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ドリトル先生と悩める画家

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第十二幕その九

「彼は決して絵は下手じゃなかったんだ」
「何でもかなり上手だったのよね」
「芸術のセンスはあったのよね」
「あの時の親衛隊の服デザインしたとも聞いてるし」
「決してセンスがない訳じゃなかったの」
「そう、ただ当時のウィーンの美大の教授の人達のセンスとは違っていたんだ」
 ヒトラーの芸術のセンスはです。
「そうだったんだ」
「そしてその結果なんだ」
「ああして独裁者になったのね」
「画家じゃなくて」
「そちらになったのね」
「今思うとね」
 ヒトラーがいなくなってかなり経ってからです。
「ヒトラーが当時のウィーンの美大の人達とセンスが合っていたら」
「独裁者にならなかったかもね」
「ひょっとして」
「ああしてね」
「画家さんになっていて」
「そうして生きていたかも知れないんだね」
「うん、しかも頭はよかったからね」
 ヒトラーのこのことについても言うのでした。
「美大の教授になっていたかも知れないね」
「どんな難しい本でも読めたのよね」
「ドイツ語だけじゃなくて英語、フランス語、イタリア語も話せて」
「しかも一度聞いたことは忘れない」
「そんな人だったのね」
「だから美大に受かっていれば」
 若しそうなっていればです。
「能力自体はとんでもなかったから」
「大学の教授さんにもだね」
「なっていたかも知れないのね」
「そうなっていたら」
「ドイツはどうなっていたかわからないけれど」
 それでもというのです。
「ヒトラー自身にとってはね」
「よかったかも知れないんだね」
「画家さんになれていて」
「それで」
「そうかも知れないね」
 先生は遠い目になって言いました。
「ヒトラーがしたこともその考えも僕は好きじゃないけれど」
「それでもね」
「確かにそう思うわね」
「若しヒトラーが画家になれていたら」
「あの時のウィーンの美大の先生達のセンスに合っていたら」
「そうも思うよ」
 しみじみとして言った先生でした、芸術のセンスの違いからヒトラーが辿った人生を思うとです。そしてです。
 先生は玄米茶を飲み終えた後でこうも言いました。
「それでだけれど」
「それで?」
「それでっていうと?」
「今日時間があったらね」
 そうだったらというのです。
「また美術館に行こうかな」
「うん、いいんじゃない?」
「学問の為にもね」
「そうしていいんじゃない?」
「今日もね」
「そうしようかな。この大学は色々巡れる場所があるけれど」
 動物園に植物園、水族館に図書館、博物館にです。博物館には鉄道博物館といったものさえあります。 
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