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漱石より三島由紀夫

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第二章

「漱石は酷いでしょ」
「困った人達でしょ」
「どう考えても」
「あの人は」
「そうしたことをしていても」
 暴力を振るってもというのだ。
「あれでね」
「いいところがあって」
「それでそう言うの」
「困ったところもあるけれどって」
「だって誰でも悪いところがあるじゃない」
 ゆきえの言葉は穏やかなままだった、その言葉で姉達に話した。
「だからね」
「ううん、そう言えるなんてね」
「ある意味凄いわね」
「普通暴力振るうだけでね」
「最低だけれど」
「昔はそれが普通だったし」
 ゆきえもこう言うが彼女の考えは姉達とは違っていた。
「だからね」
「それでなの」
「いいとこともあるって言えるのね」
「漱石みたいな人でも」
「いいところがあるって言うのね」
「私はそう思うわ」
 やはり笑顔で言うのだった。
「それで文学的にもね」
「ええ、漱石はね」
「小説家としては凄いわね」
「吾輩は猫であるとかね」
「坊ちゃんもいいし」
 初期の代表作だ、漱石の。
「こころとかもね」
「あと三四郎とか」
「明暗は未完で残念だったけれど」
「名作揃いね」
 姉達も漱石の作品はよく読んでいる、どちらも大学を出ていて今は働いているがどちらも学部自体がゆきえとは違っていた。末の妹は高校生でまだ漱石を本格的には読んではいない。
「その文学的評価もなの」
「いいっていうの」
「人間としてもいいところがあって」
「ゆきえの中では評価高いのね」
「高いっていうか面白いわ」
 漱石はというのだ。
「あの人はね、困ったところがあってもそれが余計にね」
「いいのね」
「そうした人なのね」
「漱石は」
「ゆきえにとっては」
「そうなの」
「ううん、そう言えるのがお姉ちゃんね」
 妹はゆきえの穏やかで人の長所も短所も受け入れられるところを見て頷いた。 
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