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希望の国

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第七章

「ペーター、ペーターだよね」
「ニコラス?」
 ターバンの男の方も驚いた顔で応えた。
「まさか」
「そうだよ、僕だよ」
 ニコラスは興奮している声で答えた。
「やっとここに来たんだ」
「そうだったんだね」
「うん、ただどうして」
「ああ、今の僕のことだね」
「頭にターバンを巻いているけれど」
「実は改宗したんだ」
 ペーターはニコラスから目を逸らして答えた。
「イスラムにね」
「サラセンになったのかい」
「そうだよ」
「馬鹿な、君は僕達の中で一番信仰心が篤かったじゃないか」
 彼が知っているペーターはそうだったのだ、忘れず筈がなかった。それで隣にいる船乗りにも顔を向けて言った。
「いつも神に祈りを捧げていたんですよ」
「そうだったのかい」
「それがどうして」
「奴隷にされたんだ」
 ペーターは船乗りに必死に話すニコラスに答えた。
「僕も他の皆もね」
「奴隷!?」
「そうさ、僕達は何とかここまで来たんだ」
 このアレクサンドリアまで、というのだ。
「そしていよいよここからね」
「エルサレムをだね」
「目指そうとしたけれど」
 それが、というのだ。
「そこでキリスト教の司教と商人達に騙されてね」
「まさか」
「そのまさかさ、僕達は皆奴隷として売られたんだ」
 このアレクンサンドリアでというのだ。
「そうして十字軍はなくなったんだ」
「そんな・・・・・・」
「僕はこの街の裕福な商人の家に売られてそこでお仕えしていたけれど」
 そうなったというのだ。
「改宗すれば奴隷から解放されるって知ってね」
「それでだったんだ」
「改宗したんだ」
 イスラム教にというのだ。
「そして今では商売の勉強をしているんだ」
「そうなんだ」
「その奴隷として売られた家でね」
 奴隷から解放されたうえでというのだ。
「奴隷だった時も幸いよくしてもらって今じゃ使用人として色々とよくしてもらってるよ」
「それはよかったと思うけれど」
「改宗したことだね、僕が」
「どうして。あんな信仰に篤かったのに」
「僕達は皆キリスト教徒に騙されたんだよ」
 このことからだ、ペーターは言うのだった。
「そして奴隷として売られたんだよ」
「だからなんだ」
「もう絶望したんだ」
 その過去故にというのだ。
「それに改宗すれば奴隷でなくなるから」
「だからなんだ」
「僕は改宗したんだ」
 そうしてイスラム教徒になったというのだ。 
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