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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica5マリアージュ事件終結~Elder brother's Phantom~

†††Sideティアナ†††

少しある事に引っ掛かりを覚えた私は、ちょっと細工をした上でマリンガーデンに先行したスバルとルシルさんとアイリ、そして私の幻を見送った。こうして何かを欺くような真似をしている理由は、2ヵ月前から私の臨時補佐官として付いてくれている、第60管理世界フォルスの地上本部・法務局に所属する鑑識官ルネッサ・マグナスの監視のため。

(私の経験と観察、そしてルシルさんから別れ際に伝えられた話の内容は、ルネッサが黒だということを示してしまっている)

信じたくはないし、そうであってほしくないって思いはある。だから疑いをハッキリさせるため、私はステルス魔法のオプティックハイドを発動した状態でルネッサを尾行していた。ルネッサには、民間人の避難誘導の手伝いや、応援の防災隊が別のマリアージュに襲われないようにするための対策をするように頼んでおいたんだけど・・・。

(指示を無視しての単独行動。・・・ルネッサ・・・)

もう判ってる。無断でこんな事をするような子に何も問題が無いなんて。2ヵ月と一緒に捜査していたからかな。やっぱりショックを受けちゃってるのよね。小さく溜息を吐いてるその間、ドォーン、ドォーン、とマリンガーデンから爆発音が続く。さっきの通信で、マリアージュどころか“スキュラ”暗殺犯――通称仮面持ちの出現も確認したって。

(初めは私とルネッサとギンガさんだけだったのに、今はスバルとエリオとキャロ、トリシュタンさんとアンジェリエさん、さらにはルシルさんたち本局最強の部隊・特騎隊まで参加する大騒ぎに・・・)

「仮面持ちが出てくるなんて想定外だったが、予定はそう変わらない。戦乱と混乱が起きさえすればそれで好いのだから」

ルネッサの声が聞こえて、物陰からそっと様子を窺う。ルネッサの周囲には誰も居なくて、通信でもなさそう。これアレだ、あの子のクセ。ルネッサは独り言が結構多いのよね。ルシルさん曰く、独り言の多い人は精神的に問題を抱えている、とのことだ。

――独り言とは、ストレスを解消するためのもの、周囲にアピールするためのもの、孤独感を無くすためのもの、自分を安心させるためのもの、そう言ったいろいろ意味があるが・・・。さて。ルネッサはどれに当てはまるのだろうな――

ルシルさんはそう言っていた。ルネッサは戦災孤児で、9歳まで戦場に居たって話を聞いたことがある。それが全てじゃないだろうけど、一因は担なってるはず。

「マリアージュの現在稼働数は42体。防災・武装隊は数百人。マリアージュに自爆させて火災を起こしたのが良かった。イクスヴェリアが居て、死体が増えれば・・・マリアージュをいくらでも造れる。問題はやはり特騎隊と仮面持ち。あれでは死体を増やすことが出来ない」

もう聞いていられなくなって、私は“クロスミラージュ”の銃口を隙だらけな背中へと向ける。使用魔法は捕獲用のスタンバレット。丸1日はまともに身動きが取れないほどの麻痺を与えられる。トリガーに指を掛けて、引こうとした瞬間・・・

――トランスファーゲート――

それは突然現れた。黒のセーラー服に身を包んだ女性が、背中を向けてるルネッサの背後に出現して、首に向かって手を伸ばそうとした。だから私は「伏せて!」ってルネッサに向かって叫びつつ、トリガーを引いてスタンバレットを仮面持ちへ放つ。これでステルス効果が消えちゃうけど、そんな事を言っていられる状況じゃないわ。

「っ・・・!?」

でもよっぽど自分の世界に入ってたのかルネッサは「あぐ!?」仮面持ちに捕まってしまった。しかも私のスタンバレットは確かに仮面持ちの背中に着弾したのに平然としていて、ルネッサを軽々と持ち上げた。

「本局執務官、ティアナ・ランスターです! 仮面持ちに警告します! 武装を解除し、局員を解放しなさい!」

仮面持ちの腰には鞘に納められた剣が1本。ベルカ式・・・と断定するのも危ないのが現在の魔法世界。アームドデバイスのミッド式の魔導師や、杖や拳銃と言ったストレージやインテリジェンスデバイスのベルカ式の騎士とも会ったことあるし。

「ぅぐ・・・ランスター・・・執務官・・・? どうして・・・」

「今助けるわルネッサ! もう少しだけ耐えて!」

仮面持ちは未だに私に背中を向けてる。明らかに私をわざと度外視にしているわね。確かに私にはルシルさん達のような魔力も実力も無いけど、私だってそれなりに強くなってるのよ。

「次は攻撃弾を放つわよ!」

「・・・。ルネッサ・マグナスだな。貴様がマリアージュに指令を下せる立場に居ることは調べが付いている。文句も疑問も抱くことなく、我らが元へ下れ」

声は変声魔法でも使ってるのか、女性のものだけど機械音声的だ。私を無視して勝手に話を進める仮面持ち。だから「警告無視を確認!」って、カートリッジをロードして威力を高めた魔力弾を仮面持ちへ6発と連射。

(これで・・・!)

正直、ルネッサを盾にされると踏んでいた私は、誘導操作が出来て、尚且つ仮面持ちの圧倒的なフィールドを突破できる効果のあるヴァリアブルバレットを選択した。これならルネッサが盾にされても操作すればハズすことも出来るし、仮面持ちが自分の防御力を過信しても直撃させられるはず。

(何もしない・・・? 相手が格下だからって、過信は身を滅ぼすわよ!)

――ノート・ヴェーア――

そして魔力弾は、私に背を向けたままの仮面持ちの魔力バリアに拒まれた。そこまでは判ってるわよ。けどそのバリアは本命弾を包む外殻が処理してくれる。効果通り本命弾は仮面持ちのバリアを突破して、ドォン!と着弾、爆発を起こした。

「ルネッサ! 仮面持ちの手から逃れられたらすぐに離れて!」

着弾時に発生した煙で2人の姿が見えなくなる中、私は“クロスミラージュ”のカートリッジを交換して、周囲に魔力スフィアを5基と展開。にしても「ルネッサ!?」が逃げた様子は無い。その答えは煙が晴れたことで判った。仮面持ちは平然と立っていて、地面にうつ伏せで倒れてるルネッサの背中を踏みつけていた。

「ヴァリアブルシュート。射撃型の最初の奥義。着眼点は間違ってはいないが、格上が過ぎる相手には通用しないことは今回で理解できたはず」

「くっ・・・! なら! クロスミラージュ!」

≪Set up. Dagger Mode≫

2挺の“クロスミラージュ”をダガーモードにして、防御系魔法貫通効果が付加された魔力刃を展開。ヴァリアブルシュート以上に対防御効果の強い一撃なら、仮面持ちにもダメージは入るはずよ。

「その足を退けなさい!」

スフィア8基を引き連れたまま仮面持ちへと突っ込む。仮面持ちはゆっくりと腰の鞘から剣を抜き放って、「貴様はここで大人しくしていろ」と左腕を高く掲げた。

――ハント・フェッセル――

するとルネッサの両手首に群青色に輝く手錠がはめられた。魔力光は群青色で、魔法を使ったことで魔力パターンも収集できた。このデータで前科が無いかを確認できるわ。ルネッサを踏みつけていた足を退けた仮面持ちは「痛い目に遭いたくなければ引け」って私に警告しつつ、同じように突っ込んで来た。

「シューット!」

――クロスファイアシュート――

スフィア2基から4発の魔力弾を発射。最初は足元に2発。よろけさせたり、脚を止めさせることが出来れば儲けもの。仮面持ちは軽くステップを踏むことで回避したけど、その間にさらに別の2基から4発の魔力弾を発射。今度は胴体に向かって四方から向かわせると、仮面持ちは右手に持ってる剣で魔力弾4発を瞬時に寸断した。

(剣の腕は間違いなく一流ね・・・!)

これでミッド式だったら恐ろしいわ。とにかく、剣を持ってる右腕が開き、最後の1基から発射した魔力弾2発で左腕を狙う。

――バインドバレット――

「なにっ・・・!?」

左腕で魔力弾を弾き返そうとした仮面持ちが驚きを見せた。魔力弾を弾き返せると思って払い除けようとしたら、着弾と同時にリングバインドに変化したんだから、まぁ当然よね。

「月村すずか第零技術部主任直伝のバインドバレットよ!」

ここで私は近接攻撃範囲内に入ったことで、両手に持って振り上げていたダガーモードの“クロスミラージュ”を「せぇぇぇい!」全力で降り降ろした。

――フェアナイネン・ズィー――

あと数cmで魔力刃が仮面持ちの両肩に当たる、というところで、「え・・・!?」シールド・バリア・フィールドなどの防御系貫通効果のある魔力刃が、一切の効果を見せることなく一瞬にして砕かれた。

――アッブレーヌング・リュストゥング――

さらに左腕を拘束していたバインドも砕かれて、仮面持ちは「殺害は出来ないが、痛めつけることは出来る」って脅し文句を垂れながら私の首へと剣をあてがった。

「それにしても解せないな。何故、裏切者を案じる? あの女は、局員でありながら管理世界の秩序を乱した」

「それはアンタ達も一緒でしょうが・・・!」

仮面持ちにそっくりそのまま返してやったわ。コイツらだって殺人を犯してるし、管理世界に混乱を齎してる。すると仮面持ちは「反論はしない」って素直にそう言った。

「しかしルネッサ・マグナスとは違う。我々は一切民間人に凶刃を振るってはいない。殺害したのは、民間人に多くの被害を齎したスキュラ、他管理・管理外世界で悪事を働くゴミ共を処理したに過ぎない。だがあの女はどうだ。イクスヴェリア陛下の回収のため、こんな人の多いところにマリーアジュを放った。我々は悪を成しても悪を滅する。しかしあの女の仕出かしたことは犠牲しか出ぬ純粋悪。もはや生かす価値なし。が、確保せよとの命令だ」

仮面持ちがルネッサにそう言い放ったところで、ルネッサが「あたしは・・・!」キッと仮面持ちを睨みつけた。

「ただ、世界に気付いてほしかっただけ・・・。あたしは戦争孤児で、いつも銃声、爆発音、悲鳴を聞いて育った。トレディアはそんな中であたしを拾ってくれた父であり、同じ平和を夢を見て戦った仲間でもあった。そんな環境から救い出された先に在った平和な世界を、あたしも信じてみたかった。でもただ戦場に比べて人が多いだけで、やってる事は変わらなかった。人同士で戦って、傷つけ合って、殺し合う空っぽな世界だった・・・! だから挑んで、気付かせてやりたかった。戦いの意味と虚しさを・・・」

ルネッサの独白を聞き終えた私と仮面持ち。ルネッサの想いも解らないでもないわ。私だってその争いで兄を喪ってる。でもだからと言って・・・。何も言えない私に対して仮面は「なるほど。その想いには同調しよう」って声色が少し優しくなった。

「それでも貴様は悪だ。しかし我らと同じ平和を目指す悪だ。故に付いて来い」

仮面持ちが私の喉から剣を離すと踵を返して、ルネッサへと歩み寄りつつバインドを解除した。立ち上がったルネッサがチラッと私を見た後、スッと目を伏せて顔を背けた。

「っ・・・! させない! クロスミラージュ!」

改めて2挺に魔力刃を展開する。このままルネッサを拉致されるのを見過ごすわけにはいかないわ。“クロスミラージュ”を構え直して突っ込もうとした瞬間・・・

「お前の魔力パターンの解析は済んだ。もう・・・お前の魔法が私に通用することは無い」

――フェアナイネン・ズィー――

仮面持ちが振り向きざまにそう言った瞬間、“クロスミラージュ”の魔力刃が一斉に砕け散った。その現象に混乱してはいるけど、すぐに銃口を向けて「シュート!」と魔力弾を放つんだけど、銃口から魔力弾が射出された直後、パァン!と魔力弾が割れた。

「な・・・っ!?」

「言ったはずだ。お前はもう、私に攻撃することも拘束することも出来ないと」

「こんな事って・・・」

訳も判らないまま、魔導師としての私を完全に無力化されてしまった。私は“クロスミラージュ”を構えてる両腕を力なくダラリと降ろした。仮面持ちは私なんてもう用は無いって言わんばかりに、こちらに一切の注意を払わなくなった。

「・・・なに?」

仮面持ちがそう漏らして突然を足を止めた。それから少しばかり棒立ちで居た後、小さく溜息を吐いたのが判った。そして何を思ったのか、「ちょっ・・・!」ルネッサに向かって右手に持つ剣を振り上げた。私は「逃げて!」ってルネッサに叫びながら駆け出した。

「同志がイクスヴェリア陛下の確保に失敗した。こうなっては最早ルネッサ、貴様は用済みだ。他の犯罪者と同じように、私が粛清する」

(念話!?・・・この付近一帯、何者かに交信妨害がされて――いや、だからか・・・!)

マリアージュが出現し始めた頃からマリンガーデンの周囲2km圏内で念話や通信が出来なくなっていた。私たちが来た時にはもう仮面持ちの仲間が潜んでいたことになる。

「ここで死ぬわけには・・・!」

振り下ろされるとほぼ同時にルネッサは横に向かって跳んで、私は仮面持ちの背中に「この!」タックルした。でも仮面持ちはよろけることもなくて、「痛っ・・・!」逆に私が弾き飛ばされて尻もちを突くことに。

「逃がさん」

四つん這いのまま這って逃げようとしたルネッサに向かって一足飛びで接近した仮面持ちに、「やめて!」って私は懇願した。振り下ろされる剣の先にはルネッサの背中がある。無駄だって判ってても私は“クロスミラージュ”の銃口を向けたその時・・・

――天翔けし俊敏なる啄木鳥――

風切り音も無く、魔力の接近すら気付くのが遅れるほどの速度で飛来した矢が、仮面持ちの剣をその手から弾き飛ばした。

「せいやあああああああああッ!!」

――爆ぜる氷塔(ケラス・エクリクシス)――

さらに仮面持ちの頭上から、特騎隊のメンバーであるセレス・カローラ一尉が砲弾の如く突っ込んで来て、振り上げていた剣を仮面持ちへ向けて振り下ろした。一瞬にして後退する仮面持ちだったけど、カローラ一尉の剣が地面を穿った瞬間に爆発的な冷気が噴出して、一尉の周辺に大小様々な氷の尖塔がいくつも突き出した。

「やった・・・!?」

そのあまりの凄さと仮面持ちが氷に乗り込まれた様に、私は思わずガッツポーズをした。そんな私の元に「大丈夫?」ってトリシュタンさんが跳んで来た。トリシュタンさんに差し出された手を取って立ち上がらせてもらいつつ、「なんとかですが・・・」って答えた。

「なら良かったです。セレス、そちらはどうです?」

「しっかりと捕らえることが出来たよ」

トリシュタンさんと一緒にセレスさんの元へ向かい、地面を凍らせている氷に足を取られないように氷塔に埋まっている仮面持ちへと近寄る。意識はあるみたいで「さすが特騎隊の騎士ですね」ってトリシュタンさんとカローラ一尉に感嘆した。

「無駄口は結構。ランスター執務官」

「はい。改めて、本局執務官のティアナ・ランスターです。あなたの名前と出身世界、あなた達の目的を包み隠さずに答えてもらいます」

そう問い質している中、トリシュタンさんがひとり私たちから離れて、立ち上がったばかりのルネッサに手錠を掛けた。あなたとはこの事件が終わったら、正式に補佐官になってもらいたかったけど・・・。もう叶わない願いよね・・・。

「良い機会だ、改めて教えてやろう。我らの目的はただ1つ。悪を成してでも悪を滅して世界平和を成し遂げることだ」

「世界平和、ねぇ・・・。それって本気なの?」

「はい、本気です」

仮面持ちの発言に私は疑問が生まれた。私に対しては不遜な態度だけど、カローラ一尉には丁寧語。これって絶対に重要な事よね。カローラ一尉も「どっかで会ったことある?」って訊ねたし。

「騎士と局員を同等に扱うことは、私にとって得などではありませんので」

「局員嫌いってわけ? 私、騎士であり局員でもあるんだけど? しかも自分で言うのも変な話、結構有名人だったりするけど?」

「それでも騎士である以上は最大の敬意を以って対します」

局員嫌いがこの仮面持ちだけなのか判らないけど、とにかく管理局の体制に不満を抱いているのは解った。不満を持つという事は、過去に何かしたの事件に巻き込まれてる可能性もある。そっち方面の情報も当たるようにルシルさん達に伝えておかなきゃ。まぁルシルさんならすでに手を付けてそうだけど・・・。

「残りの詳しい事は、特務零課の方たちが取調室で伺います」

私の仕事はマリアージュ事件の首謀者であるルネッサの逮捕。仮面持ちはルシルさんたち特騎隊の管轄だ。

「連行する前に、素顔だけでも拝んでおこうかな~」

カローラ一尉が仮面持ちの顔へと手を伸ばす。とここで「何か来る!」ってトリシュタンさんが叫んだ。

――スナイプバスター――

細い砲撃が上空から数発と飛来して、仮面持ちを捕らえてる氷塔を粉砕し始めた。その際に破壊された氷の破片が私とカローラ一尉の全身に弾け飛んで来たから思わず両腕で顔面を防御した。

「このエネルギー砲撃は・・・ティーダ・ランスター・・・!?」

カローラ一尉がそう言ったのが、ガシャン、ガシャンと氷が砕け散る轟音の中で聞こえた。

「ティーダ・・・ランスター・・・? お兄ちゃん・・・!?」

「セレスはその仮面持ちを逃さないように! 私は砲撃手を撃墜します!」

――滅び運ぶは群れ成す狩り鳥――

「了解!」

氷の破片が途切れたことで両腕を下げた私はすぐに空を見上げるけど、その姿は確認できない。後ろを見れば、トリシュタンさんは砲撃手の姿が見えるのか魔力矢を射った。矢は数百本に分裂して、空へと走って行った。そしてセレスさんは、氷塔から逃れた仮面持ちへと剣を振るった。

「あなたの騎士としての力量、測らせてもらおうか!」

――氷奏閃(イエロ・コラソン)――

剣に冷気が乗せられたセレスさんの斬撃。仮面持ちも同様に剣を振るって迎撃したところで、「待っ・・・!」私は重要な事をセレスさんに伝えていないことを思い出した。

――フェアナイネン・ズィー――

2人の剣が衝突した瞬間、セレスさんの剣の冷気が消し飛んだ。セレスさんが「えっ!?」目を見張って、しかも斬撃の威力に負けて後退させられた。仮面持ちは腰の鞘に剣を戻して、「それではまたいつか」って小さく頭を下げた。

――トランスファーゲート――

それと同時に空間に生まれた歪み。仮面持ちは私たちの「待ちなさい!」制止の声を無視して、ゆがみの中へ消えて行った。私は、消えゆく歪みに向かって「ああもう! 逃がした!」って悔しがってるセレスさんに歩み寄る。聞きたい事があるからだ。

「こちらも逃げられました。やはり空戦が出来る魔導師は手強いですね。まだまだ修行が足らないようです」

トリシュタンさんも砲撃手を逃がしてしまったらしく、自分の不甲斐なさを悔しがってた。

「カローラ一尉。何故さっき、兄の・・・ティーダ・ランスターの名前を出したのですか・・・?」

「あー、ルシルから話してもらえるまで黙ってるってわけにはいかないよね・・・?」

「ルシルさん?・・あ!」

――少し時間を貰えないだろうか。出来れば2人きりで話がしたい――

――通信やメールなどで済ませるような内容じゃないからな~・・・。判った。事件解決の折、また俺に連絡をしてくれないか?――

つい先日、ルシルさんと交わした約束を思い出す。ルシルさんの話っていうのはきっと、お兄ちゃんの事だったんだ。カローラ一尉も何か知ってるみたいだから私は懇願の意味を込めてじぃーっと見詰める。

「・・・判った。ちょっとした任務の際に、私たち特騎隊は・・・――」

カローラ一尉の厚意で、一尉と砲撃手との交戦映像を観させてもらった。一尉と砲撃手の攻防。お兄ちゃんの魔力光である黄色、クロスファイアシュート、そしてマロスヴァローグ一尉の一撃で仮面が割れて、目出し帽が破れたことで「お兄ちゃん・・・!」の顔が出て来た。映像はお兄ちゃん?の撤退で終わった。

「・・・と、いうわけ。ルシルの話だと、あなたのお兄さんらしい砲撃手の考えられる正体は3つ。1つは人造魔導師、1つはサイボーグ、1つはクローン。ひょっとしたら第4の候補があるかも知れないということだけど。仮面持ちはプライソンとも繋がりがあったようだし、ね。・・・あなたのお兄さん、どういった経緯で亡くなったっけ?」

「違法密輸を生業とする違法魔導師追跡中、運搬されていた物が大爆発を起こして・・・」

今でもハッキリと思い出せる局からの、お兄ちゃんが死亡した、との連絡。あの日からずっと孤独だったけど、スバルと出逢ってからというものは寂しいなんて思いは少しずつだけど無くなっていったっけ。

「遺体は?」

「容疑者共々・・・灰すら残らなかったので、確認は出来ていません」

だからかな。お兄ちゃんが生きていた、と言われても不思議じゃないし、そうであって欲しいって強く願う。スバルの母親のクイント准尉やメガーヌ・アルピーノ准尉のように、記憶を失っている状態で、仮面持ち達に利用されているんだって・・・。

「カローラ一尉、ありがとうございます。兄の事はまた落ち着いてからよく考えてみます」

「そう。・・っと、通信も繋がるようになったみたい」

コール音が鳴って、カローラ一尉が「はい、こちらナイト4・セレス」って応じた。

『セレス~。シャルだけど、マリンガーデンでの戦闘はすべて終了。起きていた火災も防災隊のおかげで完全鎮火。イクスヴェリア陛下も無事に保護完了。特騎隊一同およびトリシュとアンジェは一旦合流しよう』

「了解。ランスター執務官たちはどうするの?」

「あ、私はギンガさん達と合流後に本件の首謀者、ルネッサ・マグナスを一度108陸士隊舎へ連行した後、取り調べを・・・と考えてます」

『そっか。じゃあ一旦お別れね。お疲れ様、ティアナ』

こうしてマリアージュ事件は幕を閉じた。トリシュタンさんやカローラ一尉と別れた私は、連絡しておいたヴァイス先輩が来るまでルネッサと話すため、彼女の側に歩み寄った。

「あたしを尾行していたということは、あたしが黒だと判っていたんですか・・・」

「1つは私の勘。あなた、トレディア・グラーゼの名前を口にするたび、声が寂しそうだったわ・・・。それがずっと気になってたのよ」

「そういった感情が表に出ないように努めてはいたのですが・・・。もう1つは・・・?」

「ルシルさんからの助言。ルシルさんって調査官でしょ。だから心理学にも明るいのよ。あなた、トレディアの話をする時に手をもう一方の手で隠すらしいのよ。ソレ、秘密があるってことらしいわ。で、視線が右下に向くのは、過去に体験した事を思い出すサイン。瞳孔が大きくなるのは交感神経が働く時みたいで、恐怖や悩みや不安を抱いてる反応であるんですって。そしてあなたの独り言のクセ。それも心理学で見抜かれてたわよ」

ルシルさんの知識には毎度驚かせれるわ。調査官としてのルシルさんとは絶対に対峙したくないって本気で思う。ルネッサは「ふっ・・・」って自嘲気味に鼻で笑った。

「どうかした?」

「セインテスト調査官と会ったその瞬間、なんとなくですが・・・こうなってしまう気はしてました。あたしの直感もまた正しかったということですね。・・・最後に1つお聞きしたいことが・・・」

「答えられるものなら」

「以前あたしを副官に、という話。あれはあたしの動揺や心変わりを引き出すためのフェイクで?」

「いいえ。本気だった。あなた、本当に優秀だし。こんな事がなかったら今でも補佐官に付いてもらいたいわ」

本当に残念よ、ルネッサ。少しの間だけ黙った彼女はただ一言「ありがとうございます」とだけ告げた。
 
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