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希望の国

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第九章

「そうします」
「俺も今はじめて知ったよ」
「皆がどうなったか」
「酷い話だな」
「悪い人買いや神父様に騙されて」
「船で話したな」
「はい、このアレクサンドリアにはですね」
「結局何処にもいるけれどな」 
 悪人という存在はというのだ。
「けれどな」
「こんな酷いことになっているとは」
「思わなかったぜ、聖地を目指してそこで幸せになる筈がな」
 希望を以て向かってだ。
「こんなことになるなんてな」
「神は何故そうされるのでしょうか」
「そこまではわからないさ、もっと言えばな」
「もっと?」
「わかりたくもないさ」
 船乗りは苦い顔でニコラスにこうも言った。
「どうしてこんな酷いことになるのかな、しかしな」
「悪人もいますか」
「世の中にはな」
 このことは事実だおtいうのだ。
「だからな」
「こうしたこともあるんですか」
「ああ、世の中悪い奴もいてな」
 そしてというのだ。
「こうしたこともあるんだよ」
「そうですか」
「ああ、幾ら何でも酷い話だからな」
「わかりたくはですか」
「ないさ、それであんたはどうするんだ?」
「帰ります」
 ニコラスは肩を落として船乗りに答えた。
「そうします」
「街にかい?」
「はい」
 彼が生まれ育ち仲間達と共に暮らしていたその街にというのだ。
「そうします」
「そうか、帰るか」
「はい、ただ」
「ただ?」
「皆のことは伝えられないです」
 それは無理だというのだった。
「どうしても」
「そうだろうな、こんな状況になったなんてな」
「あんまりですから」
「わかるさ、じゃあな」
「それならですか」
「あんたが思う様にすればいい」
 そうすればというのだ。
「そうな」
「言えないです」
「言えることと言えないことがあるさ」
 船乗りは前を見ていた、しかしその目に今はいいものを見てはいなかった。
「そしてあんたにとってこのことはな」
「言えないこと、ですか」
「あんた自身が思ってる通りさ」
「そうなりますか」
「ああ、じゃあな」
「はい、帰ります」
 故郷の街にというのだ。 
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