| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

渦巻く滄海 紅き空 【下】

作者:日月
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

三 瓦解

 
前書き
お待たせ致しました!
大変申し訳ありませんが、原作と同じ場面は端折ります。
原作と同じ個所はどんどん削りますので、ご容赦ください。

また大変申し訳ありませんが、加筆致しました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。
どうかよろしくお願いします!

 

 
砂漠の一角で、閃光が奔った。



爆発音。白煙。強烈な輝き。
砂嵐よりも激しい耳鳴りがする。

砂隠れの里全体を覆っていた砂の天蓋。最後の力を振り絞って里外へ運ばれたソレが轟音を立てて砂漠に落下する。
砂海が波打つのと、我愛羅がガクリと項垂れるのはほぼ同時だった。


「自らを犠牲にして里を守ったか…流石は風影だな、うん」

失った左腕の袖が靡く。
赤い雲模様が、闇夜に嗤った。























「たっだーいま!だってばよ」
快活な声を上げ、久方ぶりの我が家のドアを開ける。

途端、むわっと埃臭い匂いが鼻について、波風ナルは顔を顰めた。三和土で靴を脱いで足を踏み入れれば、ハッキリ足跡がついて、苦笑を零す。

「長いこと空けてたから、流石に埃だらけだってばよぉ…」

埃で覆われる廊下に足跡を点々と残し、寝室に向かうその前に、ナルは山中いのに預かってもらっていた五つの鉢植えをベランダに置く。
うずまきナルトから見舞いの品として貰った花々を種類ごとに分けて植え替えた八つの鉢。

陽当たりの良い場所へ下ろせば、埃だらけの部屋がようやく彩りを得た。綱手を捜す旅に出て以来忙しいナルに代わって、いのに世話してもらっていた花々はイキイキとしている。
残り三つの鉢植えはヒナタが預かってくれているようなので、後でお礼と取りに行かなきゃ、とナルは思った。

何も無い殺風景な室内で唯一あたたかみを感じられる花々に、心が落ち着く。

家を空ける間、換気や部屋の掃除をしようか、と名乗り出てくれた同期は多かったが、ナルは遠慮して断った。
申し訳ないという気持ちの反面、自分のテリトリーに他者を寄せ付けたくないという無意識な拒絶が働いていたのだ。
里の大人から散々受けた待遇や忌避された幼少期の経験は、そう簡単にナルの心の領域を他人に侵させない。


そういった自分の中の感情を自覚しないまま、窓を開けて寝室内に蔓延る澱んだ空気を逃がす。
清潔とは言い難いベッドに腰掛け、傍らの机上の写真を手に取った。案の定、埃で曇ったソレを、汚れるのも構わず手で丁寧に拭う。


「…サスケ…サクラちゃん…」

スリ―マンセルで構成される班の中、自分を残して里抜けしてしまった写真の二人。


うちはサスケと春野サクラの顔をまじまじと見つめ、「帰ってきたってばよ…」とナルは己の胸中の想いを言葉にする。胸の煙は埃に塗れた室内で形無き火となって立ち上った。

写真のように曇る事無く、いつまでも清いままのナルの決意。


「…―――連れ戻す為に」

























「邪魔されるのは興覚めだ」

意識を失った我愛羅を起爆粘土の巨大鳥に捕らえさせたデイダラは、風影を取り戻そうと躍起になっている真下の砂忍達を面倒臭げに見下ろした。

「ノルマはクリアしたし、さっさとずらかるか…いい加減、サソリの旦那も待ちくたびれてる頃だしな、うん」

起爆札が貼られた矢が飛び交う中、デイダラの乗る巨大鳥が里の出入り口へ向かう。


由良隊長率いる警備部隊が固めていたその場所は、既に死体の山で埋め尽くされている。【潜脳操作の術】で失っていた記憶を取り戻したサソリの配下である隊長の由良本人が、自ら全滅させたのだ。


見張り一つない無防備な殺戮地帯へ、デイダラは死体の山を尻目に悠々と降り立った。
途端、待ちくたびれていたサソリが間髪を入れず、デイダラを攻撃する。

「おせぇぞ!!待たせんなって言ったろ!」
頭上を通り過ぎた鎌の如きソレに、デイダラは肩を竦めた。

「坊を見習え!アイツは時間厳守だぞ」
「ナル坊と一緒にすんなっての、うん。結構強かったんだ、コイツ」

捕獲したばかりの我愛羅を、デイダラは顎で指し示す。
彼の左腕の袖が所在なく靡いているのを目に留めたサソリは、ハッ、と鼻を鳴らした。

「片腕一本で済んだなんざ、安いもんだろーが」
「そっちは?」
「バッチリだ!それより止血くらいしろ、見苦しい」

はためく左袖を鬱陶しげに見遣るサソリに、デイダラは「ナル坊に治してもらうから別にいいだろ、うん」と横柄に答える。

「お前…坊に甘えんのもいい加減にしろ」
「その台詞そっくり返すぜ、旦那。旦那だってナル坊に手土産貰ってたじゃねぇか。羨ましいぜ、うん」
砂隠れの里の出入り口での口論は、追い駆けてくる砂忍達の足音で一端途切れた。


「とにかく引き揚げだな、うん。そういや、旦那の部下はどうした?」
「由良なら先に行かせた。お前があまりに遅いんでな」
「サソリの旦那…いつまでも根に持つ男は坊に嫌われるぜ、うん」
「ぶっ殺すぞ」

軽口を叩き合いながら、外套を翻す。
黒地の中心の赤い雲模様が、月下にて異様に赤黒く浮かんでいる。


砂隠れの里内部を透かし見るように、サソリは一瞬肩越しに振り返った。即座に顔を、辺り一面に広がる砂漠へ向ける。それきり、彼が振り返る事は無かった。
背後で爆音がし、悲鳴が聞こえても、彼らは立ち止まらない。


「サソリの旦那のトラップに引っ掛かったようだな…うん」
「当たり前だ。引っ掛かるように作るのがトラップってもんだ」
「そりゃそうだ」

大方、追い駆けてきた砂忍が、死体を不用意に動かしたのだろう。罠として、由良が全滅させた部隊の亡骸に仕掛けておいた起爆札がまんまと爆発したのだ。

爆発音と閃光を背にして、砂漠を這うように進むサソリの傍ら、デイダラは胸元から笠を取り出す。
鈴が連なる笠を目深に被れば、鈴の美妙な音色が鳴り響いた。


けれども、その美しく澄んだ音は、捕らわれた我愛羅を癒す事も、ましてや耳に届く事など無かった。
そして、我愛羅の兄――カンクロウの叫びでさえも。


砂隠れの里を守る為に力を使い果たした我愛羅には、聞こえなかった。
























鼻孔をくすぐる美味しそうな匂い。
暖簾を潜れば、自室に籠っていた澱んだ空気など比べ物にならぬ、香しい湯気が顔にぶつかった。


快活に挨拶すれば、里の人間にしては珍しく幼少期からナルと親しくしてくれた豪快な主人が笑顔で迎えた。
随分会わなかったが、ナルにすぐ気づいたテウチとその娘のアヤメは、にこやかに彼女の帰郷を喜んでくれる。

帰還祝いに奢ってやると豪語するテウチの言葉を遮って「俺に奢らせてくれ」と暖簾の向こうから懐かしい声がナルの背中にかけられた。笑顔だったナルが益々喜色満面になる。
アカデミーの教師であり、自分の存在を認めてくれた初めての相手であるイルカに、ナルは歓喜の声を上げた。


修行でまた一回り大きくなったナルを、イルカは眩しげに見つめる。
ラーメンを嬉しそうに食べる姿は子どもの頃と変わらないので、若干安心しつつも、かつての教え子の成長をイルカは心の底から喜んだ。反面、夢にまで見たラーメンを口に出来たナルの笑顔が曇る。


「不満があるってばよ」と唐突に言うナルに、ラーメンの味に不満があるのか、とテウチがつっかかった。店主の剣幕に、ラーメンに不満があるわけではない、とナルは慌てて弁解する。

いつになく落ち込んだ様子に言葉の先を促せば、今度ラーメンをイルカに奢ってもらうのは中忍になれた祝いだと思っていた、とナルは胸の内を明かした。
同期の皆は中忍になったのに自分だけまだ下忍のままだと劣等感を抱くナルに、イルカが慰めの言葉をかけるも、「…それとさ」と彼女は話し続ける。


「お世話になった相手との、ラーメン一緒に食べに行くって約束も果たせてねぇし…一楽のラーメン最高だから食べてもらいたいのにさぁ」

【口寄せの術】の助言や見舞いの花々をくれたうずまきナルトを思い浮かんだナルが溜息をつけば、テウチは「なんだ、そんなことかい」と豪快に笑った。


「それじゃ、約束の友達とやらが一緒に来た時に、二人まとめて奢ってやるよ」
「ほんとっ、おっちゃん!?」
「男に二言はねぇ!!うちは千年後だって美味いラーメン作ってるからな!」

大げさに語るテウチをアヤメが恥ずかしそうに小突いたが、ナルは喜び勇んで思わず立ち上がった。奢ると言ったのにもかかわらず、イルカに先に言われてしまった手前、今回奢る事が出来なかったのがテウチには少し不満だったらしい。

「おっしゃ――!オレってば千年後も絶対おっちゃんのラーメン食べに行くってばよ!!」
「おう、待ってるぜ!」

店主と教え子の会話を微笑ましげに眺めていたイルカは、ナルから落ち込んだ雰囲気が払拭されたのを見て取って、ほっと安堵する。


改めてラーメンを食べようと、ナルが椅子に座り直す。
その拍子に、ナルの手前の籠から、ゆで卵が転がり落ちた。謝るナルに、テウチは寛容な態度で応える。

「それより、その約束した友達、連れてこいよ。美味いラーメンご馳走するからな!」
「ありがと、だってばよ!オレの好物の味噌ラーメン、そいつも好きにさせてやるってばよ!」
「おう、その意気だ!」

テウチとの会話で盛り上がりつつも、欠けた殻から覗き見えた白が、何かの均衡を破ってしまったように思えて、ナルは聊か「でも…この卵、もったいないってばよ…」としょげた声をあげた。
ほんの小さな綻びから全体が崩壊してゆく、そういった妙な不安感が胸に押し寄せる。なんとなく胸騒ぎがした。


直後、沈んでいた気分を晴らすように、ナルはイルカに向き合った。

「そういえば、砂隠れの我愛羅は風影になったって聞いたってばよ!すっげぇよなぁ!!」

心から感心するナルに反して、イルカは苦笑しながら「…あの子はまた…別格だからな」と聊か含みのある言葉を返した。

その返答が気に入らなかったのか、ナルは顔を顰めて反論する。
自分達とは違う存在のような物言いが、大好きな先生の言葉と言えど、聞き捨てならなかった。

「別格って、なんだってばよ…それだけじゃ、風影にはなれねぇ」


自分と同じ人柱力で、里の人間から忌避されていた我愛羅。
彼が風影という頂点に上り詰めるのに、どれほど頑張ったのか、血の滲むような努力をしたのか。


「頑張って頑張って…皆に認められて―――アイツは『風影』になったんだ!」

他の一般人なら想像もつかないだろうが、ナルには手に取るようにわかった。
自分とよく似た相手だったから。


「オレもアイツのように、頑張って頑張って、もっともっと強くなって…――」

その言葉の先は、言うまでもなかった。
昔から変わらない教え子の夢に、イルカは眩しげに眼を細めた。店内に籠る湯気が眼に沁みた。
























夜が明けた。

砂の水平線から顔を出す朝陽。旭日の輝く東の空を前に、サソリが立ち止まる。

「まさか…ついて来る奴がいるとはな…」


サソリの罠に引っ掛からなかったらしき砂忍に、デイダラは笠の陰で眼を眇める。
そして手土産を貰ったサソリへの意趣返しに、サソリに小声で囁いた。

「『木ノ葉崩し』では砂も噛んでたみたいだし、ナル坊もそいつと接触したかもな、うん」
ピクリ、とサソリの曲がった背が若干盛り上がる。


「その上、旦那の罠に引っ掛からず、ここまで追いついてきたんだったら…坊も認めるほどの忍びだったのかねぇ……うん」

デイダラの言葉は単なる推測だ。『木ノ葉崩し』でナルトが関与した事柄は、一尾と九尾の争い真っ只中で、どさくさに紛れて二体捕縛出来ないかという算段によるものだ、と暁のメンバーは聞いている。事実は異なるが、『木ノ葉崩し』で砂隠れの里が大いに関わっている事は明らかだった。



「我愛羅は返してもらう」
風影を、そして自分の大事な弟を取り戻しにきたカンクロウ。

同じ傀儡師だと即座に悟ったサソリの後ろで、デイダラは、クッ、と口角を吊り上げた。

(傀儡を扱うなら、サソリの旦那の右に出る者はいねぇ…)


それに煽っただけあって、サソリはやる気十分だ。
含みのある笑みを浮かべ、デイダラは鳥の背に飛び乗った。

我愛羅を捕らえる巨大鳥が空へ舞い上がるのを阻止すべく、カンクロウは手を振るう。指に結わえたチャクラ糸が、ピィン、と張った。

「行かせるかっ!」



だがカンクロウの糸で繋がれた傀儡人形は、直後、動きを止められた。
眼の前に立ちはだかるサソリによって。


「…俺は人を待つのも待たすのも好きじゃねぇからな……それに、」

先へ行かせたデイダラを見もせず、サソリはカンクロウを睨み据えた。サソリから生えている、人間とは思えない、妙な尾が傀儡人形を捕らえている。
絡まれた傀儡人形が、カタカタ、音を立てた。


「坊に認められる傀儡師は、俺一人で十分だ」


忍びに加え、同じ傀儡の術を扱う者として、サソリは鋭い眼をより一層冷たく細める。
暁天に、鎌の如き尾が風を切った。




「―――すぐに終わらせる」



























完全敗北だった。
地に伏せたカンクロウは、それを認めざるを得なかった。

痺れる全身。霞む視界。
毒が廻り始めている。
(ち…くしょう…)

追いついた相手との実力差は明白だった。黒地の赤い雲模様。会議で耳にしていた『暁』という組織の一員だとも、解っていた。
このまま命を落としたとしても、深追いし過ぎた自分のミスだ。自業自得だ。
(ちくしょう…ちくしょう…)

けれども、弟を攫った犯人をみすみす見逃すなど、カンクロウに堪えられるはずも無かった。



だって自分は……―――兄なのだから。


(…ちくしょう…ッ!)








「――生きたいか」


不意に、頭上から澄んだ声が注がれた。
対峙していたサソリという男の声ではない。カンクロウは顔を上げようとしたが、痺れる全身では指一本動かす事さえ叶わなかった。

伏せた顔で目線だけを上げようとしても、太陽の強い陽射しがカンクロウの眼を焼く。
足掻こうと引っ掻いた指が砂に塗れ、砂漠に吹き荒れる風がカンクロウの身を徐々に砂漠の一部とさせる。


「もし生きられるなら、お前はどうする?何を望む?」

幻聴かもしれない。死ぬ間際の幻覚かもしれない。熱い陽射しによる陽炎かもしれない。
けれども、何を解り切った事を、とカンクロウは応えた。


「弟を…――我愛羅を助ける…ッ」


カンクロウの心からの望みに、眼の前の陽炎は頷いたようだった。
力を振り絞って視線を上方へ上げると、白いフードがはためいているのが垣間見えた。



「…ならば、弟を―――我愛羅を諦めるな」



暁天を背に、陽炎は倒れ伏すカンクロウに囁いた。
遠のく意識の向こう、我愛羅を連れ去った『暁』の男達とは微妙に違う、鈴の音が聞こえた。




「―――兄なのだから」


やけに切々とした、夢幻の声を最後に、カンクロウはプツリ、意識を失う。
気絶する寸前、毒による苦痛が幾分か弱まった、そんな気がした。


 
 

 
後書き
ちなみに、暁メンバーのナルトの呼び方は、『渦巻く滄海 紅き空【上】』の七十話を、よかったらご覧ください!
次回もよろしくお願い致します!

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧