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子供を戻すには

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第三章

「モラルからはね」
「子供の虐待はモラルから外れているわね」
「何よりもね」
 それこそとだ、彼は揺り篭の中の自分達の息子を見つつ言った。
「どうしてそんなことをするのかわからないよ」
「誰でも自分の子供は可愛いわね」
「その筈だよ」
 普通の人の常識からだ、トマットソンは妻に答えた。
「絶対にね」
「よく連れ子の子を虐待する人もいるわね」
「自分の子供でなくても子供だよ」
 幼い命であることは変わらないというのだ。
「虐待なんか絶対にしたら駄目だ」
「その通りね」
 妻も同じ考えだった。
「あなたの言うことは正しいわ」
「だから私はペーターを愛するんだ」
 我が子の名前も言った。
「何よりもね」
「私達の子供だからこそ」
「こうしてね」
 実際にだ、トマットソンは我が子ペーターを愛し続けていた。妻と二人で育児にも励んでいた。彼は幸せな日々を過ごしていた。 
 しかしある日曜の朝にだ、その幸せは一変した。何とだ。
 トマットソンは朝起きて妻と共に寝ているベッドから出ているも通り揺り篭にいる我が子を見た。だがそこにいたのは。
 緑の肌でやけに鼻が大きく醜い赤子だった、明らかに我が子ではなかった。
 それでだ、彼はその赤子を見て仰天して叫んだ。
「誰だこの子は!」
「どうしたの?」
「この子を見てくれ!」
 ベッドから出て来た妻にも叫んだ。
「酷いぞ!」
「酷いって」
「よく見るんだ」
 自分の横に来た妻にまた叫んだ。
「この子を」
「この子をって」
「ほら、見るんだ」
 揺り篭の方を指差して叫び続けていた、そして。
 ビルギットは我が子を見た、するとだった。彼女も思わず叫んだ。
「何、この子」
「ペーターじゃないな」
「人間なの!?」
「何なんだ、この子は」
「わからないわ、けれどペーターでないことはね」
「そうだ、間違いない」
「ペーターは何処なの?」
「お家の中にいるんじゃないのか」
 まだ這うことも出来ない赤子だからだ。
「そうじゃないのかい?」
「けれどペーターはまだ」
「うん、這うことも出来ないよ」
「だったら」
「家の中にいる筈だ」
「そうよね」
「すぐに探そう」
 こうしてだ、二人は朝早くからだった。
 家の隅から隅まで探した、朝食も食べずに。だが。
「いない」
「何処にもね」
「ペーターは何処に行ったんだ」
「わからないわ」
 二人で血相を変えて言い合った。
「もう」
「お家の中にはいないね」
「何処にもね」
「トイレにもバスルームにも」
「キッチンにも」
「お家の中にいないとなると」
 それこそとだ、トマットソンは言った。
「外だ」
「お家から出たのね」
「有り得ない筈だけれど」
 何しろ這うのもまだなのだ。本来なら家の中にいることだけでも考えられない。揺り篭から出ることすらだ。 
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