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トンビに油揚げ

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第六章

「お似合いだな」
「そちらもですか」
「そうだな。しかし」
「しかし?」
「全く、この結果はな」
 やれやれといった顔でだ、カニンガンは言った。
「予想外だった」
「全く以て」
「これはあれだ」
「あれとは」
「日本の諺だが」
「そこでまた日本ですか」
「妹の末っ子が好きでな」
 またこの親戚の話が出て来た。
「日本の諺にも詳しくてな」
「それで、ですか」
「日本の諺であるが」
「何とですか?」
「少し違うかも知れないがトンビに油揚げだな」
「トンビ?鳥ですか」
「そうだ、そして油揚げは日本の食べものだ」
 そちらの話もするのだった。
「油揚げを持っているとな」
「そのトンビにですね」
「空から奪われる」
「つまり今の提督は」
「そうなるか?」
「そうですかね」
「そう思った」
 こうグラッチスンに言うのだった。
「実際にな」
「そうですか」
「まあな」 
 ここでだ、こうも言ったカニンガンだった。
「相手の娘が好きになったのが彼なら」
「クロムウェル氏なら」
「仕方がない」
 少し苦笑いになって言った。
「それならな」
「そう言われますか」
「相手が別の人を好きなればな」
「もうその恋は終わり、ですか」
「そうだ」
 カニンガンの言葉は既に達観した者だった、既に終わっているものだった。
「だからな」
「もうこれで、ですか」
「彼女は諦める、ティターニアに行くのも止めよう」
「そうされますか」
「わしの恋は終わった」
 カニンガンはこうも言った。
「仕方ない、もう彼女のことは忘れる」
「そうですか、では」
「今日は妻に贈りものをしよう」
「浮気への謝罪ですか」
「実際にそこまでいっていないがな」
 告白もしていない、ラブレターさえ書いていない。あくまで未遂だ。
「しかし他の相手に恋をしたのは事実だからな」
「それで、ですね」
「妻に贈りものをしよう、何故そうするかは言わないがな」
「それでもですか」
「贈ろう」
 実際にというのだ。
「そしてだ」
「これで、ですか」
「全ては終わりだ、しかし悪い思いはしていない」
 恋は破れたがというのだ。
「いい思い出として覚えておこう」
「わかりました、ではな」
「忘れながらも」
 相手への未練は持たないとだ、グラッチスンはカニンガンが忘れると言ったものについて述べた。
「そしてですね」
「恋をしたことは覚えておこう」
「奥様に心の中で謝罪をしてから」
「そうしよう、終わったものとしてな」
 こう言ってだ、彼は笑って全てを終わらせた。そのうえで飲んだミルクティーは甘いがほんのりと寂しい味もした。


トンビに油揚げ   完


               2017・7・14 
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