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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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憂いの雨と陽への祈り
  固定式アマリちゃん砲

 「隠蔽スキル様々だな。 これなら面倒な戦闘をしないで済みそうだ」
 「拮抗している敵を圧殺するのは楽しいですけれど、ここまで力量に差がついてしまうとどうにも、ですね。 見ている限り適正レベルは40程ですか」
 「だろうな。 雑魚Mobのレベルが大体30前後。 この分だとボスで35くらいだと思う。 安全マージンを考えても50もあれば余裕だろ」
 「90を越えている私とユーリさんの敵ではありませんね」
 「レベルは教えてないよな?」
 「今までの戦いぶりを見ての大まかな予想です。 私は見ての通りSTR特化なので断言できませんけれど、身近にAGI特化のフォラスがいましたからね。 そこまで外れてはいないのでは?」
 「ノーコメントだ」

 情報は生命線ですからねと、穏やかに微苦笑を浮かべたアマリは周囲に視線を流す。 蟻が待ち受ける部屋を何度も戦闘なく通り過ぎ、今ではそれも17回目だ。 周囲の蟻たちは談笑する2人に気がつく様子はなく、隠蔽スキルの効果は十全に発揮したままと言える。
 もっともそれは適正レベルの倍近い2人だからこそ可能なことであって、この手の待ち伏せ系ダンジョンの攻略方法は敵の感知範囲を避けるか基本だ。 次点で敵の殲滅だが、経験値効率が低いどころか皆無の状況でそれを選ぶ奇特なプレイヤーはあまりいないだろう。

 「これが最後の一団だ。 とりあえずこの光点をボスと仮定すれば、だけどな」
 「わざわざ可視化して頂いて恐縮です。 こう言う状況だと索敵のありがたみがよくわかりますね」
 「だったら取ってみたらどうだ?」
 「普段はフォラスと行動しますから。 ソロで圏外に出ることはまずないので必要性は薄いのです」
 「そのくせ隠蔽は取ってるのな。 つーか、お前の方こそバトルジャンキーなんじゃねえの?」
 「隠蔽はフォラスがあまりに心配するので習得しただけです。 隠密行動をする機会も多いので中々便利ですけれど、正直私の趣味ではありません。 search and destroy(見つけた敵は皆殺し)が私の趣味ですからね」
 「物騒だな、おい」
 「具体的には、こうして……こうです」
 「具体的に言わんでよろしい」

 今回も敵に捕捉されることなく小部屋を後にして通路に入れた。

 2人が習得している索敵は視覚から消えるのが初期の効果だ。 熟練度を上げれば聴覚や嗅覚も騙せるし、温度感知などすらをもすり抜けてしまう。
 朱色に白と言う本来であればかなり目立つ色調の装備でありながら敵に感知されないのはその熟練度に加え、フォラス特製の服飾装備に付加されている隠蔽率上昇の効果が絶大だからだ。 ユーリの場合は人狼スキルによる上昇効果もあり、この2人であれば攻撃に出るか、あるいは余程騒ぐかをしなければ発見されることはないだろう。

 「ところでユーリさんとシィさんはどう言う関係なのですか?」
 「ぶふぉっ」
 「ふむ、その反応を見る限り、どうでも良い相手ではないようですね」
 「そ、そう言うお前はどうなんだよ。 フォラスとは結婚してるんだろ?」
 「わかりやすく矛先をずらしてきましたね。 けれど無駄です。 何度も言っているように私とフォラスは夫婦で、今はケンカ中ですよ」
 「夫婦、ケンカ中、か……。 ケンカするほどなんとやらってやつか?」
 「その解釈だとよく言い合いをしていたユーリさんとシィさんも仲が良いと言うことになりますけれど? ああ、惚気ですか?」
 「待てやコラ」
 「つまりわかりやすく言えば、好き好き大好き超愛してる、と?」
 「わかりやすく言うんじゃねえ」
 「けれど否定はしないのですね。 ご馳走様です」
 「てめえ……」
 「きちんと頻繁に愛を囁いていますか? 男性と言うのは言葉にせずとも伝わると思うそうですけれど、女性は言葉にしなければわからないものですよ?」
 「誰が露骨に女子トークをしろって言った⁉」
 「では淑やかに女子トークをしますか? 幸いにしてお互いに女子ですし」
 「俺は、男、だ!」
 「え?」
 「真顔で『え?』じゃねえよ!」
 「ユーリさん、声のトーンをもう少し落としてください。 敵に見つかってしまいますよ」
 「誰のせいだ! 誰の!」

 小声で鋭く突っ込みを入れると言うなんともあれな高等テクを披露するユーリと、楽しげに笑うアマリだった。
 アマリが演技を止めようとどうしようと、結局のところその立ち位置に大きな差はないらしい。 それでもめげない辺り、彼の普段の苦労がわかろうと言うものだ。

 「さて、ユーリさんで一頻り遊んだところで……どうやら目的地のようですよ」
 「俺で遊ぶな」

 言いつつ通路の陰から顔を僅かに出して部屋の中を確認する。 隠蔽の効果でそんなことをせずとも見つからないのだが、この辺りは気分の問題だ。

 覗いた部屋の中にいたのは目算で15に上る蟻と、その更に奥に鎮座する女王と思しき一際大きな(と言っても精々3m程度だが)個体。 更に蟻たちの中には翅を持った個体の姿も確認できる。 が、名前は全て《Cluster Ants》で統一されていた。

 「cluster。 クラスター、か……。 なあアマリ。 クラスターってどう言う意味か知ってるか?」
 「房、群れなどを意味する英語です。 物理学にも同様の語句があって、その意味するところはやはり同様ですね。 さしずめ《群体の蟻たち》と言ったところでしょう」
 「……お前、やっぱり頭いいんだな」
 「一応は学年主席でしたから」
 「普段のお前からは想像できないけどな。 ……で、あの無限増殖はどうするよ?」

 振られたアマリは一瞬だけ考え込む素振りを見せて、ついっと女王らしき個体の後ろにある壁を指差した。

 「あそこにある黄色の球体が卵だと思われます。 蟻は完全変態の昆虫ですけれど、さすがにそこまでは再現されていないかと」
 「んなことしてたらいい的だからな。 となると、あいつら突破して壁の卵を一掃してから数を減らすってのが現実的か」
 「その次に女王らしき……いえ、面倒なので女王と暫定的に断定してしまいましょう。 とにかく次に叩くべきは女王ですね。 例外はあれど蟻の中で生殖機能を有するのは女王ですから」
 「壁の卵を破壊。 その次に女王。 で、取り巻きどもはその後だな。 女王に関してはこっちに任せてくれ。 1対1ならすぐに終わる」
 「他に気をつけるべきは有翅型の雄蟻ですか。 飛ばれると言うのはそれだけで十分に厄介でしょう。 今までの戦闘と蟻の生態から予想される攻撃パターンはそこまで多くはありません。 大顎による噛みつき。 前脚による打撃。 腹部の針による突き刺し。 針は毒針の可能性もあるので注意してください」
 「効果は暗闇のバステ辺りか?」
 「断定はできませんけれど」
 「そりゃそうだ」

 短いやり取りの中で自然に漏れている知識がアマリの聡明さをそのまま示している。 それに質問もなく付いていけるユーリも同様だが、普段の差からそれは顕著に映っていた。
 そもそも蟻とは雀蜂の近縁種だ。 日本に分布している蟻の多くが針を持たないか、針の機能が弱い種が多いのでそのイメージは薄いものの、毒針を持つ種も相当数確認されている。
 雀蜂の毒と同様の毒を持つ種も存在するが、蟻の持つ毒性の多くは蟻酸。 そのもの蟻の酸だ。 これは肌に触れれば肌を焼き、目に入れば失明を起こす可能性もある。 更に蟻酸は一酸化炭素を含んでいるため蒸発した期待を吸引すれば中毒症状も引き起こす。

 SAOに存在するバッドステータスは非常に多岐にわたるが、その特性と一致するのは失明——つまりは暗闇のバッドステータスだ。 効果は言葉通りで、視界が全て暗闇で覆われる。 解除には解毒結晶を使うか、あるいは暗闇解除専用の目薬系のアイテムを使うかであり、もちろんユーリもアマリもストレージの中に用意してあった。

 「耐毒はあるのか?」
 「ポーションで代用可能ですのでご心配には及びません。 ユーリさんは?」
 「問題ない」
 「では、卵の破壊は私が。 その後に女王を撃破します」
 「俺は取り巻きの相手か?」
 「不服ですか?」
 「いや、順当だろうぜ。 なるべく引き離した方がお互いにやりやすいよな?」
 「巻き込まれたくないのなら」
 「……全力で引き離す」
 「ではそのように」

 作戦会議は短くて簡潔だ。
 そもそも互いの力量に不安はなく、それと同時に互いの戦い方を熟知していないのだ。 個々それぞれが同じ戦場に立ち、近距離で連携をするのは些か以上の危険を伴うだろう。 少なくともアマリの爆裂は広範囲無差別攻撃が信条だし、ユーリの抜刀術もユーリ曰く範囲攻撃が可能らしい。 互いに心配する要素はなかった。

 「じゃあ行くぞ!」
 「はい」

 端的な合図と同時に隠蔽を解除してからボス部屋へと侵入する。 まず入ったのはユーリ。 彼ができ得る限り敵を引き付け、その隙にアマリが壁の卵を処理する算段だ。 言葉にはしなくともこの程度の疎通は可能だったらしい。

 「こっち向やがれ!」

 女王を含む全ての個体がユーリの登場に視線を向けた直後、人狼スキルの一端を発動させる。
 《ウルフハウル》
 地の底より響くかのような重々しい咆哮は敵のヘイトをユーリにのみ集中させ、それによって敵意は完全に固定された。 これで余程のことがない限り他のプレイヤーにヘイトが向くことはないだろう。

 それを確認すると同時にアマリもボス部屋へと足を踏み入れる。 足を踏み入れ、酷薄に微笑した。

 「さあ、ここからが私の仕事ですね」

 メニューの展開。 操作。 いくつかのタップに呼応し、大量の武器がアマリの周囲へと顕現する。
 両手剣。 両手槍。 両手槌。 両手棍。 両手斧。 主武装であるディオ・モルティーギを除く、アマリの持つ全ての武器がそこかしこに転がった。

 「では、逝ってしまいましょうか」

 短く笑み、そして最も手近にあった両手剣を拾い上げ、全力で投擲した。

 爆裂は直接攻撃にのみ発生するスキルではない。 それはシステムが攻撃と認識すればそれだけで爆裂は発動し、周囲を衝撃波が喰らい尽くす。
 そう。 それが投擲スキルを持たないで投げた投擲物でさえも起点にして、だ。

 アマリの絶対的な筋力値による投擲は精密な狙いこそつけられないものの、そもそも狙いは壁一面にびっしりと付着した卵だ。 精密な狙いなど必要なく、蟻たちの頭上を越えて壁に着弾する。 同時に巻き起こった爆裂の衝撃波は周囲を呑み込み、半径5m規模でゴッソリと卵を喰い破った。
 これで卵自体が背景としてのオブジェクトではないことが証明されたと言っていい。

 そこからの行動は早かったし躊躇いも介在しなかった。 周囲に散乱させた武器群を手に取り、投擲する。
 それは最早、大砲に等しい。 壁に着弾し、全てを薙ぎ払う。
 そこまでの行動を起こしてなお、アマリにヘイトが向くことはない。

 爆裂を起点となった武器の悉くが地に落ちる。 さすがにそこからは爆裂は発動しないが、しかし、彼女の目的はそこにはなかった。 彼女の目的は卵の一掃であり、それだけだった。

 「やはり……残りますか」

 投擲スキルを持たないと言うことは、そのまま精密な狙いをつけられないと言うことに他ならない。 故に爆裂の範囲内に納められなかった卵が残る。
 当然だ。 そんな精密な投擲がスキルを用いずに可能であるのなら投擲スキルは意味がないだろう。

 「もっとも、それも予想の範囲内です。 ユーリさん! タゲ取りはお任せします!」
 「任せろ!」

 端的な了承に微苦笑し、アマリはグッと身を沈める。
 周囲に武器はない。 ならば、やることはひとつだ。

 「行きます!」

 跳ぶ。

 踏み切りのその瞬間、爆裂を発動した。
 アマリの矮躯が打ち上げられ、蟻の頭上を跳び越える。 跳び越え、そして壁へと迫る。
 その勢いは大砲すらをも凌駕していた。

 それはさながらミサイル。
 アマリはその身を弾頭に変え、ミサイルとして壁に着弾した。 しかも着弾のその瞬間、体術スキルの《閃打》を用いている。

 爆裂の効果範囲は先程までの投擲によるそれとは段違いだ。

 半径10mの全てを巻き添えにしてしまう。 もちろん全力全開には程遠い。 ユーリを巻き添えにしないため、ではなく、ユーリに手札の全てを見せないためだった。
 さすがに全てを明かしてしまうほど、アマリも間抜けではない。

 「威嚇は……十全に機能しているようですね」

 ズンと重い音を響かせてアマリは着地する。 散乱した武器のその直近に、だ。

 「では、第2弾といきましょう」

 拾い上げ、また投げる。
 変わらない爆裂の大砲は近距離に来て更に精度を上げていた。
 精密射撃はこの場合、必要ない。 投げ、爆ぜ、落ちて来た武器を受け、また投げる。
 絨毯爆撃。 飽和砲撃。
 下手な鉄砲数打ちゃ当たる、とはよく言ったものだ。
 卵の全てを巻き込み、全てを砕くまでそのループを繰り返す。

 「ふふ、全て全て全て全て全て! 逝ってしまいなさい!」 
 

 
後書き
 固定式アマリちゃん砲! ってぇえぇぇぇぇっ(撃てぇえぇぇぇぇぇぇっ)‼︎

 と言うわけで、どうも、迷い猫です。
 楽しい(語彙崩壊

 次も女の子2人(⁉︎)の奮闘です。 たーのしー

 ではでは、迷い猫でしたー 
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