KAMITO -少年篇-
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鬼人の到来
深い霧に覆われた海。その海を物静かにゆっくりと前進する手漕ぎ船。まるで雲の中を進んでいるようだった。
小舟に乗り、波の国に向かうカカシ一行とタズナ。
「すごい霧ね。前が見えない」
サクラが首を左右に振りながら周りを見渡すが、鼻の先すらまともに見ることができない。
濃霧の中をボロボロの手漕ぎ船でゆっくりと進んでいく内に、真後ろで船をオールで漕ぐ船頭が口を開く。
「そろそろ橋が見える。その橋沿いに行くと、波の国がある」
眼を凝らしてみると、船頭が言った通りになった。先ほどまで何も見えなかった真っ白な空間に、突如として巨大な建設中の橋が出現した。
「うわぁ!すごいな!」
荘厳な光景に圧倒されたカミトは、つい感嘆の声を上げてしまった。
「こ、こら……静かにしてくれ。この霧に隠れて船出してんだぞ」
しまった、とカミトは口に両手を当てる。
「す、すいません」
その様子を見て、カカシはこの先の道のりにさらなる不安を感じ、タズナに問いただす。
「タズナさん。船が桟橋に着く前に、訊いておかなければならないことがあります」
「わかっておる」
聞くまでもない、といった態度でタズナは話を始める。
「さっきあんたが言った通り、おそらくこの仕事は任務外じゃろう。……実はワシは、超恐ろしい男に命を狙われている」
「恐ろしい男?」
カカシは、やはり、と面倒な事態にタズナが巻き込まれているとわかり、難色を示した。
「あんたらも、名前くらいは聞いたことはあるじゃろう。海運会社の大富豪……《ガトー》と言う男を」
「え!?ガトーって……あのガトーカンパニーの?世界有数の大金持ちと言われる!?」
予想もしない人物の名前を聞いたカカシは、珍しく呆気に取られた。
《ガトーカンパニー》とは、忍世界でも一二を争う海運会社。火の国に於いても多くの運搬事業を手懸けている大企業。
「そうじゃ。表向は海運会社の社長ということになっておる」
この先、タズナは恐ろしいほどの緊張感を持って話を続けた。
「じゃが……裏ではギャングや忍を使い、麻薬や禁制品の密売、企業や国の乗っ取りといった悪どい商売を生業としておる。そのガトーが……1年ほど前、波の国に眼をつけおった。財力と暴力を盾に入り込んできた奴は、あっという間に島の全ての海上交通、運搬を牛耳ってしまったのじゃ」
聞けば聞くほど、嫌な風が吹いてくるようだった。
「波の国のような島国で海を牛耳るということは、富、政治、人、その全てを支配するということじゃ。しかし……そんなガトーが唯一恐れているのが、予てから建設中だった、この大橋の完成じゃ。大陸本土へと橋が掛かれば、ガトーの独占を終わらせ、波の国を解放することができる。これはワシ自身を含めた、波の国全員の悲願なのじゃ」
首を横に向け、今自分達が通り過ぎようとしている大橋を見ながらタズナは示した。
「そっか。それで橋を作っているおじさんが邪魔になったってことね」
察しがついたサクラは、ここまでの説明で全般を理解したようだった。
「じゃあ、さっき俺達を襲った2人の忍者は……」
「ガトーの手下ってことか」
続いてカミトとサスケも全般を理解した。
3人は事態の最悪さに気づいていたが、カカシは新たな疑問をタズナに当てた。
「しかし、わかりませんね。相手は忍すら使う危険な相手。これだとBランク任務に匹敵します。なぜそれを隠して依頼されたのですか?」
カカシの質問に、タズナはどこか面目なさそうに答えた。
「……波の国は……超貧しい国で、大名すら金を持っていない。もちろん、ワシらにも金はない。高額なBランク以上の依頼ができるような金はない」
カカシは哀愁を漂わせるタズナの弁明に、どう対応すべきかわからなくなりそうだった。話を聞く限りでは、全ての元凶はガトーにあり、目の前の老人に非がないことが明らかだった。
「まぁ……お前さん達がこの任務をワシの上陸と同時に取り止めれば、ワシは確実に殺されるじゃろう。家に辿り着くまでの間にな」
「………」
カミトは、タズナという1人の老人だけでなく、波の国という1つの島国そのものを哀れに思えて仕方なかった。
「な〜に、お前らが気にすることはない。ワシが死んでも8歳になる可愛い孫が、一日中泣くだけじゃ!それにワシの娘も木ノ葉の忍者を一生恨んで寂しく生きていくだけじゃわい!いやな〜に!お前らのせいじゃない!」
カカシが黙るや否や、開き直ったようにタズナは捲し立てる。まさかの同情攻撃に痛いところをチクチクと刺され、カカシも下忍3人も、この図々しい老人に何も言えなくなっていた。
昔なら依頼人の心情や事情などは詮索しなかったが、カミトに言われた言葉__元はカカシが教えた言葉を振り返ると、任務を放棄することはできなかった。
「まぁ、仕方ないですね。国へ帰るだけでも護衛を続けましょう」
自身がカミトに教えた言葉やタズナの様子に、絆されたと言うか、魔が差したと言うか。カカシはついに観念し、任務続行を決心した。
(ふふふ……勝った!)
安い演劇が通用したタズナは、満足げに微笑んでいた。
本当なら、この任務はBランクどころかAランクでも遜色のないレベル。その上、手勢は上忍であるカカシ1人と、戦闘訓練どころか基礎修行すら終えていない下忍3人組。任務成功の見込みが感じられなかった。
カカシが心配を募らせる中、船は長く巨大な水路を進んで行く。
「もうすぐ国に着くぞ。念のため、マングローブのある街水道を隠れながら陸に上がる」
「すまんな」
船頭に申し訳なく思い、タズナは一言謝罪する。船は音を立てないように、ゆっくりと細い水路を進んで行く。数メートルに及ぶ水路を抜け、マングローブの森へ入っていく。
そこには水面の上に森があるようで、濃い霧が一本一本の木を輝かせていた。まるで白いキャンバスに描かれた森の中を泳いでいるような感覚だった。
「わぁ、綺麗な場所だなぁ〜」
森生活の長いカミトには、絶景にも等しいその森に感動した。しかし、その感動は木造の古い船屋に着いたと同時に終わった。
「俺はここまでだ。それじゃぁな。気をつけろ」
「ああ、超悪かったな」
カミト達一行を降ろした船頭は再びオールを漕ぎ、逃げ出すように急いでその場を離れた。船屋からは、街に向かう一本道以外、周りには何もなかった。あるのは霧の晴れた深い森だけだ。
「ようし!ワシを家まで無事を送り届けてくれよ!」
「はいはい」
息巻くタズナに対し、カカシは次に来る敵を想像しては、ため息を吐くばかりであった。
(おそらく、最初の連中は咬ませ犬。次に襲ってくるとしたら、今度は中忍じゃなく上忍レベルに違いない)
一行が周りを警戒しながら霧の晴れた森を歩く中、カミトは森の新鮮な空気を吸って気持ちをリラックスさせようとした。
(焦りは禁物。こういう時だからこそ、なるべく冷静に対応しなきゃ)
2人の刺客に襲われた時のようなミスを犯したくない一心で、神経を集中させていた。
__その時。
「……ん?」
突然、悪寒のような感覚がカミトの背筋に走り、思わず足を止めた。
「どうしたの?」
挙動不審なカミトを不思議に見るサクラは、何事かと辺りを見渡す。
「っ!?」
次の瞬間、カミトは素早く横の木の上に注目した。木の上を真剣な眼差しで凝視するカミトを見て、カカシは眼を丸くした。
「どうした、カミト?」
「……いや、今……誰かがあの木の上にいたような……」
「え?」
カミトの見る方向にカカシも眼を向けてみた。
「誰もいないようだが……」
と言いかけた瞬間。
「!?」
カカシは微かな殺気を感じ取った。
「!?……そこか!」
不意に、声を上げたカミトは草むらに向かって手裏剣を投げる。するとそこは、偶然にもカカシが殺気を感じた場所と同じだった。
下忍3人を尻目に、カカシは先程の草むらに入り、殺気の正体を確かめる。
しかし、そこには白い雪ウサギがプルプル震えながら気絶しているだけだった。傍にはカミトの手裏剣が外れ刺さっている。
「ちょっとカミト!なんてことすんのよ!?」
「うわぁ!やべ!ウサギを殺すところだった!」
「うるせぇよ、お前ら」
カカシに続いて草むらのウサギを確認した下忍3人。次いで、タズナはほっと胸を撫で下ろした。
「なんじゃ……ウサギか」
しかし、カカシだけは血相を変えて辺りを注意深く探り回っていた。
(あれは雪ウサギだ。だが、あの毛色はどういうことだ?白い毛並みは日照時間の短い冬のもののはず……)
カカシが辺り一帯に警戒を強める。
(さっそくお出ましってことか)
その姿を離れた木の上から眺める忍が約1名。
(なるほど。こりゃ、あいつら鬼兄弟レベルじゃ無理だな。木ノ葉隠れのコピー忍者……《写輪眼のカカシ》がいたんじゃな)
氷のように冷え切った眼でカカシを見下ろす1人の忍者。しかし、彼が注目する者が、他にも1人。
__緑髪の少年である。
(あのガキ……二度も俺に気づきやがった。明確な居場所まで突き止めるとは……《感知タイプ》か?)
カミトを注意深く観察する。
(だとしたら厄介だな。カカシと合わせて、先に始末しておくか)
不吉な言葉を残し、その場を離れた。
不意に、カミトが再び何かを感じた。
「っ!?……みんな伏せろ!!」
「「「え?」」」
「速く!!」
その場にいた全員の返答を聞く暇もなく、カミトの怒号に全員が一気に伏せた。そして数秒も経たない内に、巨大な影が全員の頭上を掠め、ものすごい勢いで飛んで行った。
「ちょっと!?何よ今の!?」
間一髪で助かったサクラが慌てて頭を上げる。
その直後、全長250cmの大刀が横向きに、近くの巨木に垂直に突き刺さっている。その恐ろしい有り様に、当たった場合の悪寒が全員の体に走り、息を飲んだ。
「よく気づいたなカミト。上出来だ」
カミトの手柄を高く評価したカカシだが、すぐさま顔を険しく変え、いつの間にか大刀の柄に立棒立ちする大柄な人物を見据えていた。
「いつの間に!?」
忽然と気配もなく堂々と大刀の柄に立つ人物の早技に、カカシ以外の全員が絶句した。
「外したか。やはり、その緑髪のガキが感知タイプだったようだな」
包帯をマスクのように口元に巻き、頭に額当てを斜め横に付けた、上半身裸の大柄な男。
「へ〜、これはこれは、霧隠れの抜け忍、《桃地再不斬》君じゃないですか」
立ちはだかる敵を前に、余裕な素振りではったりを決めるカカシ。
(感知タイプ?……緑髪って……俺のことか!?)
緑髪という短い単語と、殺気に満ち溢れた視線を送られたカミトは、身体を突き刺されるような衝撃を感じた。
「お前達は下がってろ。こいつは最初の奴らとは桁が違う」
カカシはそう言うと、左眼を覆っていた額当てに手を伸ばした。
「写輪眼のカカシと見受ける。……悪いが……爺いを渡してもらおうか」
互いに威嚇するように睨み合う。
((写輪眼!?))
その言葉に、サスケとカミトは俊敏に鋭い反応を示した。
しかし、サクラとタズナの2人は、聞き慣れないその言葉に呆気を取られた。
(写輪眼?何それ?)
サクラが聞き慣れない言葉に混乱しつつも、カカシが指示を出す。
「卍の陣だ。タズナさんを守れ。お前達は戦いに加わるな」
「え?」
「それが、ここでのチームワークだ」
カカシの言葉に何も言えず、3人はただ茫然と立ち尽くす。
「再不斬、まずは俺と戦え」
話に区切りがついた途端、カカシは左眼を覆っていた額当てを上げ、隠された赤眼を露わにした。
(!?……あの眼!やっぱり!)
半信半疑だったカミトも、その瞳に浮かび上がる勾玉模様と赤い光が自分の眼に写った途端、確信した。
「ほう、噂に聞く写輪眼を早速見れるとは……光栄だね」
「先生!その写輪眼って……まさか……!」
カミトの察しを理解したカカシは、短い言葉で答えた。
「ああ、お前が思ってる通り……これは、うちは一族の《血継限界》だ」
それを聞いて、やはり、とカミトは納得した。
「ちょ、ちょっと待ってよ!血継限界って……?て言うか、写輪眼ってなんなの?」
聞き慣れない単語ばかり聞いて頭が今にも混乱しそうなサクラを静めようと、サスケが言葉巧みに答える。
「写輪眼……。うちは一族に代々伝わる瞳術で、あらゆる幻術、体術、忍術を瞬時に見通し、跳ね返してしまう眼力を持つと言われる。しかし、写輪眼の持つ能力はそれだけじゃない」
再不斬はサスケの解答に満足し、薄気味の悪い笑みを浮かべ、付け加えた。
「……ご名答。それだけじゃない。それ以上に怖いのは、その眼で相手の技を見極め、コピーしてしまうことだ」
カカシと再不斬は互いを睨みつけたまま、未だに動かずじっとしている。
「俺様が霧隠れの暗殺部隊にいた頃、携帯していた手配書に、お前の手配情報が載ってたぜ。それにはこうも記されていた。……1000以上の術をコピーした男……コピー忍者のカカシ、とな」
再不斬はカカシを睨み返すと、カカシも応じるように睨み返した。
(コピー忍者?カカシ先生って、そんなにすごい忍者だったの!?)
(マジかよ……)
サクラとカミトは、今まで知り得なかったカカシ伝に驚いた。しかし、そんな中でサスケだけは疑いの眼差しを向けていた。
(……どういうことだ?写輪眼はうちは一族の中でも、一部の家系にだけ表れる特異体質だぞ。もしかして、こいつ……)
サスケの疑問の高ぶりも収まらない中、ついに再不斬は重い腰を上げて臨戦態勢に入った。
「さてと、お話はこれくらいにしとこうぜ。俺はそこの爺いをさっさと殺んなくちゃならねぇ」
瞬殺すような鋭い殺気が、タズナに向けられる。
透かさず下忍3人は卍の陣を取り、タズナを囲んで守りの態勢を整える。
「と言ってもカカシ……まずはお前を倒さなきゃならねぇようだな」
再不斬はバッと木を踏み込み、空中に飛ぶと一瞬で姿を消す。すると、いつの間にかカカシの前方にある池の上に立っていた。
「あそこだ!」
カミトがまた、誰よりも瞬時に再不斬の位置に気づく。サスケとサクラも遅れて位置を見抜くが、目の前のあり得ない光景に呆然としていた。
(かなりのチャクラを練りこんでやがる!)
再不斬はすでに、丑・巳・未の印を構え終え、術を発動していた。
「水遁・霧隠れの術」
スゥーッと再不斬の姿が霧に包まれていき、辺りの霧が徐々に濃くなっていく。
途端、カカシが盾になるように先頭に立つ。
「まずは俺を消しに来るだろうが……」
「あいつ、何者なんです?」
サクラの問いに、間もなく答える。
「桃地再不斬。元霧隠れの忍で、《無音殺人術》の達人として知られた男だ。気がついたら、あの世だった、なんてことになりかねない。俺も写輪眼を完璧に使いこなせるわけじゃない。だからお前達も気を抜くな」
カカシの警告に、3人のタズナは心臓が張り裂けるような緊張と恐怖を覚える。どこから狙われるかもわからない。そんな戦慄が3人の心を蝕んだ。
そうしている間にも切りはどんどん濃くなっていく。
「くそっ!これじゃほとんど視界ゼロじゃないか!」
手も足も出ないこの状況に、カミトは思わず声を上げた。
「波の国は海に囲まれておるからな。霧が超出やすいんじゃ」
タズナから道理に合った意見が吐かれる中、ますます濃くなっていく霧に、とうとうカカシの姿まで奪われてしまった。
「先生!」
カカシの姿が捉えられなくなったサクラは、更なる不安に駆られた。仮にカカシを探すとしても、こうも視界が悪くては迂闊に動けない。
動けば__再不斬に殺られる。
そんな不安と恐怖のせいで3人は動くに動けない。
「……8箇所」
不意に、再不斬の遠声が周りに響き渡るように聞こえた。
「なんなの!?」
サクラは一瞬、視界をゼロにしている霧の存在を忘れ、辺りを見回して再不斬がいるかどうか確認した。
「喉頭、脊柱、肺、肝臓、頚動脈に鎖骨下動脈、腎臓、心臓」
今のは全て、身体の位置、内部を意味する言葉ばかりだ。
「さて……どの急所がいい?」
再不斬の不気味な囁きが濃霧中に響き渡る。自分達が、身体のどこを斬られるか問われいてるのだとすぐに気づいた。
肌で感じる恐怖の中でも、カカシは冷静に再不斬の気配を辿っていた。
(ここだ!)
しばらくしてカカシは、右手の人差し指と中指を上に両手を一直線に重ねた印を結び、身体からチャクラが乱れるように吹き散らされ、辺りが少し霧散する。
同時に再不斬以上の殺気が発せられ、鈍く、鋭く、抉るような感覚が4人に働きかける。
(……すげぇ殺気だ!……呼吸の1回、眼球の動き1つでさせ、気取られ、殺される。そんな空気だ。……小1時間もこんなところにいたら、気がどうにかなっちまう!)
サスケの手足は震え、冷や汗すら止まらない。すでにクナイを構えた手は腰まで下がっていた。
(……肌に感触する空気だけでも、わかる。……これが、上忍同士の殺意のぶつかり合い。自分の命を……握られたような感覚だ)
普段は冷静に振舞っているカミトもこの有り様。
しかし、サクラの状態はそれ以上だった。
(嘘……嫌……死にたくない……)
下忍達を包む空気は、身体中を刃物で刺されるかのように伸し掛かった。一瞬、自ら命を絶とうと考えたくらいだ。
「お前ら」
そんな異様な場に支配される3人を安心させるため、、カカシは優しく語りかけた。
「「「!!!」」」
3人は何かに弾かれるように緊張が解けるのを感じた。
「大丈夫だ。お前達は俺が死んでも守ってやる」
カカシは振り返り、暖かい笑顔を浮かべながら言った。
「俺の仲間は……絶対殺させはしないよ」
その言葉に、3人は少なからず恐怖が解れ、安心感に浸った。
「それはどうかな?」
「!?」
カカシが反応したのも束の間。再不斬の姿は__カミトのすぐ傍にあった。
「……え!?」
突然、背中からの声に、カミトは振り返ることさえできなかった。
「まずは感知タイプのガキ……お前からだ!」
再不斬の無慈悲な斬撃が、カミトの命を絶とうと振り下ろされた。
「させるか!!」
透かさずカカシは、決死の覚悟で再不斬の懐に飛び込む。
グサッ!
カカシが手に持っていたクナイが、再不斬の腹に突き刺さり、2人が接触し合ったまま動かなくなる。
その時。
「先生!後ろ!!」
カミトが叫び声が耳に届いた瞬間、腹にクナイを刺していたはずの再不斬の体が水に変化し、崩れ落ちた。
(水分身か!)
カカシが身を強張らせた隙を狙い、背後から本物の再不斬の斬撃がカカシに向かう。
「死ねーー!」
再不斬の喚き声が響いた時はすでに遅く、カカシの体は真っ二つに断絶される。
体から液状のものが飛び散る。一瞬それを断絶されたカカシの血に見えたが、数秒も経たない内に違うと気づいた。
「これは……俺と同じ水分身!?……まさか!?」
声を上げた時、すでにカカシの姿はなく、先ほどの再不斬と同様に水になって消えてしまった。
カカシを断絶した時に見た液状の何かは、血ではなく水だった。
「動くな。……終わりだ」
再不斬が反応する間もなく無音に現れたカカシが、背後から首にクナイを突きつける。
(す……すげぇ。これがカカシ先生の……真の実力なのか……)
サバイバル演習の時には知る由もなかったカカシの実力に、カミトは圧倒されそうだった。傍観していた他の3人も、呆気に取られながらも感心していた。
__しかし。
「ふふふ……終わりだと? 笑わせやがって。わかってねぇな」
追い込まれたはずの再不斬は、余裕にも不敵な笑みを浮かべる。
「猿真似ごときじゃ、この俺は倒せない。……絶対にな」
再不斬の不快な言動を聞いても、カカシは決して気を緩めない。
「ふふふ……しかしやるじゃねぇか。あの時すでに、俺の水分身の術はコピーされてたってわけか」
霧隠れの術を使った時、同時に再不斬は水分身を1体作っていたのだ。霧のおかげでカカシには見えていないと思っていたようだが、思い違いだったようだ。
「だが……なぜ俺が、その緑髪のガキから殺ろうとしたのがわかった?」
再不斬の冷たい一言に、カミトの背中にぞくっと冷気が走った。
(……やっぱり、感知タイプって、俺のことか!? でも、どういうことだ!?俺が感知タイプって……)
なぜ真っ先に自分が狙われたのか。カミト本人も、まだ自分が注目される理由の全体図を把握できずにいた。そんなカミトの思考とは関係なく、カカシは再不斬の質問に冷静に答える。
「理由は単純かつ明快だ。……無音殺人術の達人であるお前がもっとも恐れるもの。それが感知タイプだ。どんなに音を殺しても、その身に流れるチャクラまでは掻き消せないからな。それに……相手はまだ忍者に成り立ての子供。卑劣なお前が見逃すはずがない」
あくまで冷静に答えるが、内心では余裕を見せる再不斬に焦りを感じていた。そんなカカシの思考を読み取ったように、再不斬もある答えを導き出した。
「いかにもらしい台詞を喋っといて、あのガキを囮に使ったってことか。噂に違わぬ冷血ぶりだな」
狡猾なカカシの手口を嘲笑するが、当の本人は決して動揺しない。
「囮じゃない。信頼だよ。お前ら霧隠れの忍者には似合わない台詞だろうがな」
カカシの真っ直ぐな言葉に嫌気を差された再不斬は吐き捨てた。
「はっ!くだらなねぇ。けどな……」
「!?」
不意に、冷ややかな気配を背後から感じた
「俺もそう甘くはねぇんだよ」
咄嗟に振り向いたカカシは、驚愕のあまりに硬直した。
「何!?」
突如、背後から聞こえた声と共に現れた、もう1人の再不斬。そして同時に、カカシがクナイを突き付けていた再不斬が水となって消えた。
(これも水分身!?)
不意に、再不斬の斬撃がカカシを襲う。
(まずい!!)
今度こそ殺られる。そう確信したカミトは、どうにかカカシを救おうと、自分が唯一使える《あの術》を使おうと決断した。
後書き
次回、カミトが使おうとしている術って、何だと思う?
君は正解できるかな?
次回をお楽しみに〜!!
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