……バカが」

サスケは傷だらけの体でも小声で文句を語るが、照れ隠しの笑みを浮かべていた。

(このタイミングで感知タイプのガキがお出ましとは……悪夢だぜ)

カミトの登場は再不斬に多大な緊張感と青筋を立たせた。

(あれじゃ、白も身動き取れねぇな)

白を自由にしようと、再不斬は隙を見て3つのクナイを振りかぶり、カミトに目掛けて投擲(とうてき)する。

「しまった!?」

カカシは焦って身構えるが、カミトはすぐさま対応してみせた。

キンッ!キンッ!キンッ!

カミトは空いていた左の片手を構え、腕に装備していた籠手に当たったクナイが金属音を響かせながら弾かれた。

「何!?」

上出来な咄嗟の対応に、再不斬は眼を見開いた。

(よく咄嗟にあんな真似が……)

続いてカカシも衝撃を受けた。

「見事ですね。僕の後ろを取ったのもそうですが……」

喉元にクナイを突き付けられたまま沈黙していた白が、とうとう口を動かした。

「それは褒め言葉として受け取っておくよ」

話を合わせるようにカミトは言葉を返した。

「やはり君は強いですね。でも……先ほどの瞬身の術……使えるのは自分だけだと思ってませんか?」

「何?」

最後の一言が、不吉な予感を漂わせた。

シュ!

「っ!?」

突如、カミトが前から白が一瞬にして掻き消えた。それとほぼ同時にカミトが、クナイを握っていた右の片手と共に振り向く。

「そこか!」

右の片手が動かされた方向は、カミトの真後ろ。

カキンッ!

白の持つ1本の千本に迎撃され、激しい火花が散る。

この時、カミトの瞳から圧倒的な気合が(ほとばし)らせ、殺気のようなものが感じられる。怖気ついた白は意識を切り替え、カミトの視線を正面から受け止めた。

互いの忍具で鍔迫り合い状態になった2人の間に、空気の流れが微妙に変わってるような気がした。

「瞬時に僕の位置を見抜くとは……。感知タイプだったことに感謝するんですね」

「確かにそうだね。でも驚いたのはこっちも同じだよ。まさか君も瞬身の術が使えるとは」

薄々勘付いてたが、カミトが対面した忍の中でもかなりの強敵だろう。あのサスケがボロボロになるほどなのだから尚更だ。

数秒が経過して、カミトと白の2人は同時に後ろへ下がり、互いに距離を置いた。

(彼の術はまだよくわからないが……実力的に考えれば、俺やサスケ、カカシ先生をも上回ると考えたほうがいいな)

一旦距離を置いた途端に周りの状況を観察し、カミトは冷静に敵を分析し始めた。

考えてみれば、サスケがボロボロになった姿など一度も見たことがなかった。その上、カカシも迂闊に動けない状況。そして今、自分はそんな敵と対峙している。戦う覚悟はできているものの、サスケとの戦闘を瞳に焼き付けなかったカミトに、今の状況は厳しかった。

(……殺っちまうか)

全員の意識がカミトに集中する中、再不斬は再び隙を突いて手裏剣を手に取り、素早く腕を振ってカミトに投げた。

「しまった!?」

不意を突かれ、先ほどと同じ状況下に追いやられたカカシは危急の表情を浮かべる。

その拍子、再不斬の手を離れた手裏剣は、白の放った千本に華麗に撃ち落とされてしまった。

「ん!?」

当然、再不斬は混乱し、自分の攻撃をわざと食い止めた白に視線を向ける。

「白……どういうつもりだ?」

返答に時間はかからなかった。

「再不斬さん、彼は僕に……僕の流儀でやらせてください」

微妙に冷たい覇気を放つ白の様子に眼を見張る。

「手を出すな……てことか」

面をしていて表情もわからないはずだが、再不斬はすぐさま納得した。

「ふん……相変わらず甘い野郎だな……お前は」

鼻で笑い、一言を加えた。

「……すみません」

(確かに……甘いな)

甘い、という一言にはサスケも同感だった。

鏡で自分を囲んだ時、白は千本でしか攻撃を仕掛けず、急所らしい急所はほとんど狙わなかった。手加減のつもりか、生殺しのつもりかはわからないが、急いでサスケを殺そうとしていないのは明らかだ。

白と再不斬のやり取りを見ていたサクラは、息を飲んでカミトに言葉をかける。

「カミト、大丈夫なの?」

サクラは威勢の良いカミトの姿を見て、もう仲間が傷ついてほしくないと心底願った。

「大丈夫……とも言い切れないけど、この状況でそうも言ってられないからね。やるだけやってみるさ」

爽やかな笑顔を向けた後、意識を切り替えて白と対面する。

「カミト……」

カミトの一言と爽やかな笑顔に、サクラの不安が全て吹き飛ぶような感じだった。根拠の1つもないというのに、なぜか大丈夫だと確信できた。

「よしカミト、お前はサスケの援護に回れ。俺は再不斬を止める」

「え?」

カカシの意外な発言に咄嗟に振り向き、心の平静を失いかけた。

「でも先生、俺がいないと再不斬との戦闘は不利になるんじゃ……」

そもそもカミトが感知能力の修行を成し遂げた真の目的は、無音殺人術の達人である再不斬との戦いを想定してのことだ。

「状況が状況だ。今は再不斬より、面の少年に集中しろ。そいつの能力にも、お前の感知能力は必要不可欠だ。俺に構わず行け!」

「………」

しばし時間をかけて考え込んだカミトは、決断を下した。

「……わかりました!」

後ろ髪を引かれる思いで、再び白に向き直る。

今自分が相手にしている白は、サスケを追い込む程の実力者。再不斬も重要だが、眼前のお面忍者に感知能力が必要というカカシの言い分にも一理ある。

今は再不斬より白を優先しなければならない。それが今、ここでのチームワークだ。

重々しい空気を漂わせながらも、カミトは相手の出方を伺う。

「それでは……こちらから行きますよ!」

カミトの意図を察したのか、白が突如動き出す。

(とら)(とり)(うま)(たつ)()(とり)(とら)の印を結び始めた。

(あの印……まさか!?)

白の手の動きを見たカカシは悟った。

あれはサスケに攻撃を仕掛ける際に白が片手で結んだ印。だが、今回は片手でなく両手で印を結んでいる。

印を結び終えた後、橋の下を覆い尽くす水面から水が粒々と空へと浮き上がる。次いで、水粒1つ1つが小さな針を型取っていく。

「水遁・千殺水翔(せんさつすいしょう)!」

術名に区切りがつき、無数の水の千本がカミトに向かって飛来してくる。雨の如くカミトを切り裂こうと迫り来る。

「これは……!?」

水遁系の忍術ということは一目でわかった。興味を示すところだが、考える暇も与えてくれず水の千本が飛来する。

その刹那、カミトは素早く(たつ)(うま)()の印を結んだ。

「水遁・水陣壁(すいじんへき)!」

カミトの前方の足元から大量の水柱が垂直に湧き上がり、巨大な水の壁を作り出した。白の放った千殺水翔の行く手を塞ぎ、相手は全くもって無傷、という結果に終わった。

「え!?」

白は当然、信じられない光景を眼にした。自分とそう変わらない歳の少年忍者がこれほどの水遁を使いこなすなど、あまり見られない光景だ。

「そんな……僕の術より、君のほうが勝るなんて……」

「まぁ、今の術はかなりのチャクラを練り込んで発動させたからね。君のは、チャクラ不足だったのかもしれない」

チャクラ量や練り上げ次第で術の威力も変わる。白は千殺水翔を発動させる際、チャクラ量を危惧して少なめに練り上げた。それが(あだ)になったのだろう。

忍の本質は、いかに相手を騙せるかだ。術をかける際に相手の眼を盗み、意表を突き、裏をかく。それも忍の鉄則と言える。

「やはり……只者ではありませんね。ならば……」

不意に、サスケを囲む鏡ドームに眼を向ける。

「先に彼を始末しましょう」

「!?」

《彼》というのが誰を差しているのかは容易に見当がついた。その見当を裏切ることなく、白は素早く鏡に飛び込み、のめり込むように吸い込まれた。

「サスケ!」

サスケの危機を感じ、思わず声を上げた。

無我夢中になったカミトは、サスケを助けたい一心で鏡のドームの中に突っ込んで行く。

「カミト……!」

自分に向かって鏡ドームの中に入り込んできたカミトに動揺したのか、サスケは声を上げた。当人はニッコリと笑った瞬間、表情を消す。

「今はとりあえず、あいつを片付けることに集中しよう。1人より2人のほうが有利だ」

「……そんなこと、言われなくてもわかってる」

サスケは不本意な気持ちでありながらも同意し、倒れていた体を起こす。

「それにしても、この術はなんだ?さっきの術も、氷に類する術のようだけど……」

「さぁな。そもそもお前、なんで中に飛び込んでくるんだよ!」

予想していた通りの文句が返ってきた。

「お前がピンチだったからだよ。無我夢中だったし、助けなきゃって思ったんだよ。それに……感知能力を使えば、奴の術の仕組みもある程度わかると思うし」

「……確かにな」

(もっと)もな意見にサスケは納得した。確かにカミトは感知タイプ。それはもう疑いようがない。今までのカミトの行動や実力を見て、サスケも重々承知している。

「戦闘中にお喋りとは……余裕ですね」

「1対2で平然としていられる君のほうが余裕だと思うけど」

カミトの言い分に耳を貸さず、鏡に映る白は千本を構える。

「……行きます」

印を組む時間すら与えず、連続的に攻撃を放つ。

「来るぞ!」

「ああ!」

サスケとカミトは背中合わせで陣形を組んだ。

早速カミトは感知能力を駆使し、ギリギリに急所を外しながら攻撃を回避していく。サスケも釣られるように回避していくが、所々に細い切り傷を負っていく。急所に当たらないようにするのが精一杯で、攻撃自体を避け切れるわけではない。

カミトは攻撃回避だけでなく、白の本体の位置を見抜こうと必死だった。しかし、辺りを取り巻くチャクラの異様さに言葉を失った。

「……これ、どういうことだ!?」

「どうした!?奴の本体を見つけたのか!?」

サスケは動揺するカミトを尻目に、白の本体がどこか問いただした。

「おかしい。鏡に映る奴のチャクラは……全部本物だ!」

「全部本物だと!? そんなわけ……!」

衝撃的なやり取りの中、2人は冷静さは失わず、相手をよく観察しながら分析する。

「あいつ、氷から氷に飛び移ってるのか?」

カミトがポツリと呟いたところで、攻撃が一旦止んだ。

「この術は、僕だけを映す鏡の反射を利用する移動術。僕のスピードから見れば、君達はまるで止まっているようなもの」





その頃、カカシと再不斬は未だに睨み合っていた。互いに牽制(けんせい)し合い、一歩も動かない。

「っ!?やはり……!」

苦戦するカミトとサスケの一部始終を見ていたカカシは、ある事柄に気づいた。

「あの少年の術……《血継限界》か!」

カカシは悔しさの意を込めて言い放った。

「ふふふ……よくわかったな」

得意気に笑う再不斬は、カカシを見下すような目付きで睨む。

「血継……限界?」

初めて再不斬と対面した時にも聞いた言葉に、サクラは興味にも近い反応を示す。

「俺の写輪眼と同種のものだ。深き血の繋がり……超常個体の系譜……それのみによって伝えられる類いの術だ」

簡単に言えば、遺伝によって伝えられる特殊な能力または体質。

血継限界によって2つの性質変化を一度に合わせ、新たな性質を作り出す能力が存在する。血継限界によって発動される術は、単なる性質変化以上に才能に左右されるため、写輪眼で術の印をコピーしても術自体をコピーすることは不可能である。

白が使う《氷遁》は、水と風の性質を同時に発動し、組み合わせた忍術。





「氷なら、火で溶かせばいいんじゃないのか?」

「……その手でいくか。こんな鏡、ぶっ壊せばいいだけだ!」

ふと言葉を発したカミトの意図を察したサスケは、素早く印を結ぶ。

「火遁・豪火球の術!」

白の潜む鏡に打ち付けられた火の球は轟々と燃え盛る。

全てを飲み込む豪華。水蒸気の立ち上る激しい音。

しかし__。

「無駄です。その程度の火力では溶けませんよ」

鏡は僅かに水滴を零すのみで、全く溶けなかった。

「そんな……」

「ちっ!」

効果抜群だと思っていた術が効果を示さず、カミトは唖然とし、サスケは舌打ちをした。

「僕にとって……忍に成り切るのは難しいことは」

ふと口を開いた白の言葉は唐突(とうとつ)だった。

「出来るなら、君達を殺したくないし……君達に僕を殺させたくもない。けれど、君達が向かってくるなら、僕は刃で心を殺し、忍に成り切る。この橋は、それぞれの夢へと繋がる戦いの場所。僕は、僕の夢のために。君達、は君達の夢のために。恨まないでください。僕は大切な人を守りたい。その人のために働き、その人のために戦い、その人の夢を叶えたい。それが僕の夢。そのためなら、僕は忍に成り切る。あなた達を殺します!」

訥々(とつとつ)と語られた言葉は平坦なのにも関わらず、強い意思が宿っていた。負けない、負けてたまるか、という剥き出しの意志が宿っている。

そんなものをぶつけられたら、ムキになってしまう。意地になってしまう。お前に負けるか、と強気にならないといけなくなったしまう。

これは言わば__宣戦布告だ。

喧嘩を売られたのなら、買うという旨をわかりやすい形で伝えるのが作法だ。カミトは親指で首を掻っ切るジェスチャーをし、サスケは親指を地面へ指を差した。

「今すぐ忍を廃業して詩人になったらどうだ?」

「他人に夢を預けるところが感動的だ。本にして売ったほうがいいかもね」

窮地に陥っても(たわむ)れに言葉を返す2人には、どこに潜んでいるかわからない敵と戦う覚悟はすでに出来ていた。

殺し合いが__始まる。

とは言うものの、プライドの高いサスケは白の術に対する怯えを隠し切れずにいた。

(カミトの言う通り、全部の鏡に映る奴のチャクラが本物だとしたら……奴を眼で追うのはもう無意味だ。だが、攻撃を繰り出しているのは奴1人)

考えられるとすれば、分身を鏡に潜ませ、全員で同時に千本を放っている。しかし、それにしては全員の動きが速過ぎる。武器の軌道する見切れない有り様。単なる分身の術だとすれば、氷の鏡を必要とする理由が見当たらない。

鏡が白の攻撃の要であることは疑いようがなかった。

その時、サスケの脳裏に、賭けとも言える妙案が浮かんだ。

「カミト、奴が鏡から飛び出した瞬間、チャクラがどうなってるか調べろ」

「……わかった」

サスケの真意がまだ半分しか理解できていないカミトだが、その賭けに乗ってみることにした。





その頃、本気を出した白を眼の端に移しながら、再不斬は嘲笑する。

「お前らみたいな平和ボケした里では、本当の忍は育たない。忍の戦いに於いて、最も重要な《殺しの経験》を積むことができないからな」

ある視点から捉えれば、再不斬の言ってることは正しい。しかし__それは的外れだった。

サクラはともかく、カミトとサスケは違う。

カミトは里の嫌われ者として命の駆け引きを何度か経験し、サスケは一族と家族を失ったことにより、殺される覚悟が身体に染み付いている。元より素養はある。

「生憎、あの2人は殺しを何度か経験していてね。そこら辺の機微(きび)を理解している。殺さなければ殺される、という事実をな」

忍の任務で重要なのは、殺しの経験。それはカカシも理解している。

だが、あの2人なら大丈夫だろう、という思いを持って信じた。《弟子を信じて見守る。それも師の在り方》という三代目火影の言葉を信じたからこそ、カミトとサスケを信じられるのだ。

「悪いが……一瞬で終わらせてもらうぞ」

額当てに左手を添え、隠された写輪眼を見開こうとする。

「また写輪眼か。芸のねぇ奴だ」

これ以上時間はかけられない。

(カミトなしでやるのは、ちときついが……やるしかない!)

カカシと再不斬の一騎打ちが始まろうとしていた。
 
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