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ソードアート・オンライン -旋律の奏者- コラボとか短編とかそんな感じのノリで

作者:迷い猫
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幻影の旋律
  反逆の咎人

 「ずいぶん無茶をしたもんだな」

 サラマンダーを爆散させて悠々と着地した僕とアマリを出迎えたのは、ボス撃破の労いでもクーネさんのお説教でもなく、呆れた様子を隠そうともしないリンさんのため息混じりの言葉だった。
 見ればヒヨリさんはティルネルさんの後ろで胸部を必死になって隠し、クーネさんは頭痛でもしているのかこめかみを押さえて首を左右に振り、リゼルさんとレイさんはニオちゃんをどちらが愛でるかで睨み合っている。 チームワークが抜群で仲が良いメンバーだと言うのに笑えてくるくらいカオスな状況だ。

 「まあ、仲間が傷つけられて怒ってるのは何もリンさんだけじゃないからね。 ああ、いや、リンさんの場合は《仲間が》じゃなくて《ヒヨリさんが》かな?」
 「……さあ、どうだろうな」
 「答えるまでワンテンポ遅れてるよ」

 笑顔で指摘してあげるとリンさんは実に嫌そうな顔を浮かべてくれる。 それでこそ安い皮肉を投げた甲斐があると言うものだ。

 「さて、次で最後、だよね」
 「ああ、恐らくな」
 「んー、本当にこのまま進むの?」
 「……質問の意図がわからないが」
 「意図って言うほど複雑じゃないよ。 生憎、腹芸は苦手でね。 ただ、本当に進むつもりなのかなーって」

 常時発動の挑発と皮肉を交えながらリンさんに問う。
 これ以上、僕たちのクエストに首を突っ込むのか、と。

 クーネさんたち《片翼の戦乙女》組はどうあっても首を突っ込むだろう。 僕との友情を理由に、だ。
 もちろん本格的に危険だと判断すれば撤退するだろうし、その時はどんな手段を使ってでも僕たちを連れて撤退するはずだ。 友情と自分たちの命とを冷静に見極められるクーネさんたちに限って、無茶を押して先に進むことはありえない。
 今の戦闘を見てもこのクエストの悪辣な難易度が見てとれる。 この先で待ち構えているケクロプスの実力がどの程度かは実際に戦ってみないとなんとも言えないけど、それでも四天王より弱いと言うことはないだろう。 最低でもサラマンダーと同等であることは間違いない。

 サラマンダーとの戦闘はクーネさんが焦ってポンコツ化していたとは言え、犠牲者が出ても不思議じゃないほど危険なものだった。 実際、クーネさんを庇ってブレス攻撃を受けたヒヨリさんは、直撃ではないにも関わらずそのHPを危険域にまで落とし込んだのだ。 あれが直撃であったのなら、ヒヨリさんは既にこの世にはいない。

 それらを踏まえてのケクロプス戦。
 シルフのスピードとウンディーネの攻撃の多彩さ、そこに加えてノームの硬度とサラマンダーの火力を併せ持った強敵、と言うのが最悪のケースだ。 もしそうだったとしたらこのメンバーで挑んでも勝ち目はないし、フロアボス討伐のためのレイドで挑んでもギリギリの戦いになるだろう。
 そんな最悪が起こり得る可能性はコンマ以下だとは思うけど、それでも危険であることに変わりはない。

 「別にここで退いてもチキン呼ばわりはしないよ。 むしろ、冷静に考えればそうするべきだしね。 僕とリンさんは所詮他人だ。 ヒヨリさんとティルネルさんも、結局は偶々ダンジョンですれ違っただけの関係だし、クーネさんたちみたいに僕の友達じゃない」
 「…………」
 「ここが引き返せなくなる最後の分岐点(point of no return)だと思うよ。 ここから先は黄泉への門が待ち受けてるかもしれない。 僕はね、リンさん。 リンさんがキリトからどう聞いてるかは知らないけど、僕はアマリと友達以外、どうなろうと知ったことじゃないんだ。 たとえ僕の巻き添えでリンさんたち3人が死のうが痛むような心は持ってない。 責任も感じないし、悲しみもしない」
 「…………」
 「それでもリンさんたちはこの先に進むのかな?」

 それは、壊れた僕にできる唯一にして最後の忠告。

 けれどリンさんは、そんな僕の忠告を鼻で笑った。

 「勘違いするな。 俺はお前たちのクエストのために力を貸してるんじゃない。 俺の仲間を危険に晒した礼を奴にするだけだ」

 淡々としたリンさんの宣言。
 僕の忠告はあっさりと返され、しかも僕が拒絶できない理由を持ち出されては降参するしかない。

 リンさんの報復はリンさんだけのもの。
 外野である僕にとやかく言う権利はないし、とやかく言う義理もない。 それでもかっこつけられたままで終わるのも癪なので僕は皮肉と嫌味と挑発を投げる。

 「リンさんって、もしかしてツンデレ?」
 「なっ……」

 いつもは冷静な顔に差した朱色は怒りか憤りか……
 まさか、図星だったからなんてことはないよね?






 リンさんの意思確認を終えた僕は、サラマンダー戦の無茶をクーネさんにお説教された。 予想通りすぎる展開には苦笑いしか出ないけど、それでも僕たちを心配してくれてのことなので文句はない。 まあ、アマリは途中から僕の膝を枕にして寝ていたけど。
 そんな僕たちの横でレイさんは全員の武器や防具のメンテナンスをしていたらしい。 四天王戦で全員の武器と防具の耐久値がとんでもないことになっていたので、万全を期すための準備としてはやらないといけないことだろう。
 ちなみに今回出番のなかった雪丸は元より、僕のエスペーラスとマレスペーロは殆ど損耗がなかったので除外。 アマリのでぃーちゃんもフル強化で耐久値がバカみたいに上がっているので必要ないとのことだった。
 布や革系の防具類に関してはリゼルさんの担当だったけど、レイさんよりも早く終わらせてニオちゃんを愛でるため、マッハで終わらせたそうだ。 変態姐御恐るべし。
 それ以外にも使ったポーションや毒薬の補充はお説教から解放された僕とティルネルさんとで早々に終わらせたし、作戦の割り振りもクーネさんを中心に既に終えている。

 で、現在。

 「ふむ。 貴様らがここに来たということは、奴らは仕事を果たせなかったと言うわけか。 嘆かわしいのう」

 《鍛治師の願い》のクエストボス、ケクロプスは、僕たちを揃って睥睨するとそう言った。
 四天王と戦った部屋がダンジョン最奥だと思っていたけど、あの部屋には隠し扉があってその先がまだまだあったわけだ。 四天王を殺すとアンロックされる仕組みになっていたらしい扉の先は広々とした空間が続いていて、その中央にケクロプスはいた。
 四天王戦直前の会話で封印の解除をすると宣言していたケクロプスの手には、件の《魔剣》と思しき剣がある。 四天王戦に時間をかけ過ぎたのか、それともその後のあれこれに時間をかけ過ぎたのか、あるいは元からそう言う仕様だったのかはわからないけど、どうやら封印の解除とやらは終了しているらしい。 鞘から抜き放たれた剣は妖しくも美しい血のような紅色の輝きを放っている。

 「人族程度の足止めをできんとは、奴らも存外頼りない。 まったく、儂の手を煩わせるなど、使えん駒たちじゃ」

 続くケクロプスの言葉はクエストのシナリオ通りのものなのだろう。
 敵だった四天王を擁護する義理はないし、そもそも四天王を殺してここまで来た僕たちに何かを言う権利はないのかもしれないけど、それでも僕は口を開いてしまう。 散っていった四天王を慮ってではなく、あくまで僕の意思で。

 「彼らは十分強かったよ。 部下の能力を正確に判断しないで自分の感情だけを頼りに『使えない駒たち』なんて言う辺り、底の浅さが知れるね」
 「貴様のようなガキが偉そうにほざきよるわ。 使えん駒を使えんと言って何が悪いのじゃ?」
 「やれやれ、老いて耄碌するのは人間も龍人も一緒みたいだね。 チームを率いるリーダーはチームの責任を全て負う。 チームのミスはリーダーの責任だ。 それを理解できないあなたに主たる資格はない。 威張り散らすだけの老人は目障りだよ」
 「かかっ、ならば儂が威張り散らすだけの老人かどうか、その身で確かめてみるがよい」

 どうやら挑発は不発に終わったらしい。
 妙に人間臭いから挑発に乗ってくるかとも思ったけど、それは期待のしすぎだったようだ。 とは言え、挑発されていることには気づいているような反応なので、どうやらケクロプスの性格の問題なのかもしれない。 年を重ねた分だけ忍耐強くなった、とか言う理由で挑発をスルーしているのだとしたら、それはいよいよ本格的に人間臭すぎる。

 そんなどうでもいい思考をそこそこに、僕は頭を戦闘モードに切り替えた。
 ケクロプスの正確な戦力は推測できないけど、それでも四天王以上であることは間違いないのだ。 余計なことに思考のリソースを割いている余裕はない。

 「クーネさん」
 「ええ。 まずは手筈通り様子見するわよ!」

 クーネさんの鋭い指示にそれぞれが了承の意を示すと、事前の打ち合わせ通りに各々が散開する。

 初見のモンスターと戦う際は攻撃パターン、行動パターン、防御パターン、回避パターン、そんなあれこれを見て、それから細かい作戦を考えると言うのが基本だ。 ドラゴンへと変貌したサラマンダーをぶっ殺した時のような特攻は論外である。

 アマリはそう言う基本を全くと言っていいほどに頓着しないし、僕も2人で戦う時はあまり頓着しない。 僕とアマリの2人であれば大抵の敵はぶっ殺せると言う自信と、そもそも我慢したくないと言う我意のせいだ。
 それでも今回の戦闘に限って言えば、クーネさんから割と切実にお願いされているので前回のような暴走はしない。 多分しない。 いや、しないようにしたい。

 我がことながら微妙に信頼のない思考に苦笑いを零しつつ僕は戦場を駆け抜ける。
 さあ、我慢の始まりだ。 
 

 
後書き
 ケクロプス戦開始回。
 と言うわけで、どうも、迷い猫です。

 前半は険悪な空気を滲ませながら、それでもどうにか穏便に話し合う(腹が黒い方の)主人公と(目立たない方の)主人公2人。 フォラスくんが相変わらず嫌な奴だったり、リンさんが微妙にツンデレってたりするのは気のせいではないでしょう。

 後半は次回に繋げるための導入で、正直な話し、特に何もありません。 精々、相変わらず嫌な奴なフォラスくんが楽しんで挑発しているだけです。

 次回は本格的なケクロプス戦ですが、それが1話で終わるかは未定です。 例によって2話分割もあり得るかと。

 ではでは、迷い猫でしたー 
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