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第一章

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 テレビを観てだ、喜田村真央は顔を顰めさせてそのうえで母の真希に言った。
「お母さん、まただよ」
「政治家の汚職ね」
「うん、何で政治家の人って悪いことするの?」
 子供心におかしいと思いながら夕食の用意をしている母に尋ねた。
「どうしてなの?」
「偉い人達だからじゃないの?」
 母は台所で鶏肉を切りながら娘に答えた、今夜の夕食である煮物に入れるものの一つである。
「だからじゃないかしら」
「偉い人だからなの?」
「そう、その立場を利用してね」 
 偉い、つまり権力の座にあることをというのだ。
「それでね」
「悪いことをするの」
「真央ちゃんはそんなことをしたら駄目よ」
 娘にこう言うことも忘れなかった。
「いいわね」
「うん、私悪いことしないよ」
 真央は子供心に悪事をしてはならないと思いつつ母に答えた。
「絶対に」
「そのこと忘れないでね」
「偉い人になっても」
 ここでは政治家と思った。
「それでもね」
「ええ、悪いことしたら駄目よ」
「そうするね」
「学校の先生も言ってるでしょ」 
 母は教育者、社会的に信用されている者達の言葉も借りた。
「悪いことしたらいけないって」
「うん、どの先生も言ってるよ」
「悪いことをするよりもいいことをしてね」
 そしてというのだ。
「悪いことを許さない」
「悪いことをを」
「そうした人になるのよ」
 是非にというのだ。
「わかったわね」
「わかったわ」
 真央はまた母に答えた。
「私いいことをするし」
「それによね」
「うん、悪いことを許さないよ」
「そうなってね」
「悪いことを許さない人はいいことね」
「そのこともそうよ」
 その通りとだ、母は鶏肉を見事な包丁捌きで切りつつ娘に話した。実は味付けよりもこちらの方が得意なのだ。
「だからね、いいことだから」
「そうしたことをする人もいい人ね」
「そうよ、お巡りさんもそうだし」
 つまり警官達もというのだ。
「それでテレビや新聞の人達もよ」
「悪いことを許さないから」
「いい人達よ」
 こう娘に言った、そして真央自身その言葉を信じてその通りだと思っていた。真央はそのうえで成長していった。
 だが中学の時にだ、不意にだった。母がスマホで眉を顰めさせているのを聞いて不思議に思った。
「またマスコミね」
「何かあったの?」
「いえ、マスコミの不祥事よ」
 それがあったというのだ。
「それがね」
「マスコミって」 
 学校から帰ったばかりの真央は母の言葉に顔を顰めさせてそのうえでスマホを観ている母に言い返した。
「いい人達じゃないの?」
「どうしてそう言うの?」
「だってお母さん子供の時に言ってたじゃない」
 その成長したはっきりした長い睫毛の目を持つ顔で言う。顔はややふっくらとしていて黒髪を伸ばしている。やや大人びた感じになっている。
「私がね」
「ああ、マスコミについて」
「そう言ってたでしょ」
「ええ、けれどね」
「それでもなの」
「お母さんもわかったのよ」
 スマホを観続けながら言うのだった。 
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